人参だって恋をする
耳が居なくとも俺の人生は滞りなく回っていた。
紅茶を飲む(という妄想をする)。
飲みながら、本を読む(という妄想をする)。
良い朝だ(という妄想をする)。
人参が歩いてる。
⋯⋯本当に歩いてる!!!???
驚きすぎだろって思われてるかもしんないけど、カブトムシとか耳とかって思いっきり生命だからまだ許せたんだよ。全然許してなかったけど、1%は許してたんだよ。でもな、人参が歩いてちゃダメだろ!
「なに見てんだよ」
この世界の人外は見てると怒ってくるんだな。
「人参が歩いてちゃダメだろって思って」
「そうか、仲間にしてやってもいいぞ」
「話聞いてた?」
「聞いてなかったけど?」
「なんで人参が歩いてんの」
「今日からおれ達は仲間だ!」
「話聞かなすぎじゃない?」
「どうせ色の悪口とか言ってんだろ? 俺からすると緑も大概だからな。あいつら多いから見慣れられてるけど、緑はやばいって。緑ておい」
「確かに、青は変なのに緑は大丈夫ってのも変な話だもんな」
「そうか? 緑はたくさんあるけど、青はブルーハワイとブルーベリーくらいじゃね?」
「お前、なんなの?」
「人参だけど」
「人参ってこんなつまらないの?」
「いや、おれ個人がつまらんだけ」
「見栄とかないの、ちょっとかっこいいかも」
「よし、じゃあ、ついてこい!」
「え?」
「えじゃないよ。おれたちもう仲間だろ?」
仲間っていうより子分にされてる気がする⋯⋯人参の子分ってやだなぁ。
「でも、行くってどこに?」
「魔法の修行をして、魔族を倒して、魔王を倒すんだ」
「なんで?」
「なんでもなにも⋯⋯なんでだ?」
「いや、知れよ」
「知っとけよ、だろ?」
「理由もないのにそんなことしたくないよ。特に魔族と魔王。殺される未来しか見えない」
「なに!? お前、未来視が出来るのか!?」
「出来ないです」
「昨日宝くじ買ったんだけどさ、これ! 当たるかどうか教えてくれよ!」
「ほんとに話聞かない人だな⋯⋯人参だな」
「この番号! 当たる? 外れる? どっち!!」
「もし俺が未来予知出来たとして、当たるか外れるか聞いて楽しい? 普通当たりの番号を聞いて買いに行くだろ」
「そんなのズルじゃん」
「なんて素晴らしい人間性なんだ」
「惚れた?」
「惚れてはない。普通にアスパラとかの方が好き」
「はぅあ!」
「人参!?」
「しゃっくり始まった」
「しゃっくりかよ。てことは横隔膜あんのかよ」
「100回したら死んじゃうんだよねこれ」
「そういうのどうやって知るんだよ人参が」
「たしか母ちゃんだったはず」
「人参が人参にしゃっくりの迷信教えてんだ」
「迷信じゃないぞ! おれの親戚はこれで全員死んだんだ!」
「だとしたらもっと焦れよ」
「あと母ちゃんは人参じゃないぞ」
「えっ」
「人間だぞ」
「父親は?」
「人参」
「人参と人間の子どもって人参なんだ」
「人参は人参だけど、おれはこうして歩いて喋ってる。人参と人間の間で合ってるだろ?」
「ほんとだ、合ってる」
「じゃ。おれソープランド行くから」
「え、修行は?」
「あれは普通に嘘。神様がいるのに魔族とかいるわけないじゃん」
「確かに。人参って嘘つきなんだね」
「いや、おれ個人が嘘つきなだけ」
「カッケェ⋯⋯」
こうして人参と別れた。
人参はなんか逮捕されてた。
さっきの警官に。
なんの容疑か分からないけれど、理不尽に捕まり、連行された。俺が元いた世界でも誤認逮捕はあったし、なんなら捏造で捕まえることもあった。冤罪なのに自白を強要し、問題になった。でも、その度にだんまりを決め込んで時間が過ぎたら無かったことにしてる。
プルルルルルルルル
電話だ。俺は歩いていた女性のカバンに手を突っ込んでスマホを取り出した。
「もしもし」
「お前の娘を預かった。返して欲しければワンピースとブリーチを全巻用意しろ」
「ナルトは?」
「ナルトは持ってる。ドラゴンボールもある」
「そか」
「それではさらばだ。良い返事を期待しているぞ」
「うん、じゃあね」
終了ボタンを押して、女性に手渡した。
「話は聞かせてもらいました。私の娘が誘拐されているようですね! 今から神本屋に行きましょう!」
「はい! 行ってらっしゃい!」
「行ってきます!」
女性は走り出した。
俺はまた1人だ。




