懐かしき校庭、18歳の同窓会
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3月中旬。
場所は俺たちの母校である、市立桜並木中学校の校庭だ。
高校の卒業祝いを兼ねた、桜並木中学3年 A 組の同窓会。
学校から借りた机の上には、テイクアウトのピザやオードブル、寿司、ドリンクなどがたくさん並び、 新しい進路を前にした皆で旧交を温めていた。
大学へ行く者、就職をする者。進路は様々だ 。
そんな中、 ひときわめだつ男がいる。
「オーッ久しぶり!勇輝、お前Jリーグでプロ入り内定したんだって ?!
マジすげーな 。やっぱり、別格だわ 」
「全然大したことねえよ。 プロって言っても、まだ練習生だからな」
会話の中心にいるのは、当時からクラスカースト最上位の、神宮寺勇輝。
爽やかな笑顔、日焼けした肌 。
ざっくりと着こなした、カジュアルウェアがよく似合う。
文字通りの主人公だ。
彼の周りには自然と人が集まってきて、異口同音に「 すげえよ。有名になる前にサインくれよ」などと持て囃していた。
そんな中、 勇輝の横にピタリと寄り添って、
「 応援してるよ!今度 チケット ちょうだいね 」
とおねだりをしているのは、派手なギャルメイクと、露出度の高いファッションに身を包んだ、
橘亜理沙。
こちらもまさに、スクールカーストの女王。
中学を卒業し、 高校生活を経て、より一層綺羅びやかさに磨きがかかっている 。
華やかであり、賑やかでもあり、 傍から見ていても、輝いているのがわかる。
まさに勝ち組の輪。
そこから少し離れた机の端の方に、 俺、多米蒼汰はいる。
手には齧りかけのピザが乗った皿 。
ぬるくなったウーロン茶。
なんとなく誰と話しても会話が続かず、手持ち無沙汰になり、食事に夢中になっているふりをして時間を過ごす 。食べるのは大好きなので、ありがたいと言えばありがたいのだが…
来なきゃよかったかなと、少しの後悔を覚える。
俺は中学校時代からいつもこうだった。
剣道部では万年補欠。成績は中の下。
特技なし。彼女いない歴18年。
多米蒼汰という名前をいじった「ダメそうだ」というあだ名は、当時生徒会長だった山城翔也がつけたものだった。
悪意しか感じないあだ名。
クラスでは一時このあだ名で盛り上がり、散々からかわれた。
でもムキになって否定をすると、空気の読めないやつと思われるような気がして、俺自身も笑ってごまかしていた。
ぼーっと、空を見上げていると、
「汚いな。なんでこんな汚いところでご飯が食べられるんだ!不衛生だと思わないのか」
隣から怒気をはらんだような声が聞こえた。
見ると椅子に座った梶原理人が、 除菌シートで机をこれでもか、これでもかと丹念に拭いていた。
「おいリヒト。そんなに拭いてると机が割れちゃうんじゃないか?」
「 何だ ソウタか。お前は平気なのか? 見てみろこの机、全く清掃が行き届いていないじゃないか。
足には埃の塊が付いてるし、コロナウイルスやら、大腸菌やらが、飛び交って、俺達に攻撃を仕掛けてきているのが、まさか見えないのか?」
「み、見えるわけ無いだろ・・・。お前、全く変わってないな」
リヒトは中学時代から生物部の部長を務め、その異常なまでの潔癖症と、とことんこだわるマッドサイエンティスト的な性格が、非常に有名だった。
今日も白衣みたいな真っ白な服を着て、銀縁メガネをキラリと光らせ、 神経質な目で俺を見ている 。
「僕はね、こんなところに来るつもりはなかったんだ。だが、母さんが『理人がいつも独りでいるのが、心配だ。大学に行っても、馴染めないんじゃないか』って泣くから、しょうがなく出席した。
ホントに母さんに、招待状見つからなきゃ、こんなことになってなかったのに。
こんな食事は拷問だ。飛沫感染のリスク、紫外線による皮膚細胞の破壊、そして何と言っても…」
理人は嫌悪感を露わにして、勇輝たちを指差した。
「あの耳障りな声、軽薄な会話。聞いているだけでIQが下がりそうだ。
奴らに存在意義はあるのか?」
リヒトの毒舌は通常運転だ。
俺たちは「クラスの端っこ」という共通点だけで繋がっている腐れ縁だった。
リヒトは変わり者だけど、俺と違って昔から成績優秀だった。
有名国立大学に受かってるし、論文も発表していると聞いたし…変わり者だけど。
「まあ、そう言うなよ。……あ、見ろよ。富永さんだ」
俺の視線の先。
校門をくぐり、一人の女性が現れた。
富永乃亜。
春の訪れを告げるような、淡いピンクのブラウス。若草色のフレアスカート。ふわりと髪をなびかせ、微笑みを浮かべている。
彼女が現れた瞬間、騒がしかった会場の空気が一変し、静謐に包まれた気がした。
まるでそこだけ木漏れ日が降り注ぐ、清らかな空間にいるかのような、圧倒的な清潔感と美貌。
「うわ、乃亜! 久しぶりー! 超可愛くなってる!」
「元気だった? 乃亜ちゃん、こっちこっち!」
亜理沙たちカースト上位女子が黄色い声を上げ、勇輝や山城といった男子たちが髪を手ぐしで直す。
彼女は中学で生徒会副会長を務め、高校では、国連の高校生平和大使を務めていたらしい。
まさに誰もが憧れるマドンナだった。
俺のような日陰者の陰キャとは、住む世界が違う。
もちろん話したことはない!
「ありがとう。久しぶりだね、みんな。元気だったかしら?」
乃亜は柔らかく微笑んで、案内された席に着いた。
その所作一つ一つが洗練されていて、絵になる。
俺はリヒトと二人で、鉄棒にもたれながら、実際の距離以上に遠くに感じるその光景を眺めていた。
一生、交わることのない光。
彼女は明るい日が差す側の人間で、俺は暗い影が差す側の人間。
その境界線は、ウイルスと同じで、目には見えないけれど、水族館の水槽よりも分厚く、俺たちを隔てていた。
「…ふん。まるで偶像崇拝の対象だな。遺伝子がXXで構成されているところは、皆と一緒じゃないか」
理人が興味なさそうに吐き捨てる。
その時だった。
「おい、TOTO! 早く乃亜ちゃんにピザとドリンク持ってこいよ!」
山城翔也の怒鳴り声が響いた。
中学時代、生徒会長だった山城は、有名私大の法学部に合格して鼻高々だ。
プライドの高さと、自分より弱い立場だと思った者を見下す性格は、さらに悪化しているように見える。
彼が呼びつけたのは、遠山刀真。
昔から機械いじりとラノベが好きな大人しい子で、名前の読みに「とおとう」が含まれているので、それををもじって「TOTO」という酷いあだ名をつけられていた。
「あ、うん……今行く」
刀真は愛想笑いを浮かべ、急いでピザとコーラを富永さんの前に運ぶ。
その背中を、隣にいた中学時代から刀真と付き合っている、北条萌音が心配そうに見つめていた。
彼女もまた何も言えずに俯いた。
「ひでぇな、山城のやつ。高校卒業してまで遠山をパシリかよ。何も変わってないな」
「ヒエラルキーの固定化が見受けられるな。霊長類の群れにおいては珍しくない現象だが…不愉快だね」
リヒトが眼鏡の位置を直しながら呟く。
誰も山城を止めないどころか、亜理沙は、嘲笑うかのような視線を送っている。
勇輝もニヤニヤとしているだけで、積極的に助け舟を出そうとはしない。
所詮、ここは「力のある者」が全てを支配する空間なのだ。
3年前のクラスカーストが、今も強烈に作用している。
俺は胸糞が悪くなって、飲みかけのウーロン茶を一気に飲み干した。
「帰ろうかな…」
リヒトにそう呟いた、その瞬間だった。
——ブゥン、ブゥン。
ゴゴゴゴゴ。
低い重低音が、地面の底から響いてきた。
地震か?
誰かが叫ぶと同時に、校庭の土が、幾何学模様に発光し、光が回転し始めた。
直径五十メートルはあろうかという、巨大な魔法陣。
なんとも言えない紫色の不気味な光が、俺たちの足元を侵食していく。
「な、なんだこれ!?」
「キャアアアアッ! 服が、光ってる!?」
「おい、みんな逃げろ!ヤバいぞこれ!」
「動画だ!動画撮れ!テレビに売れるぞ!」
悲鳴と歓声が入り混じる。
元陸上部の三日月燕などは、皆のパニックをものともせず、嬉々として、スマホを掲げて動画を撮り始めていた。
現代っ子の条件反射だ。
「みんな、落ち着け! 動くんじゃない!」
勇輝が声を張り上げるが、その声も震えている。
数学オリンピックに出場したこともある、藤堂隼人だけが、冷静に腕時計を見て、
「磁場の異常…? いや、こんな現象は報告されたことがないはずだ」
とブツブツ呟いている。
そして、俺の隣のリヒトは——。
「ほう…! これは興味深い!地面が、未知のエネルギー干渉を受けて励起状態にある!
この発光スペクトルは地球上の元素じゃない可能性があるぞ! ソウタ、サンプルの採取を手伝ってくれ!早く!」
「バカ!何言ってんだ?! そんなことしてる場合じゃないだろ!」
俺は興奮して地面を掘り起こそうとするリヒトの首根っこを掴んで、逃げ道を探し始めた。
視界が、光に塗りつぶされていく。
乃亜が、恐怖に目を見開いて怯えているのが見えた。
山城が、腰を抜かして喚いているのが見えた。
刀真が、萌音を抱きしめてしめて、必死に守ろうとしているのが見えた。
そして俺は、唐突に理解した。
日常が終わる事を。
退屈で、理不尽で、何をやっても上手くいかなかった「主人公になれなかった日常」が、音をたてて終わる事を。
転移開始。来たれ。
無機質な人の声とは思えない声が、脳内に直接響き、俺たちは光の彼方へと吸い込まれていった。
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