プロローグ 空腹は死に等しい
こんにちは!
新作はじめました。
完結までお付き合いいただければ、幸いです。
よろしくお願いしますm(_ _)m
*1月12日追記。パソコンの調子がおかしくなってしまい、当分更新頻度をあげられなさそうです。
申し訳ないのですが、2話以降の投稿はゆっくりになってしまいます。
蒼汰の視界に満腹度 4%の表示が出ている。
それは 生命維持の限界を告げる 、悪魔のカウントダウン だ。
スマートフォンとかパソコンのバッテリーの容量であれば、0%になってもシャットダウンするだけだ。
でも、俺にとっては命の危険を感じさせる。
この世界に来て この数字が0%になったことはないけれど、この数値が0になった瞬間、死ぬんじゃないか と十分 予感させるような苦しさだ。
胃袋が収縮して悲鳴を上げている。
「空腹」なんていう生易しい言葉では表現できない。
「お腹と背中がくっつくぞ」という 懐かしいフレーズが、恐怖とともに頭の中をぐるぐると巡る。
だんだん 思考が鈍ってきている気がする 本当にやばい 何とかしなければ⋯
「シュッ⋯シュッシュ」
静寂に包まれた森の中 、日本でよく聞いていた 、懐かしい音が虚しく響いている。
俺のすぐ隣に目をやると、見慣れない大きな木の下で 、膝を抱えてうずくまっている男が、空になってしまったアルコールスプレーを噴霧していた 。
梶原理人。中学校時代からの 腐れ縁でもあり、 親友でもある。
極度の潔癖症。
そして 、この異世界に来ても、その腐れ縁が続いているのだが、 頼りになるのかならないのかわからない男だ 。
とっくに空になったスプレーを、 それでも意地になって、シュッシュしているのがうざったいので、
「おい、理人もう空だぞ」
と親切心で教えてやる 。
俺が声をかけると理人は、メガネをクイッと持ち上げ 、冷たい目で俺を睨み返してきた 。
潔癖症で学生なのに、いつもノリの効いたシャツを着ていた理人。
でも、今着ているシャツは、泥や草の汁で無残に汚れ、 迷彩服のようになってしまっていた。
「いいか蒼汰よく聞け!ここはこの世の終わりのような超不衛生なエリアなんだ 。
どんな有害物質が含まれてるかわからない 胞子や菌糸、見たこともない色をした粘液。
そして 見てくれ、この俺たちの服の汚れ 。この目に見えない菌糸や胞子 、この汚れ。
こいつらが俺たちを蝕んで行くんだぞ! 怖くないのか お前は」
「わかった。わかったよ。でも、もう空だから意味ないだろ?」
「 うるさい !気休めなんだよ。そんなことわかってるんだ。
でも、 プラシーボ効果ってあるだろ?だから除菌させてくれ!
じゃないと耐えられない。発狂して死んでしまう 」
リストは半狂乱で叫び、 再びさらに力を込めて、シュッシュッと 空のスプレーを噴射し始めた 。
その姿を見て 俺はもう何も言えなくなってしまった 。
俺たちは捨てられたんだ。
ほんの2週間前まで、懐かしい中学校の校庭で 同窓会を楽しんでいた。
それが突然現れた魔法陣によって、集まっていたクラスメイト 20人全員、このわけのわからない世界へと転移させられた。
王宮の豪華で、見たこともないような部屋 。
そこで行われたのは残酷な 選別だった。
勇者、 聖女 、賢者や 聖騎士。
RPG のゲームのような華々しい職業を与えられた、クラス カースト上位の連中が、王様や神官たちに歓待され、 本人たちも満面の笑みを浮かべていた。
一方で 俺たち4人は無能の烙印をされた 。
俺、多米蒼汰は「侍」。
理人は「薬師」。
決して悪くない職業のはずなのに冷遇された。
なぜか?
俺たちの視界に現れる情報が、この世界の『神の恩恵』の常識から完全に外れていたからだ。
王宮の鑑定士が首を傾げ、吐き捨てた言葉を思い出す。
『レベルも、攻撃力も、魔力の概念すら存在しない。文字化けしたような意味不明な項目…
これは「職」ではなく、ただの「呪い」だ』
俺の視界にあるのは、戦いに役立つスキルではなく『満腹度』という生存維持の数値だけ。
理人の視界にあるのは、聖なる治癒魔法ではなく『除菌度』や『有機化合物の組成式』という、この世界の人間には理解不能な記号の羅列。
スキルも魔法も使えそうにない。
レベルもない。
王たちにとって、俺たちは『成長の可能性がゼロの不良品』でしかなかったんだ。
そして俺は頭を動かすのもだるい中、 頑張って 後ろの方に視線を移した。
鬱蒼と茂る森の中、その中でも見たこともないような、特に大きな巨木。
その太い幹に寄りかかり力なく座り込んでいる女の子がいる。
富永乃亜。
中学校 高校を通じてクラスの中心にいた高嶺の花。
まさにクラスカースト最上位。
しかし今は、手入れが行き届いていた綺麗な黒髪は、湿気と洗浄不足でボサボサになり 、衣服は汚れ、裾は破けている 。
彼女に与えられた職業は『巫女』だったが、王宮の水晶は彼女の能力値も「測定不能」と示した。
彼女は蹲り、震えるだけで、ここ数時間、一言も発していない。
「富永さん 大丈夫 ?」
俺は声をかけた。
しかし、 冨永さんは下を向いたまま 全く反応してくれない 。
俺なんかが声をかけても反応してくれないのは当たり前か、とネガティブな思いが頭をよぎる 。
勇気を出してもう一度だけ
「大丈夫?」
と声をかけてみる。
すると 冨永さんが
「ううん 大丈夫」
と 力なく答えてくれた。
やはり、ひどく落ち込んでるようだ 。
それも当然か クラスカースト上位で、あれだけみんなにちやほやされていたのに、王宮でひどい扱いを受けて、しかもこんな場所にいるんだもんな 。
蒼汰は内心で独りごちる。
もう一人の女の子に目をやると、耳を澄まして辺りの様子を伺っている。
福島楓菜。
ここにいる4人の中では、一番落ち着いた雰囲気を醸し出している。
職業は「マタギ」だ。
こちらも王宮の水晶では、「測定不能」と出てしまった。
福島さんは中学時代、弓道部だった。
当時は1人でいるところをよく見かけていたので、「クラスに馴染んでいないのでは」と思っていたけれど、 同窓会には参加してくれていた。
福島さんが 、王宮からお情けでもらった、決して立派とは言えない弓矢を持ち、周りを警戒してくれている。
そんな事実に、少し安心している自分がいる。
王宮から追放される際、軍師職を得た藤堂が言った言葉が、脳裏にこびりついて離れない。
『生産性のない人間といつまでも一緒にいるのは、時間の無駄遣いだ。
早めに切り捨てるのが全体としての最適解だよ』
それに同意したクラスメイトたちの、冷ややかな視線。
嘲笑、偽りの憐憫、そして無関心。
(畜生、ふざけやがって…)
怒りが湧いてくるが、空腹が怒りを上回り、思考が鈍る。
俺の視界にあるのは、王宮に残った連中が言っていたような「レベル」や「HP」といった便利なゲーム画面ではない。
ただ一つ、『満腹度』というふざけたゲージだけだ。
ピコン!
また俺の満腹 メーターが1%減って、3%になってしまった 。
いよいよ まずい 気がする。
この1%の差は大きいと、俺の五感が訴える。
理人に
「助けてくれ、お腹が空いて力が出ない」
と訴える。
それを聞いた理人は、
「お前は幼児向けアニメの主人公か」
と心底呆れた風でありながら、隠し持っていた最後の角砂糖一粒を、俺に分けてくれた。
う、うまい。
うますぎる! こんなにうまいもん食ったの初めてだ。
包み紙まで、ベロベロときれいに舐め取る。
満腹メーターが2%も回復して、5%になり、赤く点滅していた視界の隅が、オレンジ色に変わった。
「 ありがとう理人。命の恩人よ。 本当の親友ってお前みたいなやつのことを言うんだろうな」
「 都合のいい時だけ 親友か?」
「そんなんじゃないよ。 昔から親友だと思ってるさ」
昔のノリでじゃれ合う元気が出てきた気がした。
と、その時。
福島さんが、
「し、静かに」
「向こうの草の葉の揺れ方が不自然よ」
と、何かの気配に気がついたかのように、警戒した声を出す。
敵か?
全員に緊張が走る。
前方 20m ほど先に、角を持った大型犬ほどのうさぎが現れた。
角うさぎだ。
凶暴そうなので、確かに怖い。
だが、腹の減っている俺には、まるまると太っていて、食べごたえのある美味しいお肉にしか見えない。
角うさぎはこちらの存在に気がつくと、「フーッフーッ」と唸り声を上げ、
臨戦態勢になる 。
理人が、小声で
「やるぞ」
と、皆に声をかける。
「俺が囮になるから、福島さん弓でうさぎを射ってくれ。そしてひるんだところを、蒼汰お前が頼りだ。
錆びちゃってるけど、その剣で何とかしてくれ!」
「富永さんは、もし誰かが怪我をしたら、あの岩の死角まで連れて行ってくれないか。
あいつをやれなければ、俺たちは飢え死にする。ここが勝負どころだ!」
普段の理人から全く想像できない 真剣な声音。
福島さんも富永さんも俺も頷く 。
「いくぞ」
理人は 小さく 掛け声をかけると、勇敢に角うさぎに向かって行った 。
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