01 違います、姉の方です!
「ご、ごごご、ごめんなさい! 私は神子じゃありません!」
そしてさおりはその場に膝をつき、頭さえ床に。
この国の安寧を歌う神子が――土下座を披露した。
『神子が御実家より帰宅される途中、事故に遭い――片目を失った。』
入院していた病室で、さおりはその新聞を読んで「え?」と混乱していた。
何故なら片目を失ったのはさおりであり――さおりは神子ではない。
神子はさおりの双子の妹の、しおりであるからだ。
しおりは幼い頃に神子となり、お国のものとなった。
十歳にも満たないうちに神殿に預けられたからさおりは妹のことをあまり覚えていない。
ただ、左右の目の色が違い、それにより「特別な子」として神殿に預けられたのだと……くらいしか。
その妹が先日、久しぶりに実家である篠山子爵家に帰宅し――帰りの馬車で事故に遭った。
不幸にも篠山子爵家の家族ごと亡くなるほどの、酷い事故だった。
父親も母親も、双子の姉も。
崖下に落ちて亡くなったという。
唯一助かった神子さまも満身創痍、片目を失うほどの傷を追った――。
そして今現在、右目を失い片目になったのはさおりだ。
しおりではなく。
満身創痍だったのは確かだが、収容された病院の皆様の活躍の甲斐あり、さおりは目以外は無事に回復してきた。
そして――自分が神子である妹と勘違いされていることに気がついて。
医師たちや看護人たちに意識が朦朧としているからだと思われていたのだが、目を覚ましたさおりが何度も「自分ではない」「自分は姉の方」そればかり繰り返すので、彼らも匙を投げたらしい。
そして神殿より確認の者がきて。
彼は神子が目を覚ましたと聞いてもともとこちらに向かってくれていたそうで。
その人は部屋に通されるなり――さおりがベッドから転がり落ちるように床に降りて土下座をしているのに目を丸くしたらしい。
「……何をしているんだ、お前は?」
低く、けれども呆れを込めた声には何故か聞き覚えがあった。少し怒ったようなふうなのは、ベッドから落ちたのかと心配したからでもあるようだ。
そうだ、傷を負って朦朧としているときに「頑張れ」とか「帰ってこい」とか――応援してくださった声だ。
さおりはそのことに気がついて、恐る恐る顔をあげた。
「あ……」
そこには黒髪の美しい男がいた。
着ているのは神殿の護衛士の隊服だ。
「頭も打ったのか……?」
彼は心配そうにさおりの肩に手をおいた。
それに――ひぃっと、さおりは悲鳴をあげてしまった。
男の人がまた驚いたように目を丸くして、その目が鮮やかな緋色であったことにさおりはまた驚いた。
さおりが驚いていることに――彼は何やら傷ついたような顔をした。
「も、申し訳ありませんんん!」
泣き声で頭を下げるしかさおりにはできない。
「はあ……」
そんな様子にあきれたのか、彼はため息をついた。
「……では、神子しおりでないならば、お前は誰というのか?」
「わ、私は姉のさおりでございます!」
ようやく話を聞いてくれる人が。そう思ってさおりは医師たちに告げた自分の名を彼にも。
けれども、彼もまたあきれたように繰り返した。
「頭も打ったのか……?」
と。
創作和風世界です。
「さおり」と「しおり」、果たして…。




