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幼馴染にフラれた日、ヤケクソで助けた男の子の姉がクラスのお姫様だった 〜お姫様直々のプロデュースで、幼馴染を見返します〜  作者: 桜 偉村
第七章

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第86話 お姫様の謝罪

「えっと……翔君」

「ん?」


 翔が横を向くと、彩花が指先でスカートの端をつまむような仕草をしていた。


「……どうした?」


 名前呼びを恥ずかしがっているだけにしては、表情にどこか(かげ)りが滲んでいた。


「その……ここ数日、避けちゃっててごめんなさい」

「ああ」


 翔は「そのことか」とつぶやいた。

 新しい悩みでなくてよかった、と思うと同時に、ここ数日のなんとも言えないモヤモヤ感が、翔の胸にじんわり広がった。


「翔君がどうとかじゃなくて、なんか、変に周りの目が気になっちゃったっていうか……」

「ま、あれだけ注目されるのは、彩花もそんなに経験ないよな。——でも、正直なとこ、ちょっとムカついたよ。ジムでも距離取られてたし」

「そ、それはっ……ごめん」


 反論するように口を開いたのに、結局出てきたのは謝罪だった。

 翔は肩をすくめる。


「仲直りできたし、全然いいんだけどさ。前までの彩花は、ああいうのはあんま気にしてなかったと思うんだけど」

「だ、だって……っ、逆に、そっちは気にならなかったの?」

「今更だろ。これまでも、陰ではそう言われてたんだから」

「……えっ?」


 彩花がぴたりと足を止めた。


「……もしかして、気づいてなかったのか?」

「う、うん……そんなこと、言われてたの?」

「直接じゃないけど、割と前からな」

「そ、そうだったんだ……」


 まさか、気づいていなかったとは。

 確かに話題に上ることはなかったが、気にしていないだけだと思っていた。そもそも、そんな話を切り出されてもお互いに困るだけだ。


 ただ、それならば、距離を取られたのも理解できる。

 翔が同じ立場でも、距離感がわからなくなっていたかもしれない。


 ただ、翔には香澄という前例があった。

 だからこそ、彩花よりも状況を把握できていたという一面はあるだろう。


 クラスメイトは翔と彩花の「習い事」の内容は知らないとはいえ、平日の半分以上は一緒に帰り、教室でもよく話すほうだ。

 正直、学校でも学外でも、付き合ってたころの香澄よりも会っている時間は長い。


 だから、釣り合っているかどうかは関係なく、そういう噂が出るのは当然だと思っていた。


「あ、でも、びっくりしただけで、嫌とかじゃないからね? けど、変な言われ方してたし、つ、付き合ってるのか、とも聞かれたし……」

「確かにな」


 変な言われ方——おそらく「身体接触」のことだろう。

 あながち間違いとも断定しづらいが、わざわざ掘り下げる必要はない。


「俺も、蓮見に探りを入れられたよ」

「あ、二人で別の教室に行ってたとき?」

「あれ、俺のことは視界に入れないようにしてたのに、気づいてたのか」

「っ……意外とねちっこいんだね、翔君」

「はは、悪い悪い」


 笑って返した翔に、彩花はじっと目を向け——そっと息を吐き出した。


「……でも、蓮見さんって、恋バナとか興味ある子だったんだ?」

「うーん、あんまりそういう印象はなかったんだけど、けっこうちゃんと聞かれてさ。指示出しのついでとは言え、琴葉と同じように、彩花のことが心配だったのかな」


 だとしたら、自分はなかなか良くない男として認識されていることになってしまう。

 なまじ、中学からの付き合いだ。女の子をたぶらかすような男ではないとはわかってくれていると信じたいが。


(いや、逆に彩花をたぶらかせると思われているのなら、ある意味評価はされているのか?)


 先日のナンパたちもそうだった。

 彩花の隣にいても一応は認めてもらえるくらいには、プロデュースの成果も出てきているのかもしれない。

 その意味でも、自分の気持ちをしっかり伝えて正解だった。


 彩花のプロデュースなしに成長していく自分の姿など、想像できない。

 対等な関係を望む彩花には言えないが、まさに師匠と弟子だ。


 少しの沈黙が流れる。

 ここ数日と違い、居心地は悪くない——。

 翔がそうのんびりした気分になっていると、


「——翔君」

「えっ……ど、どうした?」


 不意に呼ばれて、喉がつっかえた。


「ううん、呼んでみただけ」

「っ……なんだよ、それ」

「ふふ、さっきの仕返し」


 彩花がご機嫌に胸を張ってみせる。


「いや、驚かせるつもりはなかったんだって」

「まあ、そういうことにしておいてあげるよ。——にしても、三度目の正直だね」

「……そうだな」


 一回目は買い物中、二回目は英語の問題を出し合いながら、そして今回。

 思い出すと、なんだかむず痒くなる。


「そういえば、ピクニックの日程はどうする?」


 言ったそばから、さすがに不自然すぎるだろ、と自分にツッコミを入れたくなった。

 とはいえ、苦し紛れの作り話ではない。

 カラオケの途中で、潤が提案してきたのだ。


『そういえば、前に夏休みに四人で遊ぶって話、してただろ? 四人でピクニックでもいかねーかって琴葉と話してたんだけど、どうだ?』


 その言葉に、翔は彩花と揃って同意した。

 小学生の頃にノリで花見をしたことはあるが、ちゃんとしたピクニックは初めてだ。


 潤と琴葉のイチャイチャを見せつけられるのが玉に瑕だが、迷わず承諾するくらいには魅力的な話だった。


「向こう次第じゃない? だってほら、私たちのカレンダー、ほとんど筋トレと勉強会しか埋まってないし」

「それもそうだな」


 顔を向け合い、笑みを交わす。

 けれど彩花の視線は、未だに翔の鼻のあたりで止まっていた。


 ジェットコースターが頂上間際で一度停止しているようなものだが、これはいずれ元通りになるだろう。

 そこから急降下することもないと思いたい。


(というか、カレンダーの名称、「双葉と」から「彩花と」に変えたほうがいいのか?)


 突然、そんな考えが浮かんできた。


 彩花にはすでにカレンダーを見せたことがあるし、今後もその機会は訪れるだろう。

 名前呼びをするようになったのだ。変更しても問題はないはずだし、気持ち悪いとは思われないだろう。


 それでも、わざわざ変更したと知られるのは、なんだかこそばゆい。

 しかし、逆に名字のままでも、それはそれで不満を持たれる可能性がある。


(これは、どっちが正解なんだ……)


 隣から怪訝そうな眼差しが注がれていることにも気づかず、翔はウンウンと頭を悩ませた。

第87話は「お姫様がチキンレースを開催しています」です!

他人の前で名字呼びのままと取り決めた二人ですが、電車で会うや否や、彩花さんが……?

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