最終章・最終話 「そして、選ばれる恋」
――すみれルート:闇を越えて、君と
夕暮れの校舎屋上。
風が、髪を撫で、沈黙を連れてくる。
ユウトは、ゆっくりと口を開いた。
「……俺が選んだのは――すみれだ」
沈黙。
時が止まったかのような静寂のなか、
すみれの肩が小さく震えた。
「……っ、なんで」
「あたし……あたし、あんな風になっちゃって……!
影に呑まれて、みんなを傷つけたのに……!
それでも、選んでくれるの……?」
ユウトは、彼女に一歩近づく。
「だからだよ。
君は、誰よりも感情に正直だった。
誰よりも、“好き”を伝えようとした。
それが、嬉しかったんだ」
涙が零れ落ちる。
けれど、それはもう――“闇”のせいじゃなかった。
「……バカ……ほんとバカだよ、ユウト……」
「でも……大好き。大好き……っ」
彼女は、彼の胸に顔を埋め、震える声で何度も伝えた。
それは、長く苦しみ、迷い、ようやく届いた「本当の気持ち」だった。
後日――文化祭のエピローグ
学園の喧騒が終わった夕暮れ時。
ふたりは手を繋ぎ、屋上へと戻ってくる。
すみれは、かつて影が囁いた場所で、今度は笑っていた。
「ねぇ、ユウト。
こうやって一緒にいるのが“幸せ”って思える自分が、
まだちょっと信じられないけど――」
「でも、あたし……絶対に、手を離さないから」
ユウトは頷く。
「俺も。どんな形でもいい。
一緒に未来を作っていこう、すみれ」
そして――
ふたりは、そっと唇を重ねた。
あのとき“影”が生まれた場所で。
今度は、希望が生まれていた。
エピローグ:彼女たちの未来へ
イオリ、真昼、ユキ――
それぞれが、未練も想いも抱えながら、
それでも、前を向いて歩き始める。
「……負けたわけじゃないのよ。
論理的には、“次”があるもの」―イオリ
「あ〜〜もう! スッキリしたけど悔しい!!」―真昼
「えへへ……また手、つなごうと思ったのにな」―ユキ
でも、彼女たちは知っている。
この結末は、“恋の終わり”じゃない。
それぞれの未来へと続く、新たな物語の始まりだ。
そして――
「――好きだよ、すみれ」
「……うん、わたしも。大好き」
空に浮かぶ星のひとつが、
誰にも気づかれないまま、
静かに瞬いた。