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同居人  作者: 杠秋星
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八、書庫に潜む怪異の話・其の参

「てゆーか、図書館に幽霊ってあんまりない組み合わせだよね」

 拓は、つまらなそうに呟く。先程から三十分以上待たされているからだろう、眼がだんだん細くなってきている。

「幽霊かどうかはまだ分かりませんよ、妖怪の可能性も」

「だったら俺ら出番ないじゃん! 茉莉だって骨折り損でしょ~」

「妖怪かどうかも分からないじゃないですか。まったくこのガキは」

「素が出たよ、茉莉」

「………まだ、ミズキ起きないね」

 やいやいやっている拓と茉莉の横で、ぼそりと瑠璃が呟く。床に倒れている水晶の口から何か白いものがふわふわ出ている。

「ミズキ死んじゃったら困るかな? 困るよね?」

「なんで疑問形なんだよ、拓」

「だってミズキが死んだこと、今まで無いから」

「確かに無いな」「当たり前だろ」

 さらりと人外共に突っ込み、生絹は軽やかに書棚の間を飛び回る。彼女の手には、数冊の本が既にキープされていて、いつの間に抜き取ったのか水晶の図書カードで借りる腹づもりらしい。

「こんな大勢でいても、幽霊だか妖怪だかも出てきにくいだろ。拓、外へ出るぞ」

「ヤダ!」

 一番怪異の追っ払いに貢献している拓の首根っこを掴み、嫌気がさしたといった表情で頭を押さえる征樹。彼も苦労が絶えない。いっそどこか遠くの街へ置いてこようか……と昏い眼をする。

「でもそこまで悪霊じみた魂の気配はしないので、どうぞお好きに出て行っても大丈夫ですよあなた方は。役立たずはいりません」

 無表情で毒を吐く茉莉に、拓は手足を振り回す。

「いーやーだー、俺は都市伝説の真相を、真相がぁ……」

 本格的に騒ぎ出した拓の、サイレンのような叫びがみるみる遠ざかっていく。しばらく行ったところで、突然「ゴキッ」という音と共にその超音波は止んだ。

「……なにやったんだろうね、征樹は」

 優しい瑠璃の言葉を爽やかに無視すると、茉莉は生絹の方に顔を向ける。

「で、その久遠さんや水際さんといった方々からの情報によると、現れる影は人型―――なのでしたね」

「ああ。逆光で顔は見えないらしいがな」

 はてさて、さては付喪神かと呟く茉莉はさておき、生絹は唐突に書棚巡りをやめ、つかつかと足音高く歩み寄り――――――――蹴った。

 何を? 勿論水晶を。

 人間の頭蓋骨と革靴の裏が激しくぶつかり合う音がして、水晶の体は派手に吹っ飛ぶ。

「いつまで床と仲良くしているつもりだ、そろそろ起きろ」

「いや、これ色んな意味でまた深い眠りに堕ちちゃいそうじゃないですか? 昏睡通り越して永眠しちゃいそうな勢いで蹴りませんでした今?」

「この事件を解決してから冬眠でも昏睡でも永眠でも好きなことをしろ」

「いえあの、永眠の意味分かってます?」

 あの茉莉(ボケ死神)に突っ込ませるとは、生絹もなかなかにぶっ飛んだ人格だ……と、思案する瑠璃。

「………あれ、川は? さっきまで目の前に広がっていた川は?」

「しっかりしろ水晶!」

 がくがくと水晶の肩を掴み、揺さぶる征樹。って、

「あなたいつの間に帰ってきたんですか?」

「ああうん、図書館の外に運よく太い樅の木があったから、拓を縛り付けて戻ってきたんだ」

「世間ではそれを虐待といいます」

 生絹は、水晶の髪を掴んで無造作に引っ張り起こす。ぶちぶちっと、髪の毛が幾本か抜ける音が聞こえた。

「そろそろ出てくると思われますよ」

 何やら、壁に指先で変なものを描いていた茉莉が、こちら側に向き直り言う。どうも、その何者かと交渉でもしたのかもしれない。

「ちょっと禁をかけてやれば、多分」

 無理やり追い出すらしい。

 ゴリ押し交渉術。というか没交渉術。

「分かった。じゃあ、水晶、貴様前へ出ろ」

「は…あ!? なんで俺が……」

「死神は、人外との交渉は向いていません。普段私たちが交渉しているのは生きている人間と死んだ人間ですしね」

「ぼくも、ちょっと無理」

「俺は悪霊退治専門だから」

 三人から三様の否定を一手に受け、うっと詰まる水晶。さらに、畳み掛けるように生絹も言ってくる。

「地球と仲良くしていた貴様を階段下から運んだのは誰だと思っているんだ? 私と、そこの茶髪だ」

「いや俺の名前は征樹……」

「知るか。どうせ本名じゃないんだろう」

 桜庭生絹は暴言を吐いた。

「というわけでだ。その御恩に報いるために貴様如きでも奉公はできるだろうが」

「俺は御家人か!」

「頑張れ」

 無茶言うな!

 と言いたかったらしい水晶だが、その声を突然呑み込んだ。

 ぐっと、むしろ、喉が声を出すことを拒否したかのように言葉に詰まり、唾を嚥下して、もう一度口を開く。

「生絹……後を見ろ」

 何の躊躇もなく振り返った生絹も、さすがに絶句した。否、予想できていたからかもしれないが――――とにかく、声は上げなかった。

 茉莉は、眉をわずかに持ち上げただけだった。瑠璃は、別段なんの反応もしなかった。ただ、猫らしく、一瞬だけ髪が逆立った。征樹は、すっと眼を細めて、それを見た。


 まっくろな人影。

 明るい外の光を背に受けて、それはぼうっと立っていた。


 どがっ!

「ほら行け碧海! 貴様の度胸を見せてみろ!」

「ぐあっ」

 背中に、物凄い衝撃がきた。具体的にいうと、固い革靴の底が背骨にクリーンヒットした。

「案ずるな、死んだらこの茉莉が速やかに成仏させてくれるそうだ」

「安心してくださいね、閻魔様だってどこまで鬼じゃありませんから」

「そうそう、怪我したら救急車が来てくれるように俺がおまじない唱えてやっから」

「普通に電話で呼べや!」

 征樹のトリッキーな言動に突っ込みつつ(他の二人はもう無視する)、水晶は一歩、踏み出した。

 逆光になっているから、というだけの理由では、到底あり得ないほど黒いその影は――――――その行動に対して、

 真っ赤な口を開いた。


「………… あ な た は だ ぁ れ ?」

 …………。

 最後がなんか安っぽいホラー漫画の終わり方みたいな………

も、申し訳ありません、できるだけ早く次話は投稿します! しますので、あ、石を投げないでー! 前回の混沌会話の答え合わせも、次は、次は必ずー!

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