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別れの愛

作者: レチー茶

「もう行ってしまうのね」


「ええ、そろそろ電車が来るので…行ってきます。俺、頑張りますから」


霧雨の早朝、駅前の改札前で体に合わない大きな荷物を背負って彼は微笑む。彼は地元から離れ、上京するらしい。私は貴方のその顔が嫌いだ。呪いの言葉を吐かず、それが私のためだと言わんばかりに。そんなこと求めてさえいないのに。


「最後くらい言葉はないの?私を置いていくのにさ」


「…ありがとう。君がいたおかげで俺は胸を張って前を向ける」


何ともありきたりで、平凡な言葉。そんな言葉は貴方の本心じゃないはずなのに。こんな時ですら仮面を被って演者になる。


「私から離れるのだから、絶対に夢を叶えて戻ってきてね」


「約束する。必ず戻ってくるよ」


「だから…」


「……」


「…君が幸せで…いてほしい。俺に縛られず」


バチンッ


私は彼の頬に思い切り平手打ちした。左手がじんじんと痛むのを感じる。


「嘘ばっかつかないでよ!そんなこと思っていないくせに!本当のことを言ってよ!」


「俺は…俺は…」


頬に手を当て口を開けたままの彼は暫くの沈黙の末、一筋の涙を流し、空いた口を閉じないまま叫んだ。


「ずっと俺を想っていてくれ!他の男と幸せにならないでくれ!」


あぁなんとも情けない、男が廃る。でも…それでもそんな貴方がとても愛おしく思う私は同様に愚かなのだろう。


私は貴方の肩を手を回し、そっと唇に口づけを交わした。塩っぱさと甘さが広がるそんな青春の味だった。


暫く抱き合った。互いの顔を見つめ合った。その一つひとつがフィルムのように私に刻まれていく。


「どうしても…行ってしまうの?」


「そうだ。行かなければならない」


「そっか…」


「私、ずっと待ってる。だから私をお嫁さんにしてねっ!」


「…あぁ必ずや君にウエディングドレスを着せる」


高らかに宣言し、貴方の方から今度は口づけを交わした。少し驚きながらも私はそれを受け入れ、貴方を少しでも感じて、忘れないように。


「愛している。行ってくるよ」


「私も愛してる。行ってらっしゃい」


互いに微笑みながら、貴方は背を向け、遂に改札口を通っていった。知らなかった。貴方の背中はこんなにも逞しかったのね。私が馬鹿みたいじゃない。前を向く覚悟さえまだできていないというのに。


離れた繋がりの愛なんてかえって毒だということを貴方は、知らないのでしょう。

でも貴方を愛さずにいられなかったから。それが私の罪として、いつまでも待つわ。


小粒の雨に頬を濡らしながら、私は帰路へ…いや私の帰りたい居場所は私の手から離れた。


あぁ…行かないでよ

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