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幼馴染にフラれた日、ヤケクソで助けた男の子の姉がクラスのお姫様だった 〜お姫様直々のプロデュースで、幼馴染を見返します〜  作者: 桜 偉村
第八章

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第96話 緊張するお姫様と、翔の判断

 入店から一時間ほど経過したころ、宮城が「そろそろカラオケに移動しようか」と声を上げた。

 席を立つ音が重なり、彩花と美波が横並びで談笑しながら出口へ向かう。


 やはりこうなる瞬間は来るよな、と苦笑しつつ、翔がファミレスを出ると——


「よっ、ハーレムボーイ」


 潤が近寄ってくるなり、肩を組んできた。

 現状はひとりぼっちだ。ファミレスの席順のことだろう。


「たまたまだっつーの」

「——そうでもなくね?」


 高校男子にしては少しだけ高い声が、潤とは反対方向から聞こえた。


「草薙がお姫様と仲良いからこその組み合わせだったわけだし」


 理論的に追求してきたのは、野球部でショートとして活躍している桑田(くわた)亮平(りょうへい)だった。


(……お姫様じゃなくて、双葉って呼んでやれよ)


 思わず眉が寄る。

 けれど、亮平の言葉に揶揄い以上の悪意は感じられなかった。


 そもそも、彩花自身がその呼び方を嫌だと公言しているわけではない。

 むしろ、知らない人がほとんどだろう。

 そんな状態で翔が不満を示しても、場の空気が悪くなるだけだ。


 ただ、どのみち彩花に聞かれたい話ではない。

 翔は少しだけ歩幅を緩めた。


「おっ、潤。草薙を取り返すことに成功したか」


 新たな声は、同じく野球部の森本だ。そのそばには奈良坂もいる。

 潤と亮平を含めた、定番の野球部四人衆が揃った形だ。


 奈良坂が翔に向かってサムズアップをしながら、


「草薙、男にも女にもモテモテだな」

「あんまり褒められてる気がしないんだが。というか、別にモテてないし」


 色白童顔の亮平以外は全員大柄だ。翔は少しだけ圧迫感を覚えながら答えた。


「あんだけかわいい子たちに囲まれておいてよく言うぜ」

「聞くやつが聞いてたら、草薙の顔面が変形してたな」


 亮平が肩をすくめる横で、森本がニヤリと笑った。


「俺もバット持ってたら危なかったぜ」


 バットを構えるそぶりを見せる奈良坂に、翔は口元を引きつらせた。


「偶然ああなっただけだよ。それに、俺が潤にくっついてそっちのグループに混ぜてもらっても、お互い気まずいだけだろ」

「そんなことはないぜ? 双葉とどうやって仲良くなったのかとか、聞きたいことはけっこうあるからな」

「遠慮しておくよ」


 どうやら、席運は悪くなかったらしい。




「草薙君、モテモテだね」


 流れのまま野球部に混じってカラオケ店に着き、ドリンクバーで適当に飲み物を注いでいると、いつの間にか隣に彩花がいた。


「双葉まで誤解を招く言い方するな。まあ、楽しかったけど」


 背後の潤たちの気配がふっと遠ざかる。

 気を遣ってくれるのは、ありがたいと言えばありがたい。


 曲がりなりにもセット扱いされていると思うと、少しむず痒くもあった。

 だが、ここで彩花と別行動する理由はない。


「吉良は?」

「もう部屋に向かってるよ」


 彩花の指が示した先で、美波は葵や小春などの、いわゆる陽キャと称される部類の女子たちに囲まれていた。

 美波が笑いながら何か言うと、周りがどっと沸く。教室でもよく見る光景だ。


「なるほど。だから俺が避難場所に選ばれたってわけだ」

「まあね。でも、迷惑じゃなかった?」


 彩花が、潤たちのほうへ目を向ける。


「全然。選ばれて光栄だと思ってるよ」

「なんか馬鹿にしてない?」

「そんなことないって」


 実際そんな意図はなかったのだが、彩花は納得していないようだ。

 どこか不満げな表情だったが、ふとイタズラっぽい笑みを浮かべた。


「先頭じゃないから、草薙君も迷わなくて済むね」

「店内はさすがに平気だって」


 軽口を叩きながら、部屋に入る。

 奥から順番に座っていっているようだ。まず翔が入り、彩花が続いた。


「——双葉さん。隣、お邪魔していい?」

「もちろんだよ、宮城さん」

「ありがと」


 彩花を挟んで翔の反対側には、宮城が腰を下ろした。

 男子の中には、密かに彩花の隣を狙っているようなそぶりを見せる者もいたためか、彼女は目に見えて安堵している。


 それを確認した宮城は柔らかい表情を浮かべている。意図した動きだったのだろう。

 彩花を誘った手前、気を遣っているのかもしれない。


「双葉さん、ごめん。もうちょっと詰めることってできる?」

「あ……本当だ。みんな、座り切れないね」


 少し躊躇うような間があってから、彩花はぐいっと翔に身を寄せてきた。


「っ……」


 決して濃くはない、それでもほんのり甘い匂いがふわっと翔の鼻先をかすめた。

 続いて触れ合った二の腕から柔らかさが伝わってきて、思わず腰を浮かせかけた。


 けれど、奥のほうはすでにぎゅうぎゅうになっている。

 これ以上動けば、壁際の誰かがきつくなるだけだろう。


「ごめん。その、向こうもあんまり余裕ないみたいで」


 彩花が小声で囁いてくる。


「い、いや、こっちは問題ないよ」


 彩花は申し訳なさそうにしていて、少なくとも嫌がっている様子は見えない。

 それならば、翔も動くべきではないだろう。

 精神的には辛いものがあっても、肉体的に圧迫されているわけではないのだ。


「——おい潤、くっつくな」


 周囲を見回していると、翔たちとは反対側で、亮平が顔をしかめていた。


「うるせー。亮平がもっと詰めろ。それか、森本の膝の上でも乗っとけ」

「おう、来い」


 森本がニカっと笑って、大きく両手を広げてみせる。

 がっしりした体格だ。キャッチャーらしい。

 ミットにボールが収まるように、小柄な亮平はすっぽり包み込まれそうだ。


「亮平、こっちでもいいぞ」


 その隣で、奈良坂も膝を叩いた。

 亮平が嫌そうに顔をしかめて、


「三人ともキモいわ」

「俺は違くね?」


 潤が素早く打ち返し、四人が同時に吹き出した。

 彼らがわちゃわちゃしているのはいつものことだ。

 クラスメイトは微笑ましそうに眺めるか、気にしていない者もいる。


 多少は迷惑をかけてでも、あっちに混ざったほうがよかったかもしれない——。

 体の左半分にじんわり残る人肌の体温から意識を逸らすように、翔は壁にかけられたモニターに流れる曲紹介の番組を意味もなく凝視した。


 やがて、全員が無事に着席すると、宮城がすっと立ち上がった。


「みんな、カラオケまで来てくれてありがとう」


 彼女がぺこりと頭を下げると、美波や潤が即座にパチパチと手を打ち鳴らした。


「こんなに大勢で集まれる機会ってあんまりないと思うので、これを機に交流を深めてくれたら嬉しいです。とはいっても全くお堅いものじゃないので、各々好きに楽しんじゃってください! というわけで、ここは私が先陣を切ってハードルを下げますねー」

「おっ、さすが会長、助かるぜ!」


 潤の明るい声を皮切りに、「頼むぞー」「いけー」と適当な声援が続く。

 先程の拍手もそうだし、潤のこういうところは素直に尊敬できる。

 彼や美波のような盛り上げ役は、場を仕切らなければならない者にとっては心強いだろう。


「採点は入れなくていいよね?」


 宮城が確認すると、ちらほら賛同の声が上がった。

 一部、残念そうにしている男子もいた。ここでアピールしようと意気込んでいたのかもしれない。


 宮城の歌は宣言通り、上手ではなかった。

 けれど、楽しそうに歌っていて、自然とみんなも手拍子をしたりして盛り上がった。


 その後は潤や美波、葵、小春などが順番に歌い、空気がすっかり温まったところで、


「双葉さんも一曲どう?」


 宮城が彩花にデンモクを差し出した。

 さして大きな声ではなかったにも関わらず、一斉に彩花へと注目が集まる。


「あ……いや、私はいいよ。あんまり歌ったこともないし」

「大丈夫だよ。私の一曲目、お世辞にも上手いとは言えない出来だったでしょ?」

「そんなことないよ。楽しそうに歌ってて、こっちも楽しくなったし」

「——それだよ、双葉さん」


 宮城が我が意を得たりとばかりに、ビシッと指を立てた。


「こういうのはみんなで楽しむのが目的で、上手いとか下手とかは関係ないからさ。全然嫌じゃなかったらでいいけど、一曲だけでもどうかな? ぶっちゃけ、私が聞いてみたいんだよね」


 宮城がはにかむように笑う。

 彩花を見せ物にしようという魂胆は見えない。


「……じゃあ、せっかくなら歌わせてもらおうかな」


 彩花も宮城の善意を感じ取ったのか、一拍置いてから小さくうなずいた。


「双葉さんが私より下手だったりしてくれると、ちょっと安心できるんだけどなー」

「なにそれ」


 宮城の冗談混じりの言葉に、彩花も白い歯を見せた。

 けれど、触れ合った体から、力みが翔にまで伝わってきた。


 クラス中の無言の期待を感じ取っているのだろう。

 みんなの歌を聴いている限り、前回のような歌唱ができれば、彩花は普通に上手い部類に入る。


 だが、緊張で上手く歌えなかったら微妙な空気になってしまうし、彩花も嫌な思いをするだろう。

 潤のように微妙な空気を挽回することは、翔にはできない。

 少しでも力になれるなら、今しかない。


(……彩花が無事に歌い切るのが最優先だよな)


 それに、ファミレスでやられたことだ。やり返す分には構わないだろう。

 心の中でそうつぶやきながら、翔は静かに足を持ち上げ——

 靴の先をちょん、と彩花の足に触れさせた。


「っ……」


 彩花の体がぴくりと跳ねた。

 翔は前を向いたまま、膝の上に置いた手の指で、丸を作ってみせる。

 そして、一瞬だけ親指を立ててから、すぐに拳を握り直した。


 ほどなくして、彩花がふっと息を吐く気配がした。

 気がつくと、曲はすでに歌唱パートに差し掛かろうとしていた。


 彼女は入りの一音からしっかり合わせると、やや気恥ずかしげに、それでも堂々と声を出した。


「さすが彩花。やるねぇ」


 サビが終わって間奏に入ると、彩花の前方で、美波が軽快に手を打ち鳴らした。


「普通に上手くない?」

「てか、めっちゃかわいいんだけど」

「それな」


 そんな囁きとともに、手拍子が広がっていく。翔もその流れに従った。

 彩花はほんのり頬を染めるが、歌唱前のような強張りは感じられない。


(これならいけそうだな)


 視線に気づいたのか、彼女はふとこちらを向いた。

 そして、翔にしかわからない程度に、ほんの少しだけ頬を緩めた。


「っ……」


 翔の息が詰まる。

 慌てて顔を背け、少しだけ強めに手を叩いた。


 部屋全体が熱を帯びていく中で、翔を挟んで彩花と反対側に座っているクラスメイトのひそひそ話が聞こえてきた。


「ねぇ、このあと誰が歌うの?」

「決まってないけど、行けるとしても吉良さんとか緑川君くらいじゃない?」

「それか、双葉さんと誰かのデュエットでワンクッション置くとか」

「それもありだね。それはそれで相手のハードルが高そうだけど」

「それこそ吉良さんくらいか」

「だね」


 デュエットは確かにいいアイデアかもしれない、と翔は密かにうなずいた。

 彩花は飛び抜けて上手なわけではないが、それでも軽いライブ会場のようになっている現状を考えると、次の人のハードルは相当高い。


 その点、美波は歌い慣れている様子だったし、何より自他ともに認める彩花の親友だ。

 デュエットの相手としては理想的だろう。

 翔がそう思って前方を見ると——。


 美波の隣の席で、将暉がチラチラ彩花を窺いながら、真剣な表情でデンモクを操作していた。

第97話は「将暉の狙い」です!

果たして将暉君はデンモクを操作しながら何を考えていたのでしょうか……

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