工場見学
上を向いて歩く。雨水を飲みながら歩くのだ。
味、分からん。
ただなんか、しっこ系の臭いがする気はしてる。キモい世界だ。
「おい」
後ろからの声に振り返るも、そこには何もなかった。
周りを見渡す。いない。
待つ。出てこない。
ということは⋯⋯幻聴ということになる。あまりにもハッキリと聞こえた。バリバリの幻聴だ。
ああ。独りだとこんなに寂しいのか。こんなに寒いのか。こんなに⋯⋯面白いやり取りが発生しないのか。
あーあ、どーすっかな⋯⋯
「おい君」
しゃがみ込む俺の肩を誰かが叩いた。この声からしておそらくその人はガタイが良くて、白い毛の混じった髭を生やしてて、上裸なのだろう。と思って顔を上げるとちっちゃいおばあさんがいた。上裸しか合ってなかった。声低いなあ。
「行くとこないのかい?」
「はい、実は仲間に裏切られて、殺されそうになりまして⋯⋯」
「なんてこったい! よく無事だったねぇ」
「なんか『パンティーが濡れる』とか言ってどっか行ったんで、助かりました」
「それは大変だったねえ⋯⋯」
「はい」
「どうじゃね君、うちに来んか?」
「あなたの家に? いいんですか?」
「いや、工場じゃ。うちで働いてみんかと思ってな」
「ちっちぇーババーの工場で?」
「ちっちぇーババーの工場で」
「とりあえず体験だけ」
「よし、ついてきなさい」
ババーの後ろをついて行くと、ザ・工場な工場があった。こんな森の中に工場があるなんて⋯⋯
「入れ」
なんか囚人になった気分だ。
工場に入ると、10人くらいの男性が集まって輪になっていた。
「お、もう6時か」
それを見たババーがそう言った。
何が始まるのだろうか。ご飯とかかな。小休憩的なのかもね。
と思っていたら、男性たちがズボンを下ろした。色とりどりのチンコが現れる。いったい何が始まるんだ⋯⋯?
と思ったらみんなポッケから麺出して置いたわ。ジジイだけじゃなかったんだ。
ていうか、会社でもやってんだね。餌やりタイムがあるのね。キモ。
「みんな儀式中悪いけど、ちょっと集まって!」
「もう集まってます!」
「そうだそうだ!」
「集まってるのに集まれって言われたァ!」
「どう見たら集まってないように見えるんだ!」
めっちゃ怒ってる。
「この子なんだけど、今日からここで働く新入りの⋯⋯そういえば名前聞いてなかったわ。自己紹介してくれる?」
「自己紹介⋯⋯」
「どうした? ちっちぇーババーの工場はイヤか?」
「いや⋯⋯」
どうしよう、名前分からん。
なんで俺、今まで不思議に思わなかったんだ? 元の世界でどうやって生きてた? もしかして俺、名前ないのか⋯⋯?
『ない』
あ、神様だ。
『神』
神だ。
無いんスね。
『ない』
了解っス。
「大丈夫? 自己紹介出来ないかな⋯⋯?」
「名前はありません」
「え?」
「俺、名前がないんです」
「名前ないやつ働かせられるか!!!! 出てけ!!!!!!! どアホ!!!!!!!!!!」
「マジですか」
「マジですよ!!!!!! ちっちぇーババーの工場は名前のある人しか働けません!!!!!!!! さよーなら!!!!!」
「さようなら⋯⋯」
ということで、また森を歩く。
それにしても、めちゃくちゃ怒られたな⋯⋯
寒い。真っ暗。どうしましょ。




