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幼馴染にフラれた日、ヤケクソで助けた男の子の姉がクラスのお姫様だった 〜お姫様直々のプロデュースで、幼馴染を見返します〜  作者: 桜 偉村
第八章

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第90話 ピクニック② —昼食の正体—

誤字報告ありがとうございます!

「じゃあ、そろそろお昼にしよっか」


 無事に服に群がっていた草を除去し終えた琴葉が、親指を立てた。


「なら、一回荷物を片付けるか」

「えっ? ……ああ」


 翔の言葉に眉を上げた琴葉は、彩花を見やり、納得したような声を漏らした。

 すると、彩花はそっと視線を逸らした。


「ん、どうした?」

「いや、なんでもないよ」


 琴葉がさらりと首を振った。


「でも、片付けるのはちょっと待ってもらっていい?」

「それは構わないけど」


 彩花が目を逸らしたことと、なにか関係があるのだろうか。


「ありがと。——ほら、彩花」


 琴葉は彩花の背中を軽く叩くと、リュックに腕を突っ込んだ。

 彩花もそれに倣うように、自分のリュックを探り始める。


 同時に引き抜かれた二人の手の中にあったのは、風呂敷に包まれた四角い何かだった。


「……えっ?」


 このときの翔は、目の前で何が起きているのか理解できていなかった。

 けれど、胸の鼓動はすでにペースを速め始めていた。


「彩花、行くよ。せーの——召し上がれ」

「め、召し上がれ」


 琴葉が潤に風呂敷を手渡してから半拍ほど遅れて、翔の手にも風呂敷が乗せられた。

 翔が最初に感じたのは、ずっしりとした重みだった。


(こ、これって……⁉︎)


 まさか、という声が脳裏に響く。

 しかし、ピクニックという状況を踏まえれば、可能性は一つしかなかった。


「もしかして……彩花の手作り、か?」

「う、うん。その、琴葉に、どうせなら作らないかって提案されて」

「マジか……」


 翔が普段学校に持っていくものと遜色のない、もしくはそれ以上の大きさだ。

 彩花はいつも卵焼きくらいしか自分で作らないと言っていたので、決して楽な作業ではなかっただろう。


(……女の子の手料理、初めてかも)


 勉強も運動もそつなくこなす香澄の唯一苦手なものが料理だったため、何かを作ってもらった記憶はない。


「ごめん。わざわざありがとな」

「うん。……お口に合えばいいんだけど」


 前に屋上で卵焼きのお裾分けをしてくれたときよりも、ずっと神妙な態度だ。

 順番が逆な気もするが、潤や琴葉の前だからだろう。


「男女でピクニックと言ったら手作り弁当一択でしょ、翔さんや」


 琴葉が唇を尖らせながら、話に入ってくる。


「それは付き合ってるやつの発想じゃないのか?」

「そんなことはないと思うよ」


 そう答えた琴葉の隣で、ぐーという間の抜けた音が鳴った。


(俺が常識ないだけなのか……?)


 弁当は手間も時間もかかるものなので、まさか恋人でもない女の子に用意してもらえるなんて、考えたこともなかった。

 琴葉から持ちかけた話らしいので、その認識も間違ってはいないのだろう。


(……それでも、こんなにちゃんと作ってくれたんだな)


 手の中の重みに負けるように、レジャーシートに腰を据えた。

 片付ける必要がないのだ。立っている理由もないだろう。


 その代わり、少しだけ四人の荷物を端に寄せ、向かい合って食べられるスペースを作る。


「翔君、気が利くね」

「作ってもらったんだから、これくらいはな」

「そういうところは心配ないんだけどねぇ」


 琴葉が芝居がかった所作で、頬に手を当てる。


「悪かったな。ヘタレな上に鈍感で」

「ヘタレまで言う気はなかったんだけどな」


 琴葉がくすくす笑いながら、膝の上に置いていた風呂敷の包みを解き始める。


「まぁ、翔が鈍いのは今に始まったことじゃないし——」


 ——ぐぅー。

 琴葉の声に被さるように、先ほどよりもさらに間の抜けた音。

 

「……さっきからストマック・潤がうるさいから、食べちゃおっか」

「その言葉、待ってたぜ!」


 潤はあっという間に弁当箱の蓋を開けると、次々と中身を口に放り込んでいく。

 まるで「食べてよし」と言われた犬のようだ。


(って、それはさすがに失礼か)


 翔は苦笑しながら、風呂敷をほどき、弁当の蓋を開け——


「おお、うまそ……!」


 色鮮やかな具材を前に、思わず歓声を洩らした。

 ミートボールなどの男子高校生が喜ぶ肉料理に卵焼き、さらにはミニトマトや野菜まで添えられている。


(けど、これ……明らかに昨日の会話通りの品目だよな)


 雑談に交えて好みまでリサーチしてくれていたらしい。

 それなのに手作り弁当だと気づかなかったのだと思うと、申し訳なく感じられてきた。

 かわいいものにはしないという彩花の発言で、察せられた可能性もあったのだ。


「じゃあ、いただきます」


 お詫びというわけではないが、早速卵焼きに箸を伸ばす。


「ん……!」


 噛んだ瞬間、喉から声が漏れた。

 卵のふんわりとした感触、出汁の塩味と旨味、中に挟まれているほうれん草の甘味が広がり、翔は何度もうなずいた。


「うん、うん——マジで美味い」

「そっか。よかった」


 彩花はホッと息を吐くと、はにかむように微笑んだ。


「っ……」


 安堵したような、それでいて嬉しそうな表情に、翔は言葉を失った。


 心臓の脈打つ音が耳に響く。

 いただきます、と手を合わせるその横顔から、目が離せない。


「——ちょっと潤、あんたも翔みたいに美味しいって言いなさいよ」


 琴葉の声に、翔はハッと我に返った。


(や、やばい、何してんだ俺……っ、というか、見られてなかったよな?)


 咄嗟に他の三人の様子を窺う。

 隣の彩花はミートボールをかじっており、前方では弁当箱を抱え込むようにしてかき込む潤に、琴葉が眉を寄せていた。


 幸い、誰にも気づかれていなかったらしい。

 よかった、と翔は肩の力を抜いた。


「ほら、箸を止めてちゃんと感想を言って」


 琴葉にせっつかれた潤は、そこでようやく手を止めると、リスのように頬を膨らませて、


「ふぇっふぁふふぁい」

「それならいいけど、口にものを詰め込んだまましゃべらない」


 琴葉が呆れたように、潤の頭を小突いた。


「……緑川君、今なんて言ってたの?」

「わかんないけど、めっちゃ美味い、とかじゃないか?」


 不思議そうに首を傾げる彩花に、翔は何の気なしに答えた。


「ふぁ——」


 潤が何かを言いかけて、琴葉をちらっと見てから、口をもぐもぐ動かした。

 そして、ごくりと飲み終えてから、ビシッと指を差してくる。


「さすが親友」


 当たっていたらしい。

 琴葉がポンポンと潤の頭に手を乗せて、


「よく飲み込んでから言えました」

「おうよ!」


 潤は恥ずかしがることも嫌がることもなく、むしろ得意げに胸を張った。


「……翔君を褒めるときも、今度からああいうふうにしよっか?」

「頼むからやめてくれ」


 それならばいっそのこと、叱られているほうがマシである。

第91話は「ピクニック③ —翔の失言—」です!

琴葉さんと潤君のイチャイチャを見せつけられながらも、平穏に昼食を食べ終えた翔君と彩花さんでしたが……?

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