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幼馴染にフラれた日、ヤケクソで助けた男の子の姉がクラスのお姫様だった 〜お姫様直々のプロデュースで、幼馴染を見返します〜  作者: 桜 偉村
第八章

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第89話 ピクニック① —名前呼び発表会—

「ねぇ」

「ん?」

「そっち、もうちょっと引っ張ってくれる?」

「わかった」


 彩花の指示を受け、翔はシートを押さえる指先に、さらに体重をかけた。


「あや……そっちもちゃんと押さえといてくれ」

「う、うん」


 彩花がシートに片膝を乗せる。

 その背後では、家族連れの賑やかな笑い声が弾んでいた。


「なあ。これ、そっちに置くのはどうだ?」

「あ、いいかも。じゃあ、これはそっちお願い」

「おう」


 ペグ代わりの荷物を四隅に置き終えたところで、琴葉が腕を組んで首を傾げた。


「彩花と翔は、なんでツンデレカップルみたいな呼び合い方してるの?」

「別に、特に意識はしてないけど」


 翔がぶっきらぼうに返すと、琴葉は一度納得したように「ふーん」とうなずいた。

 そして、リュックを漁るそぶりを見せてから、


「もしかして、しれっと名前呼びするようになったとか?」

「っ……!」


 突然の指摘に、翔は言葉に詰まった。


「ふふ、やっぱりね。さっきも彩花って呼ぼうとしてたでしょ」

「……そうだけど」


 翔は頬の熱を逃すように、ため息をこぼした。

 これはもう、誤魔化せないだろう。


「ねぇ、どっちからの提案? 確か翔は渋ってた記憶あるんだけど」

「……俺からだよ。潤はともかく、俺が一人だけ名字呼びなのは、確かに変だと思ったからな」

「そっかそっか。翔も成長したねぇ——って言っても、本当は彩花から報告受けてたんだけどね」

「えっ?」


 翔は思わず彩花を見る。そんな話は聞いていない。

 彩花は目を逸らしながら、申し訳なさそうに身を縮こまらせた。


「その、仲介してくれたし、元々琴葉の提案だから……」

「ああ、いや、別に責めてるわけじゃないから。……一応、琴葉のおかげなのはそうだしな」

「よくわかってるじゃん。でも、他の人たちの前で呼ぶ気はないってこと?」

「面倒なことになりそうだからな」

「ふーん」


 琴葉の疑うような眼差しが、答えた翔ではなく彩花に向けられる。

 彩花はこくんと小さくうなずいた。


「それで色々問い詰められても面倒だからって、ちゃんと二人で決めたよ」

「……まあ、彩花もそう思うならしょうがないか。翔だけだったら許してなかったけどね」

「扱いの差がひどすぎるだろ」

「だって、私も女の子だもん」

「それはそうか」


 翔は妙に納得してしまった。


「その分、翔には俺が味方してやっからよ!」

「要らない」

「うえっ⁉︎」


 翔が即答すると、潤は大袈裟にのけぞった。


「潤、つぶれかけのカエルみたいな声出さない」

「確かにつぶれたときよりは元気だったね」


 琴葉が真顔で放った言葉に、彩花が笑いを堪えるように続いた。


「三対一……単純に扱いがひどすぎるぜ……」


 肩を落とす潤に、他の三人は揃って吹き出した。


「でもさ」


 場が収まったころ、琴葉がやや真面目な表情で切り出した。


「もうバレてるんだし、私たちの前では名前呼びしてもいいんじゃない? さっきのツンデレ同士は論外としてさ。わざわざ名字にするのもおかしいでしょ」

「それは、まあ、そうだけど」

「だよね。それなら、二人が名前で呼び合うまで、三、二——」

「待て。そんな発表会みたいにする必要はないだろ。一緒にいたら自然と呼ぶだろうし」


 翔が言い返すと、潤がニヤニヤしながら肘で突いてきた。


「翔、男見せろよ」

「おい、味方してくれるんじゃなかったのか」

「味方してほしそーな態度じゃなかったからな」


 翔は押し黙った。ぐうの音も出ない。


「それか、彩花から呼んでもいいとは思うけど」

「えっ? あ、いや、でもっ……こういうのは、男の子がエスコートするものだと思うし……」


 さらりと水を向けられ、彩花は一瞬固まったが、すぐに小さな声で言葉を続けた。

 琴葉は「うんうん、そうだよね」と満足そうにうなずいている。


 彩花はすでに、抵抗を諦めているようだ。

 こうなった以上、琴葉は半端なことでは引かないだろう。


 変なあだ名じゃない。ただ名前を呼ぶだけだ。恥ずかしがることはないはず——。

 そんな思考とは無関係に、鼓動が早まる。


(……いや、あんな煽り方されたらしょうがないだろ)


 翔が琴葉を睨むと、彼女は逆におもしろそうに瞳を細めて、


「ほらほら、翔」

「ああ、もう、わかったよ——彩花」


 翔が勢いのまま呼ぶと、彩花はふっとまつ毛をふせた。

 そして、膝の上で拳を握り、消え入りそうな声で、


「えっと……翔君」

「ぐはぁ!」


 琴葉が胸を押さえてその場に倒れ込んだ。

 そのまま呻く姿は、何も知らない人から見れば緊急事態と捉えられてもおかしくない。


「おい、お前ら。俺の彼女に何してくれてんだ?」


 潤が翔と彩花を見た。

 言葉こそ責めているようだが、目元は和らいでいる。


「こんなに自業自得が似合うシチュエーションもない、というか、大袈裟すぎるだろ」

「い、いや、今のは……!」


 琴葉がゴロゴロ転げ回り始めた。

 パンツスタイルなので見えてしまう恐れはないが、華の女子高生の所作ではない。


「ちょ、服汚れちゃうよっ!」


 琴葉がレジャーシートからはみ出るのを見て、彩花が慌てて止めにかかるが、琴葉のローリングはむしろ加速している。


(……ただの名前呼びで、ここまでになるわけないだろ)


 無理やり名前で呼び合わせたことに対しての、彼女なりの誠意——もしくは贖罪——なのかもしれない。


「あぁ、芝生がいっぱい……!」


 徐々に緑色に染まっていく琴葉を前に、彩花は自分ごとのようにあわあわしている。

 さすがの人の良さだ。

 翔が頬を緩めていると、不意に肩を叩かれた。


「意外に翔もやるときはやるじゃねーか。なんだかんだで逃げ切ると思ってたけど、ちょっと見直したぜ」

「……そりゃ、どうも。それより、お前の彼女は何してんだ?」

「ああいう飾らないところも好きなんだよな」


 潤が愛おしそうに瞳を細める。

 翔は「はいはい」と投げやりに答えた。


 それから程なくして、琴葉はようやく起き上がった。


「うわ、めっちゃ草ついてる……」


 正気に戻ったのか、自分の服を見下ろし、嫌そうに顔をしかめている。


「だから言ったのに」


 彩花がぶつぶつ文句を言いながらも、甲斐甲斐しく一つ一つ芝生をつまみ取り始めた。

 さすがプロデューサーである。


(いや、これはただの世話好きか)


 ただ、世話好きでなければ他人のプロデュースなどしようと思わないだろう。


「もちろん琴葉はかわいいけど、双葉もかわいいじゃねーか」


 潤がさらっと言う。翔は反射的に眉を寄せた。


「……逆にかわいくないって言う男子がいたら、見てみたいけどな」

「素直じゃねーなぁ」

「うるさい」


 潤が首に腕を回してきた。翔は「暑苦しい」と抗議しながら、潤の腹を突いた。

 そのタイミングで、ぐう、と潤のお腹が鳴った。


「なっ……⁉︎」


 潤がパッと距離を取る。


「翔、お前……すごい能力を持ってんな」

「俺が鳴らしたわけじゃないから」


 翔は肩をすくめ、彩花たちに目を向けた。


「にしても、お昼はどこで食べるんだろうな?」


 急かすつもりはないが、正直なところ、翔もお腹が空いてきていた。


「さぁな。けど——」


 潤は一度言葉を切ると、何やら言葉を交わしている彩花と琴葉を見て、ニヤリと口角を上げた。


「期待はできると思うぜ」

第90話は「昼食の正体」です!

おそらく、みなさんの予想している通りだと思われます笑

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