四、客人によって齎されし厄介事の話
「……で?」
俺は、非常に感情を抑えた機械的な声で尋ねる。誰に? もちろん招かれざる闖入者に。
「怖いよ! ミズキが怖いよー! いつもに増してオーラが黝いよー!」
ちょっと待て、黝いってどんなオーラだ。つか俺は今までになく半端ないくらい感情を抑え込んでいるんだが。
「……彼岸桜と瑠璃茉莉に、伝達事項があって参りました……」
首をこきこきいわせながら、酷くしんどそうに言葉を絞り出す雛罌粟。顔色が悪く、特に右の頬なんてマジに青紫色だ。
「水晶、それは君が殴ったからではないですか?」
醒めた眼で俺を見る死神。
「彼岸桜、君そろそろ戻ってきてくんない? 交代の時期もうとっくに過ぎてんだけど。まあ確かにさ、案内人とか煉獄絶賛人手不足だし、ぶっちゃけ助かるんだけど……君さ、仕事は有能だけどね、いかんせん要らん騒動とか起こし過ぎなワケ。征樹いなかったら君とっくに謹慎どころじゃすまないコトやってるよ? ただでさえ、征樹の時だって……」
そこで、どうしたのか唐突に口を閉じる雛罌粟。こほん、と咳をし、また口を開く。
「まあね、どうしてもこっちの仕事がいいってんならボクから掛け合っておくけどね。君は閻魔様のお気に入りだし。でも、幽霊とか妖怪とか、フツーの人間の家とかに連れ込むのやめてくんない? 残った瘴気とかの始末めんどいし」
気怠げに肩を叩き、はあっとため息をつく雛罌粟。征樹が用意した麦茶をごきゅごきゅと一気に飲み干し、今度は茉莉の方に顔を向ける。
「『瑠璃茉莉、君さ、難のある魂ばっか持ってき過ぎ。確かに力はあるだろうけど、制御不能な暴れ馬なんて困るだけじゃん。何、それともさ、君が責任持って教育してくれるわけ? もうちょっとマトモなのいないの?』…by閻魔様、だそうで」
「ちょっと待ってよ! とにかく質のいい魂、って注文つけたのは誰だと思ってんのさ! 大体、神に抜擢されるなんて魂の持主、ロクな性格のがいないに決まってんじゃん! 現に……ごはぁっ!」
「よーしいい子だそのまま大人しく逝け」
襟首に手をかけ、そのまま締め上げる。瑠璃が泡を食って止めに入ろうとしたが、蹴って吹っ飛ばす。
「人に勝手に魂奪うっつー契約取り付けておいて、ロクなのがいないって? 現に……の後何言おうとした?まさか俺を引き合いにだすつもりじゃなかろーなー。 死ね」
「ちょっと待って何今の間! なんか無性に怖ぇよ!」
「まあまあ落ち着いて、ここは広辞苑で勘弁するってのは」
どことなくズレた仲介に入る征樹の首もついでに締め上げてみる。
「………(すいませんすいませんもうしませんたすけて)」
口をぱくぱくさせて無言で許しを乞う征樹。茉莉はもう既に意識がない。気がつくと拓の姿が消えていた、相棒を見捨ててどこかに隠れたらしい。
……まあ、あとで殺ればいいか。
このあと、俺の家に断末魔の叫びが響き渡ったのは言うまでもない。