第61話 「言葉にできない理由たち/それでも、恋が始まってしまう」
◆深夜の部屋――ユウトとイオリ
イオリは静かに椅子を引いて座った。
ユウトの部屋に忍び込んだはずなのに、今は真剣な眼差しを向けている。
イオリ「じゃあ、聞かせて。
“なぜあなたは恋をしない方がいい”と思ったの?」
ユウト「……俺は……」
言いかけて、言葉に詰まる。
そう、思っていたほど簡単には口に出せない。
イオリ「私の分析では、あなたは“自己犠牲型の精神構造”をしている。
他者に干渉されるのは嫌うくせに、自分が他人を傷つけるのはもっと嫌なんでしょう?」
ユウト「っ……!」
図星だった。だが、それだけじゃない。
もっと根っこにある、黒い感情。
ユウト「……俺には、“悪魔”がいる。
それが、少しずつ、俺の中を食い荒らしてるんだ」
イオリ「知ってるわ。でも」
ユウト「“でも”じゃない!」
感情があふれた。
知的な彼女を前にして、冷静さを保てなかった。
ユウト「……これ以上、近づかれたら……
俺はきっと、誰かを傷つける」
(間)
イオリ(そっと立ち上がり、ユウトに近づく)
イオリ「なら、“近づいてきた人”を拒めるの?」
ユウト「……!」
イオリ「たとえば、アリサ。
ふざけてるようで、ちゃんと見てるわ。あなたのこと。
真昼はまっすぐすぎるほど、一直線に。
ユキはぽやっとしてるけど……あれは“誤魔化し”よ。全部。
そして、すみれ――彼女の純粋さが、どれほど怖いか。あなた、わかってるわよね?」
ユウト「……っ」
イオリ(少し微笑む)
「そして私は――あなたを“言葉で愛する”わ。
だから言ってみなさい。あなたが“恋を拒む理由”、論理的に」
◆ユウト、言語化できず――
ユウト「……言えない」
イオリ「なぜ?」
ユウト「……言葉にしたら、全部……本当に、終わる気がするんだ」
(イオリ、しばし沈黙の後、彼の手にそっと触れる)
イオリ「言葉にならない想いが、“本当の理由”よ。
それを無理に定義しなくていい。
私は、あなたの中にある“不確かさ”ごと、好きになるから」
◆そのころ、他ヒロインたちは――
アリサ(スマホで着信履歴見ながら)
「かけてくれないなら、こっちから行く。
ふざけたノリで、泣かせたくないだけなんだから」
真昼(制服のまま、公園のベンチで)
「“好き”って、伝えるのって、ほんと難しいなぁ……でも、私、負けたくない」
ユキ(窓辺で星を見ながら)
「えへへ……誰かを想って、苦しくなるのって……なんか、いいよね」
すみれ(手帳を閉じ、笑顔のままそっと呟く)
「ユウトくん、私……気づいてしまったの。
“ときめく”って、こんなに……苦しいんだね」




