天国へのエスカレーター
かれこれ45分、俺はエスカレーターを昇っている。なんで時間が分かるのかって? それは毎秒誰かが時間を言ってるからだ。2700回以上同じようなことを聞かされた俺はノイローゼになっていた。うんこしたい。
エスカレーターから見える景色は、それはそれは地獄だった。地獄から出発したっけ? となるくらいずっと鬼の足元にいる。どれだけエスカレーターで昇っても鬼の膝にすら到達しない。こんなにデカいのかよ、地獄の鬼って。
あ、こっち見た。間違えて俺を踏み潰したりするなよ? って言ったらフラグになっちゃうか。前言撤回で。
「おい、そこの人間」
喋った!? 声デッカ!
「天国へ行くのか?」
「はい!」
「ん? どっち?」
「はい! 天国に行きます!」
「すまん、もっと大きな声で言ってくれるか。天国に行くならつまんで上の方に置いてやろうと思うんだが」
「お願いします!!!!!!!!!」
「⋯⋯すまん、聞き取れん。仕事に戻るから、さっきの話はなかったことにしてくれ」
「そんなぁ!」
やっぱりこんだけ遠いと聞こえないんだな。目はめちゃくちゃ良いみたいだけど、さすがに豆粒みたいな俺の声は聞こえないか。
でもよく考えたらこれでよかったのかも。こんな距離つまんで移動させられたら風圧でボギャン!ってなりそうだもんな。
「6時12分17秒6時12分18秒6時12分19秒6時12分20秒⋯⋯」
まだ1時間も経ってないのか。このエスカレーター2列だし、楽な体勢で寝ちまうか⋯⋯
よっこらせ。
『黄色い線を踏まないでください!』
脳内に直接!? 神の人とは違う声だ⋯⋯いったい誰グォガガガ!?!?!? やばい、服がひっかかった!
『ほれみよ! 言わんこっちゃない!』
ごめんなさい! とりあえず助けて! めちゃくちゃ痛い! キンタマも挟まれてる! 女の子になっちゃう!
『棒が残ってても女の子なの?』
そういうのいいから助けて! ヤバい! ああ! アーーーーーームカバァーーーーーーーーーーーーー!!!!
『アームカバーって言った?』
分からん! もう必死すぎて自分でも何言ったか分からん!
『まあ、エスカレーターで黄色い線踏むような奴がどうなろうとオイラは知ったこっちゃないんで、これで失礼してマック行ってプール行ってコンビニでアイス食べて帰るね』
小学生の夏休み?
ギャアーーーーーーーー!!!!
ヤバーイほんとに引き込まレールーン!!!!!!!
「捕まりなさい」
「あ、あなたは! ていうか漢字間違えてますよ!」
「掴まりなさい」
「ありがとうございます!」
俺はその男の手に掴まった。
「おりゃあ!」
ぶちぶちぶち! と服とズボンとパンチーが破れて、俺は助かった。
「ありがとうございました。あなたは命の恩人です」
「ああ、無事でよかった」
緑色の着物に緑色の帽子。そして、このオーラ。この人、もしや⋯⋯
『世界一キモい男!』
あ、さっきの声だ。世界一キモい男って俺のこと?
『バーサス!』
バーサス!? ここはエスカレーターで、俺は全裸だぞ!?
『茶聖・千利休!』
やっぱりそうだったんだ!
⋯⋯バーサスって言ったよな?
「君が世界一キモい男だったか⋯⋯仕方ない、死合おうぞ」
!?
『バトル開始!!!!!!!!』
久しぶりに聞いたなぁ。




