第69話 「悪魔化の理由――すみれが隠していたもの」
◆“恋”が引き金だった
すみれはユウトの手に触れながら、ぽつりぽつりと語り始めた。
すみれ「ねえ、ユウトくん……知ってた? わたし、ずっと“普通”じゃなかったんだよ」
ユウト「……すみれ?」
すみれ「小さいころから、変な“感覚”があって。誰かの感情が、空気みたいに“匂い”で分かるの」
(イオリが鋭く目を細め、ユキと真昼も息をのむ)
すみれ「“好意”は甘くて、“嫉妬”は苦くて、“憎しみ”は冷たい。それを感じ取れるから、人と距離を取るようになった」
すみれ「でもね、ユウトくん。あなただけは、匂いじゃなくて“音”だったんだ」
ユウト「音……?」
すみれ「あなたの“好き”は、すごくきれいな音。だから気になって、追いかけて、近づきたくて……」
(すみれの瞳に、黒い光がわずかに灯る)
すみれ「だけど……他の女の子たちの“好き”が重なっていくと、音が濁って、苦しくて、痛くて……!」
(胸元を抑えるすみれ。その背に、一瞬だけ“黒い紋章”が浮かぶ)
◆「悪魔」は、もともと“中にいた”
イオリ「……なるほど。あなたの中には、生まれながらに“感情を喰らう存在”が宿っていたのね」
真昼「そんなのって……」
ユキ「……つらかったね」
すみれ「“感情を喰らう”なんて言わないでよ……っ、あたしは――あたしは、ユウトくんを“好き”になっただけなのに……!」
(その瞬間、教室のガラスが一斉に揺れる。すみれの感情が、空間そのものに影響を与えはじめていた)
◆ユウトの決意
ユウト「……それでも、すみれは“人間”だ」
(静かな、けれど揺るぎない声)
ユウト「感情が分かりすぎるのも、悪魔的な力を持ってしまったのも――全部ひっくるめて、すみれなんだろ」
すみれ「……ユウト、くん……」
ユウト「オレは、すみれの“好き”が嬉しかった。怖かったけど、嬉しかったんだ」
(ユウトが、すみれの手をそっと握る)
ユウト「だから、悪魔になるな。感情が壊れそうでも、“人間”のまま、オレたちと一緒にいてくれ」
◆揺れる瞳、こぼれる涙
すみれ「……ずるいなぁ、ユウトくんは」
(ぽろり、と涙がこぼれた)
すみれ「ほんと、ずるいよ……そんな風に言われたら、“魔物”になんてなれないじゃん……」
(悪魔の紋章がゆっくりと消えていく)
ユキ「……ふふ、よかったぁ。すみれちゃん、戻ってこれたんだね」
真昼「……でも、恋のバトルは終わらないよ?」
イオリ「ええ。“理性”と“本音”の戦いは、むしろこれからが本番よ」




