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10/20

初めての恋バナ、効いてるっぽいですローザ先生

 よしっ!

 翌朝、私は心の中で小さく気合いを入れてから教室の扉を開けた。


 ミナとフローネはもう来ていて、2人の顔を見たとたん、心臓がドクンと大きく跳ねる。

 

 いつもどおりに挨拶した……つもりだったのに。


「……おはよ〜〜っ……!」


 裏返った。めちゃくちゃ裏返った。

 ミナが目をぱちくりさせてこっちを見る。


「え、なに? 風邪?」

 

「リシアちゃん、のど、潤したほうがいいですわよ?」


 フローネがそっと水を差し出してくれた。

 ……ありがとう、優しさが刺さる。


 だめだ、落ち着け私。今言うんじゃない。朝はダメ。絶対ムリ。せめて、お昼……お昼になったら、ちょっとはマシになってるかもしれない……。


 私は机にカバンを置いて、小さく深呼吸した。

 ……お昼に言う。ちゃんと、言んだから!

 

 

 

 昼休みは、2人を中庭に誘ってみた。

 

「た、たまには外で食べるのもアリだよね〜!」

 

 とか言って、ミナとフローネを誘った私の声は、たぶんワントーン高かった。絶対変に思われてる……気がする。いや、気のせいであってほしいけど!

 

 私たちはベンチに三人で並んで座った。そよ風に草の匂い、ぬるい陽気。……なんかもう、空気がほんわかしすぎてて、逆に言い出しづらいんですけど!? 


「ふふ、中庭って、意外と落ち着きますわね」


 フローネがハーブティーを上品に飲みながら、まったりした声で言う。


「ねー、たまにはいいよね〜。あ、リシア、タマゴ焼き食べる? 甘めだよ〜」


 ミナがにこにこしながら、お弁当の蓋にタマゴ焼きを乗せてくれた。ありがたく受け取ったけど、正直、いまは味なんてよくわかんないと思う。


 だってさ……


 今から言うんだよ?

 気になる人がいるって。私が、恋をしてるって。私が! しかも、あのセレク君にって!


 ——っていうか、自分でも「お前じゃ無理だろ」って言いたいのに、それを他人に言われるの、想像しただけで腹痛。

 

「ねえねえ、リシア」


 ミナの声で心臓が跳ねた。

 

「なんか今日、いつもよりおとなしめだよね〜。……なにか話ある?」


 え、今!? もう!? 呼吸整えてないのに!?? てか、やっぱりバレてた!


 ……よし、言う。ここで逃げたら一生言えない。大丈夫、魔法効いてる。たぶん。ちょっとだけ勇気ある気がするし! 


「その……実は……気になる人が、いて……」 

 

 言った瞬間——空気が、変わった。


 ミナが割り箸を落とし、フローネが飲んでたハーブティーを吹きかける勢いでむせた。

 

 うわ、これ絶対変な空気になってる。ほら〜〜〜だから言わなきゃよかったってば!!

 顔から火が出そうなくらい恥ずかしい。やだもう、時間巻き戻したい! 

 

 ……でも。

 返ってきた反応は、あれ……思ってたのと——ちょっと、違う? 

 

「ええっ!? マジ!? ちょっと待ってリシア、今なんて!? 初耳どころじゃないんですけど!? リシアがそういう話する日が来るなんて〜〜!」

 

「わたくし……この耳で……確かに聞きました……『気になる人』と……っ!」


 盛り上がり方すごっ。っていうか、ちょっと泣きそうになってないフローネ!? どういう感情なの!?

 

「で! でででで!? 誰なの!? 誰なの〜〜!? 言ってリシア!!」


 ミナが身を乗り出してきて、私は完全に追い詰められた動物。ちょ、ちょっと待って、圧すごい!!


「う、うん……あの、驚くかもしれないけど……セ、セレク君……です」

 

 ……言った。


 言えた……!


 ほぼ空気吐いただけみたいな声だったけど。口から出せたことが信じられない。 


「……」


「…………」

 

 おそるおそる2人を見ると、 ミナもフローネも、口を開けたままフリーズしてる。

 

 ……え? なにその沈黙。怖い怖い怖い!


 やっぱりダメだった!? 私なんかがセレク君なんて言うから……! ごめんなさい調子に乗りました! 身の程知らずって思ってますよね!? 


 お願いだから……お願いだから、なんか言ってぇぇぇ!!けなされても笑われてもいいから、無言だけはやめてぇ……! 


 ——と思ったその瞬間。


「セレク!? あの!? 落ち着き系イケメンの!? えっ、リシアそういうのが好みだったの!? まさかの王道ッ!!」


 ミナが急にスイッチ入ったみたいに食いついてきた。


「お、おおお、王道をゆくなんて、リシアちゃんもまだまだですわね!? わたくしはああいう王道イケメンよりは、こう、もっとこう……影があって地雷臭のする……」


 あっ、フローネがどこか遠くへ旅立ったー!


 でも、なんか……ふたりとも……。


 そして次の瞬間、2人が同時に私のほうを向いて——


「うれしいな〜、なんか。リシアがそういう話してくれるの」


「ほんとうですわ。リシアちゃんと、恋バナができる日が来るなんて……!」


 ……あれ?


 ……喜んでる?


 馬鹿にされるかもとか、無理だと思われるかもって、勝手にぐるぐる悩んでたけど。

 

 この人たちは、ちゃんと笑って、受け止めてくれてる。


 ……なにそれ、優しすぎでしょ……。

 あ、あれ……なんか、涙出そう……って、やばっ!? 

 

「うふふ、でも意外ですわ。てっきり魔石の話しか興味ないのかと……」


 フローネが頬に手を添えて、くすっと笑う。


「な、なんでよ……!」 

 

 私はぷくっと頬をふくらませて、むくれ顔で反論した。

 

「魔石はもちろん大事ですけど!? 私だって恋くらいしますから!」


 その勢いにミナが笑いながら肩をすくめる。


「そうそう。で、次はどうすんの? 話しかけてみるとか?」


「……えっ、いきなりハードル高くない!?」

  

 やば。変な声出た。

 けどすぐに、少しだけ視線を落として——


「あっ、でも……ちょっとは、がんばって……みようかな」


 言い終わると同時に、ふたりの顔がぱっと明るくなる。


「おお、リシアがやる気モード!? ついに恋する女子の仲間入り〜!」


「応援いたしますわ! 恋する乙女の背中を押すのも、友の務めですもの!」

 

 は、恥ずかしっ……!


 でも、なんだろう。

 さっきまでひとりで考えてたときよりも、心がずっと軽い。こんなふうに話せる人がいるって、ありがたいなって——ほんと、思った。


 ……うん、ちょっとだけなら。

 私にも、変われるチャンス……あるのかも。


 ……っていうか。

 もしかしてこれ、ローザ先生の魔法——

 ちゃんと効いてた……っぽい?

 

 気づけばお弁当をつつきながら、3人とも自然と無言に近くなっていた。 


 さっきまでのドタバタが嘘みたいに、空気がふんわり、あったかい。


 ……なんか、いいな、こういうの。 

 



 そんな、ぽわんとした空気が流れていた、そのとき—— 

 

 急に、ピリっと空気が張りつめた。


 え? なに? って思ったけど、すぐにわかった。

 向こうから、セレク君とレント君が歩いてきてる。しかも、すんごく楽しそうに、笑いながら。


 ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待って!? このタイミング!? こっち来ないで! いや、来ないでっていうのは違うけど、でも、えええええええ!? 


 心臓が跳ね上がる。 

 

 ミナとフローネがこっち向いて変な顔してたらどうしよう。絶対、あからさまにニヤニヤしないでね!? 私、今めっちゃ普通の顔してるから、してるつもりだから! 


 お願い、平常心でいて〜〜〜!!

 私は心の中で二人に全力の念を送っていた。

 

 セレク君が、ほんの数歩分だけ離れて、私たちが座る目の前を横切る。


 わ、ちょ、近……っ。

 

 見上げる形になるこの角度、意外と新鮮かも。いつもは廊下とかで、ちょっと遠くからしか見てなかったけど……。

 

 え、なに、下から見るセレク君、なんか……すごい、かっこよくない……?

 

 ローブの揺れも、足取りの柔らかさも、全部がちょっと映画のワンシーンっぽくて。   

 あまりの近さに、息すら忘れそうだった。私はひたすらじっとして、身じろぎせずに、セレク君が通り過ぎるのを待っていた。


 ——その瞬間だった。 

 

 セレク君のローブが風でふわりと揺れ、腰のあたりがちらりと見えた。   

   

 ……え?

 

 ローブの隙間からチラリとのぞいたのは、ベルトのバックル部分。


 そして、その中央で光を反射していた——


 小さな、魔石。 



 

 ——っ!!

 

 私の脳内で、何かが弾け飛んだ。


 ま、ま、まって……今の……今の色……! 

 ……青紫のグラデーションに、中心から放射状に入った銀のインクルージョン……!?


 ってことは、あれ……まさか、まさかまさか—— 

 

 星風の煌石〈セレス・ルミナイト〉!?

   

 ちょ、本物!? 複製じゃない!? ていうかなんで!? その石、まだ実物確認されたことほとんど——

 

 次の瞬間、私の身体が勝手に動いていた。



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