第5話「堕ちた勇者と、揺れる心」
「うわぁぁ、来た来た来た来た来たああああ!!」
俺は咄嗟に飛び退いた。
目の前の大地が、巨大な斧で粉砕された。
「ほぅ……まだ暴走せぬか。貴様、ただの人間ではないな」
不敵に笑うのは――第七階位悪魔、ヴァラス。
かつて人間だったが、自ら悪魔に堕ちた元勇者。
「やっぱりか……あんたも、俺と同じだったんだな」
「違うぞ、小僧。俺は“愛”を捨てた。
だから、こんなにも“強く”なれたのだ」
背中に黒翼を持つその巨体から、灼熱の魔力が漏れている。
「――愛など、力の足枷でしかない!」
「……そうかよ。
でも俺は――捨てねぇ。どんなに足枷でも、俺の戦いは“誰かを守る”ためにあるんだよ!!」
その言葉に、誰よりも反応したのは――リリカだった。
◆ 少女、焦る
(守るため……か)
リリカの心臓が、トクンと鳴った。
「なんか、ズルいなぁ……あんなの、好きになっちゃうに決まってるじゃん……」
自分で口にして、慌てて口をふさぐ。
(ち、ちがうし!? そりゃちょっとカッコいいけど、それだけで好きになるわけ――)
でも、脳裏に焼きついたユウトの後ろ姿は、今も熱をもって心に残っていた。
(もしあたしが、あの人の魔性を止められたら――)
自然と、手のひらに魔力が集まる。
「よしっ! あたしも行く! この“恋心”で、魔性を止めてみせるっ!」
「なんか勢いがすごいな!?」
◆ 氷の退魔師、揺れる
その様子を見ていたユキは、黙って槍を構えながら、少しだけ視線を逸らした。
「……恋、ね」
彼女の目には、かつての自分の姿が重なっていた。
「(感情は、弱さを呼ぶ。けれど――)」
戦場で、ユウトが仲間を守るために魔性を抑えてみせたその姿。
「(あれを、弱いとは言えない)」
そしてふと、思う。
(もし私が彼に惹かれていたとしたら――それでも、私は彼を斬れるのか?)
槍の穂先が、微かに揺れた。
◆ 決戦、そして一閃
「ユウト!!」
リリカの魔力が光の奔流になって飛び、俺の身体にふわりと届いた。
《補助魔法・“魔性抑制” 発動》
「……ありがとう、リリカ」
「べ、別に! あたしが勝手にやってるだけだし! べっ、別に好きとかそういうのじゃないしッ!!」
(全力のテンプレじゃねーか……)
と、突っ込む暇もなく、ユキが後ろから肩に手を置く。
「今だけは、信じて戦うわ。……ただし、戦いが終わったら“確認”する。
あなたの中にある魔の気配が、本物かどうか」
「……わかった。終わったら、ちゃんと見ろよ。俺が“どういう想いで戦ってるか”」
「……っ」
言葉に詰まるユキの頬が、僅かに紅くなった。
◆ フィニッシュブロー
「おおおおおおおおおッ!!」
セレスの回復、リリカの補助、ユキの氷の拘束――
三人の力が重なり、俺の剣が、悪魔ヴァラスを貫いた。
「……見事、だ。だが忘れるな……!
“想い”はいつか裏切る……ぞ……」
そう言い残し、ヴァラスは霧のように崩れ落ちていった。
● 終章:少女たちの想い
「ふうぅ~~……なんとか勝てたねっ♪」
リリカが跳ねるように寄ってきた。
「ね、ユウトくん? さっきの、ちょっとカッコよかったかも。
……“かも”ね?」
ちらり、と見上げるその目は、どこか期待混じり。
そして、離れた場所からユキが静かに見ていた。
(……フラついてるな、私)
でも彼女は確かに思った。
(この人に――もう少しだけ、近づいてみてもいいかもしれない)
● 次回予告風
三人の少女、それぞれの想い。
戦いが繋ぐのは、剣か恋か。
そして次に現れるのは――
「“神魔融合体”? 冗談じゃねぇよ……!」