第82話 「君を、もう一度“すみれ”にするために」
◆静まり返る屋上の戦場
イオリ・真昼・ユキの三人によって張られた対悪魔結界。
その中心で、すみれとユウトは向かい合っていた。
すみれ「……あのね、ユウトくん。わたしはもう、止まれないの」
その言葉に嘘はなかった。
彼女の瞳は黒く染まり、言葉の端々に“執着”と“孤独”が滲む。
しかし――
ユウト(それでも……俺には、あのときの笑ったすみれが、見えてる)
◆ユウトの心の声
(怖かった。誰かを好きになるってことが)
(誰かの想いに応えるってことが)
(選ぶことが、誰かを傷つけるって、思ってた)
そう。
ユウトはこれまで、ずっと“恋”を受け止めきれずにいた。
だが、目の前で悪魔に堕ちそうな彼女を見て、初めて思う。
(すみれを、独りにしたくない)
(すみれの恋が壊れる前に――俺が、手を伸ばす)
◆過去の記憶:雨の日の教室
ふと、ユウトの脳裏に浮かぶ。
雨の日、誰もいない教室で、静かに微笑んでいた“あのすみれ”。
すみれ『……私、ユウトくんと一緒にいるの、楽しいって思ってる。』
ただ、それだけの言葉が、今の彼を引き戻す。
◆現在へ:ユウトの決断
ユウト「すみれ……俺はずっと、“誰の気持ちも選べない”って思ってた」
ユウト「でも……間違ってた。誰かの想いに応えるって、選ぶことを怖がらないことなんだなって……お前が教えてくれた」
すみれ「ユウトくん……?」
ユウトは一歩、彼女に近づく。
ゆっくりと、手を伸ばす。
ユウト「お前が“悪魔”になってもいいよ」
ユウト「でも――それでも、俺は、お前をすみれのままで抱きしめたい」
その手が、すみれの頬に触れた瞬間――
黒い波動が、一瞬だけ、弾けるように弱まる。
◆すみれの揺れる心
すみれ「……っ、なんで……そんな顔、するの……」
すみれ「わたし、もう……止まらないって、決めたのに……」
瞳が揺れる。
唇が震える。
そして――頬を伝う、一滴の涙。
すみれ「ユウトくん、そんな優しいこと言われたら……戻りたく、なっちゃうじゃん……」
その涙は、もう“悪魔”のものではなかった。




