キモ病院
熱を測ったら45度だった。確かに咳も出るし喉も痛いし、関節が痛だるいし目もほとんど見えないし意識もかなり朦朧としてるし毎分ゲボしてたんだよなぁ。
病院、行くか。
と思って近所のクリニック来たら潰れてたよ!
てことで市民病院来たけどここも潰れてるよ! 市民病院って潰れることあるんだな! ビックリだよ!
仕方ないから他の病院も行ってみたけど、全部潰れてる。休みとかじゃなくて、完全に廃病院になってた。
なにこれ? ドッキリですか? 死にかけで毎分ゲボしてる人間に仕掛けるドッキリか?
意味分からなすぎてググってみたところ、先々週オープンしたキモ病院っていう病院のせいで客足が完全に0になった市内の病院が全部閉院したらしい。この記事もドッキリか? 病院の名前がヤバすぎるしルビが逆だし、こんなキモそうな病院のせいで客0になる他の病院もなんなんだよ。
と思ったが調べてみると本当にそうなっていたらしく、全国的に報道されまくっていたそうだ。昨日まで起きてる間ずっと仕事してたからニュースに気づけなかったんだな⋯⋯
少し遠いが、さすがにこんな体調をほっとくわけにもいかないので、しぶしぶ行ってみることに。
ドデカい。確かここはコストコとAmazonの集荷センターと競馬場と東京ドームと東京ドームがあったはずだ。あれらを全部潰してキモ病院を建てたのか⋯⋯?
あ、上の方の真ん中に「キモ」って書いてある。すごい看板だ⋯⋯
こんなキモそうな病院、本当に大丈夫なのか? 新築のくせに汚かったりして。名前からして衛生管理できてなさそうだもん。あーキモ。キモっ。なんならこれでキモくなかったら詐欺な気さえしてきた。キモくあれキモ病院。
自動ドアを抜けると、そこには真っ白な空間があった。掃除を徹底しているであろう壁や床、カウンターの裏側にまでライトが当たっていて影すらできていなかった。
「こんにちは、ご予約されてますか?」
受付の女性が声をかけてくれた。思わずこちらもビシッとしてしまうほど整った姿勢に、アナウンサーのようなしっかりした発声だった。
「いえ、初めてでして⋯⋯」
「さようでございますか。それでは⋯⋯あっ。その前に、ちょっと失礼ですがそちらのマスクはおうちから⋯⋯?」
「え、あ、はい? 家でつけてそのまま来ましたけど⋯⋯」
「でしたら、こちらで清潔なマスクをご用意しておりますので、持ってまいりますね」
女性はそう言うと席を立ち、裏へ歩いていった。
まさかここまで徹底しているとは。キモ病院という名前とは真逆じゃないか。
「お待たせいたしました。そちらのマスクは取っていただいて、こちらで完璧に処理します」
「分かりました」
マスクを外し、ここのものと交換してもらう。受け取ったマスクは心做しか生あたたかった。広げて装着すると、口のところが少し濡れていて、カラオケのマイクみたいな臭いがした。
「あの、これ濡れてるみたいなんですけど」
「ああ、そちらは当院特製の消毒液になります。害はないので乾くまで今しばらくお待ちいただければと」
良い消毒液ってクサいのか⋯⋯普通のお店の入口にあるアルコールとかしかつけたことないから分かんないや。
それにしても、全然乾かない。マイク臭いのも変わらないし。キモ⋯⋯
「診察券を発行しましたので、こちら保険証と一緒にお返ししますね」
「ありがとうござい⋯⋯あれ? 保険証渡しましたっけ?」
「油断してらっしゃったのでスらせていただきました」
「えっ怖」
「キモくないですか?」
「キモくないです、怖いです」
「さいですか」
「さい?」
「では、こちら9997番の番号札を持って待合室で立っててください」
「立っ⋯⋯」
待合室に行くと、椅子がひとつもなく、みんな立っていた。こんなでっかい病院なのに⋯⋯というか、病院で椅子なしって見たことないんだけど?
「9997番でお待ちの方〜」
えっ俺? じゃあこの人たちなに?
「9997番の方〜」
2回目の呼び出しのタイミングで、患者全員が一斉にこちらを向いた。
照れるな。あんまり見られると。
診察室に入ると、めちゃくちゃ普通のおじさんの先生と看護師の女性がいた。
「キモ風邪だって?」
俺が座るやいなや先生がそう言った。
「キモ風邪⋯⋯?」
「異常な発熱、毎分のゲボ、それだけでキモ風邪と言い切れる」
「症状の説明してないんですけど」
「冒頭で言ってたじゃん。ちゃんと読んでっから」
「さすが最新の病院ですね」
「まあね。じゃ、お薬出しときますね〜」
フガッ( 'ω')
なんだ夢か( 'ω')
俺は、孤独だ⋯⋯




