最終章・第3話 「この手は、君のために」
――旧校舎地下、封印の間。闇が、震えている。
魔装化したすみれの背中に広がる漆黒の翼。
その目は、かつての優しさと無垢を欠いた“魔の焔”に染まっていた。
「ユウト……近づかないで。もう、わたし……」
「お前は、すみれだろ……!そんな言葉、似合わないよ!」
差し出されたユウトの手。
その体温が――ほんの一瞬、“すみれ”の中の闇を揺らす。
しかし――
「……やっぱり、足りないんだよ、そういう“情”だけじゃ」
後方から、ルシア=エクリアがすっと現れる。
「彼女の心の中にあるのは、ただの恋じゃない。“孤独”と“絶望”と“選ばれなかった痛み”。
それを愛なんて甘い言葉で救えると思ってるなら、あなたは――本当に、愚か。」
エクリアの指が、空を払う。
その瞬間、魅了の波動が空間を満たす。
――その時。
「――待ちなさいっ!!」
割って入る三つの声が響く!
イオリ、真昼、ユキ――!
■ イオリ:「理性と理論を超えて……私は、“彼を助けたい”って思ってるの!ただ、それだけよ!!」
■ 真昼:「大切な人が苦しんでるなら、そりゃ、助けに行くのが……恋でしょ?」
■ ユキ:「……わかんないけど……泣いてる子をほっとくの、変でしょ?」
三人の“恋する気持ち”が、それぞれの光を帯びて波動を打ち破る。
「――やめて……わたし、もう……誰かに迷惑かけたくないの……」
そうつぶやくすみれに、ユウトが答える。
「じゃあ、俺が君の“迷惑”になってやる。
君が泣いたって怒ったって、俺は逃げない。
たとえ、君の心が悪魔に引き裂かれそうでも――」
「この手だけは、君のためにあるんだ」
その言葉が――“すみれ”の中の最後の砦を、そっと叩いた。
(……わたしが、誰かに愛されていいって……本当に、思ってくれてるの?)
だが、その瞬間。
エクリア=ルシアの口元が、静かに歪む。
「じゃあ、見せてあげようか。
この“恋の先”にある、本当の地獄ってやつを――」
結界がさらに砕け、
封印されていた“本当の悪魔”の影が――その姿を現し始める。