第4話「恋の暴走、魔性の鼓動」
「……ユキさん、ちょっと待って」
俺の前に立ちはだかったのは、神官少女――セレスだった。
「彼は……ユウトは、まだ人間よ。
悪魔の力に侵されてはいるけど、それを使って人を守ってきた。誰よりも、勇者らしく!」
セレスの言葉に、ユキが眉をひそめる。
「感情論ね。
私が見てきた“魔性に堕ちた者”たちも、最初はそう言っていたわ」
「違うッ!!」
セレスが、感情をあらわに叫んだ。
「彼は違うの!
……だって、わたし、ユウトのそばにいたからわかるの。
怖がりで、馬鹿みたいに無茶して、でも誰かを守るって決めたら絶対に止まらない。
そんな人なのよ――彼は!」
俺は……俺は、黙って聞いていた。
心臓の鼓動が、早くなる。
魔性値は、今――18%。
右目の視界が赤黒く染まり、手が震える。
暴走の兆候が、もうそこまで来ている。
でも――
セレスの言葉が、胸に刺さった。
「私は……ユウトのことが……っ」
そこで、彼女の声が震える。
耳が赤く染まり、言葉が続かない。
リリカがニヤニヤしながら背中を押す。
「言っちゃえ言っちゃえー。乙女の決意、ここで見せなきゃね☆」
セレスがぐっと睨んでリリカを一瞬だけ無視したあと、俺をまっすぐ見つめる。
「……ユウト、お願い。
自分を、ちゃんと大事にして。
誰かを守りたいなら――その前に、自分を壊しちゃダメ」
……心が、揺れた。
その瞬間――
警告:魔性値限界点まであと2%。
深層感情により、抑制フィルターを再構築します。
対象感情:「愛」「信頼」「絆」……
魔性値、安定領域に移行します。現在:16%
「……え?」
ステータスウィンドウが、奇妙な変化を告げる。
右目の赤が、少しだけ薄くなった。
「セレス……お前の想いが……俺を止めた?」
セレスが、恥ずかしそうに目をそらしながら、小さくうなずく。
「……よかった。
本当に、まだ戻れるんだな、俺……」
と、そのとき。
ズズン!!
空気が震える。
遠方の街壁の外、地面が裂け、巨大な影が姿を現す。
「第七階位悪魔・“ヴァラス”だと……!」
ユキの声が震える。
「……冗談じゃない。まだ戦いは終わってない」
俺は立ち上がり、剣を構える。
今度こそ、暴走じゃない。
俺の中には、力だけじゃなく――セレスの想いがある。
「行こう、みんな。次は――俺の意志で、悪魔を斬る」
● 次回予告風
恋が、心を繋ぎ止める。
人の想いが、魔性を押しとどめる。
だけど現れたのは、かつて人間だった最凶の悪魔――ヴァラス。
次回、第5話
「堕ちた勇者と、光を継ぐ者たち」
恋と戦いが交差する、転機の一話!