第2話 神官少女セレスと、悪魔疑惑の勇者
「……ちょっと、こっちに来なさい」
神殿の一室。
俺は金髪碧眼の美少女――セレス=アルフィアに、腕をつかまれて引きずられていた。
「なぁ、落ち着こう。俺、悪魔じゃないし、そんなつもりもないし」
「角が生えてる人間に言われても説得力がないのよッ!」
た、確かに。
悪魔を倒した直後から、右目が赤く光るようになり、小さな角まで生えてきた。
見た目だけなら完全に“ラスボスの側近”感。
「これ、呪い? 状態異常? 回復魔法でどうにかならん?」
「試したわよ。効かなかったわよ!!」
セレスが机を叩いた。なんか神官っぽいけど、意外と情緒不安定だ。
「アンタ、本当に“魔性の器”って称号があるの?」
「ああ、ステータス画面見てみ」
見せると、セレスは黙り込み、表情が引きつる。
「これは……ヤバいわ。ガチでヤバいやつよ」
「いやもうちょっと丁寧に教えて?」
「その称号は、悪魔王が使う“魔力変質スキル”を素で受け入れる器を持つ者につくの。
普通なら、悪魔の力は人間にとって毒。でもそれを取り込めるってことは……」
「……俺が、悪魔に近づいていくってことか」
セレスがうなずいた。
「……このままだと、100体倒す前にアンタの魂は完全に魔に堕ちるわ」
「……」
沈黙。
……ヤバくね?
そんな重い空気の中、**バーン!**と扉が蹴破られた。
「わぁああっ!? ごめん間違えた! 勢いで入っちゃった!」
部屋に転がり込んできたのは――
赤髪のツインテール少女、露出多めの魔導師服、そして人懐っこい笑顔。
「はじめましてっ☆ あたし、リリカ=ナーヴァ! セレスちゃんの護衛で、あと、悪魔ハーフの自称魔導師っ!」
「今なんて言った?」
「悪魔ハーフ☆」
あっけらかんと答えるこの子は、完全に地雷っぽい。でも明るくていい子そうだ。
「へぇ~勇者さん、ほんとに角生えてるじゃん。てかイケてる! 悪魔系男子って人気あるよ?」
「ありがたいけど、これ深刻な状態だからな?」
「まあまあ。魔性値5%くらいじゃ余裕余裕~。あたしなんて10%で止まってるし!」
「え、お前も数値化されてんの?」
「うん♪ 悪魔の血がちょっとだけ混ざってると、計測されるの。魔法制御しにくい代わりに、火力バカ高いよ?」
にこにこ笑いながら、指先で火の玉をぽんっと作る。
……おっかないけど、仲間っぽい。
セレスがため息をついた。
「ユウト、リリカの力を借りて、なんとかこの“魔性値”を抑えていく方法を探しましょう。とにかくこのまま戦えば戦うほど、あなたは……」
「悪魔になっちまう、か」
俺は自分の右手を見つめる。
ほんの少し、爪が黒くなっていた。
「でもさ、それでも――悪魔が人間を襲ってるなら、見過ごせないだろ?」
セレスとリリカが、顔を見合わせた。
「アンタ、ほんとバカね」
「そういうとこ、嫌いじゃないけどさー♪」
と、そのとき――
ドォン!!
遠くから、爆音。
「報告ッ! 近郊の街に、悪魔級の個体、出現ッ!」
兵士が駆け込んできた。
俺たちは顔を見合わせた。
「行くしか、ないよな」
「当然でしょ」
「うんっ! でも魔性値は上がるよっ♪」
こうして俺たちは、
自分の正体が“魔王になりかけの勇者”だと知りながら、最初の街の防衛へと走った。
そのときはまだ知らなかった。
この戦いが――魔性の運命を大きく狂わせる一戦になることを。
(次回:第3話「魔性の暴走と、もう一人のヒロイン」へ続く!)