第92話 「……この“気持ち”に、名前を与えていいのなら」
◆Aパート:ヒロインたちの“自己定義”
◆真昼の夜
部屋のベッドで横になる真昼。
スマホには「ユウト/未送信メッセージ」が点滅している。
真昼(“好き”って……言えば済むのに。
なのに、ユウトくんの顔が浮かぶと……怖くなるの、なんでだろ)
彼女は笑顔の仮面をそっと外し、自問する。
真昼(わたしが求めてるのって、“好き”なの? それとも、“必要とされたい”だけ?)
◆ユキの夜
ユキは机に向かい、恋愛相談サイトの文章を熟読している。
ユキ「えへへ……“好き”って、なにかはっきりわかるわけじゃないけど……
“この人の近くにいたい”って感じ、あるもんね」
でもページの最後の一文を読んで、ユキの笑顔が一瞬だけ曇る。
『あなたの「好き」が、相手にとっての「重荷」になることもある』
ユキ(……だったら、わたしの“好き”は、まだ見せちゃダメなのかな)
◆すみれの夜(悪魔のささやきVer)
ベランダに出て夜風を浴びるすみれ。
その耳に、再び低い“囁き”が入り込む。
??「お前はもう気づいている。“ユウトを奪え”と、心が叫んでいることに――」
すみれ「……黙ってよ。わたしは……そんな風に“恋”したくない」
??「では、見てみよ。他の者たちが、どれだけお前より早く動くかを――」
手すりを握る手が、わずかに震えていた。
◆Bパート:イオリ、理性の崩壊に抗う
イオリは生徒会室。資料に目を通しながらも、思考が浮ついている。
イオリ(……“恋”という感情は、合理的思考にとっては最大のノイズ。
だが……私はもう、排除するだけでは処理できなくなっている)
ノートに箇条書きが続く。
「ユウトの微笑で心拍数が上昇」
「ルシアといる時の彼の安心した表情に対しての反応:不快」
「視線を逸らされると、なぜか……痛い」
イオリ「……これは、恋愛感情の定義と合致する。……私が、“彼を好いている”可能性は――」
ふと、扉が開く。
ユウト「……イオリ?」
イオリ「――っ!?」
イオリは咄嗟にノートを閉じる。
だがその表情は、明らかに“動揺”を隠しきれていない。
◆Cパート:イオリ、ついに言いかける
ユウト「……さっき、校門のとこでルシアが言ってたんだけど、
『イオリが最近様子おかしい』ってさ。……大丈夫?」
イオリ「…………」
しばらく黙った後、イオリは立ち上がる。
イオリ「私は……その……。
ユウト、私は、あなたに……」
心臓が高鳴る。冷たい手が震える。
それでも、彼女は“言葉”を探そうとする。
イオリ「“好き”……なのかもしれません、私」
教室の時計が、静かに針を刻む。
静寂の中で、イオリは目をそらしながら、言葉を継ごうとする。
イオリ「でも、それを言うときっと、私の知性は……“壊れる”んです。
あなたが、笑ったり、困った顔をしたりするだけで、もう“論理”が立たなくなるから――」
ユウト「……イオリ、それでも――」
イオリ「それでも、構わないと思った。
あなたに、“私の気持ち”を知ってもらえるなら……」
だが――その瞬間、
廊下から足音と声が響く。
??「ユウトくん! いるー!?」
真昼の声。続いて、ユキの影。
一瞬の静寂の中、イオリは笑って言う。
イオリ「また、あとにしましょうか。……“私たち”、きっとまだ終わらないから」




