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幼馴染にフラれた日、ヤケクソで助けた男の子の姉がクラスのお姫様だった 〜お姫様直々のプロデュースで、幼馴染を見返します〜  作者: 桜 偉村
第七章

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第81話 親友の彼女からの詰問と、翔の決断

(……園田、最近よく双葉と話してるよな)


 そのことには気づいていた。

 翔の教室での行動パターンは、主に潤と話す、彩花や美波と話す、一人で過ごしているの三つ——たまに自席で菜々子と言葉を交わすこともある——なので、当然と言えば当然だ。


 これまでは、ほとんど気にも留めていなかった。

 せいぜい、気楽に話せる相手が増えるなら彩花も嬉しいだろう、くらいに考えていた。


 それなのに、今日はいやでも意識が向いてしまった。

 将暉が紙を手に、身振り手振りを交えて口を動かしている。


 軽くうなずきながら聞いている彩花の口元に浮かんでいるのは、夏休みに入ってからは影を潜めていた、お姫様モードの笑み。

 ——だが、彼女はしっかりと将暉の目を捉えていた。


(……そりゃ、人と話すんだから当たり前なんだけどさ)


 心の中でそう言い訳しつつも、胸の奥に小さな棘が刺さる。


「草薙ー、その板、後ろに立てかけといてくれ」

「……わかった」


 クラスメイトに声をかけられ、翔は二人から意識を外した。

 それからしばらくは、指示に従って机や椅子を動かしたり、大きなパネルを運んだりと、力仕事に徹した。


「えっと、ガムテが必要か……」


 教卓にあったはずだが、今は何も載っていない。

 誰かが使っているのだろう——。

 そう思って、何気なく周囲を見回すと、


「あ……」


 翔の口から、小さな声が漏れた。

 ガムテープを使っているのは、他ならぬ彩花だった。


 将暉は少し離れたところで作業をしている。

 いつの間にか、話は終わっていたらしい。


 他にも、ガムテープを使用しているクラスメイトはいた。

 しかし、全員があまり話したことのない女子だ。


(……他の人に頼むのは、逆に不自然だよな)


 翔は息をひとつ吐いてから、水色がかった夏服の背中に声をかけた。


「双葉」

「っ……」


 ガムテープを貼ろうとしていた彩花の肩が、びくりと震えた。


「く、草薙君。なに?」

「ああ、ガムテープ、使い終わったら貸してほしくてさ」

「あ、えっと……それなら、先に使っていいよ」


 弱々しい口調とは裏腹に、押し付けるようにガムテープを渡してきた。


「いや、俺は後でいいんだけど」

「う、ううん。こっちはもうほとんど終わってるし、その、他にやることもあるから」


 そう言うや否や、彩花は近くに置いていた紙と睨めっこを始めた。


「……じゃあ、借りるわ」


 翔は彩花に背を向け、自分の作業スペースに戻った。




◇ ◇ ◇




 彩花と筋トレをするときは、マットスペースで並んでストレッチを始めるのが、一種のルーティンになっていた。

 しかし、その日は違った。


「あの、草薙君」

「なんだ?」

「申し訳ないんだけど、ちょっとやることができちゃって……そんなに長くはかからないと思うから、トレーニングも先に始めてて」


 彩花はそう言い切ると、小さく頭を下げ、足早にジムを後にした。

 ——バタン。

 聞き慣れているはずの扉の閉まる音が、やけに大きく響いた。


 トイレやシャワールームのある奥の扉ではない。ジムと家をつなぐ庭に面している、いわばジムの正門だ。

 彩花がトレーニング中にそこから出ていく姿は記憶にないな——。

 翔はぼんやりと、そう思った。


「……まあ、俺のほうが、最近は時間かかるしな」


 誰にともなくつぶやいて、一人でストレッチを始める。

 なんだか体がこわばっている気がして、いつもより入念に行なった。


 彩花が戻ってきたのは、翔が二つのメニューを消化した後のことだった。




◇ ◇ ◇




「……いちゃん、お兄ちゃん」

「ん……?」


 肩を揺さぶられ、翔はまぶたを開けた。

 ほんのり唇を尖らせた花音の顔が、視界に広がる。


「花音、どうした?」

「どうした、じゃないよ。さっきから三回くらい呼んでるんだけど」

「ああ……悪い。ちょっと考え事してた」


 寝ていたわけではないのに、呼びかけに気づかなかったことなど、ほとんど記憶にない。

 思考の渦の相当深いところまで、潜っていたようだ。


「皿洗いの担当、決めちゃうよ」

「了解」


 草薙家では、皿洗い担当をスマホアプリの「爆弾ゲーム」で決める、というよくわからない文化が最近定着しつつある。

 丸い爆弾を順番にタップしていき、爆発した人が負け、という単純なルールだ。


「今日は私から行くね」


 そう言いながら、花音が翔の隣に腰を下ろす。


「どれにしようかな……ここだ!」


 彼女が一番左下の爆弾に指先を押し当てた、その瞬間——

 画面が「ドカーン」と派手なエフェクトを撒き散らした。


「うわっ、お兄ちゃん先にすればよかった……!」

「どんまい」


 翔はおざなりに慰めの言葉をかけると、再びソファーの背に体を預け、瞳を閉じた。


「ねぇ、お兄ちゃん」

「なんだ?」


 交代要請なら拒否しよう、くらいに考えていた翔は、


「彩花さんと、喧嘩でもした?」

「っ……」


 花音の唐突な問いに、咄嗟に何も答えられなかった。


「……何で、そう思う?」

「ここ二日くらいは一回も彩花さんの名前が出てないし、顔も暗いし。推理するまでもないでしょ」


 花音はスマホをポケットにしまうと、逃げ道を塞ぐように翔の前で仁王立ちになり、腕を組んだ。


「……別に、喧嘩はしてないけど」

「じゃあ、なんでそんな顔してるの」

「どんな顔だよ?」

「お気に入りのキャラが出てこない回を見てるオタクの顔」

「誰がだ」


 よくわからないはずなのに、どこか納得してしまうのは、さすが兄妹といったところだろうか。


(双葉の考えも、これくらいわかれば楽なのにな……)


「あ、もしかして——昨日のデートが学校の人たちにバレて、気まずくなった?」

「っ……デートじゃないけど、まあ、そういうこと」


 きっと、彩花は噂を気にしているだけなのだろう。

 中学の話を思い返せば、それが事実でなくても、彼女が必要以上に、自身の色恋沙汰の話に対して敏感になるのもわかる。


(……けど、あそこまで避けなくてもいいだろ)


 ガムテープの一件、最後まで視線は交わらなかった。

 それに、同級生から注目されるのを気にしているだけなら、ジムでもよそよそしくする必要はないはずだ。


「それで、妹の呼びかけにも気づかないほどウジウジ悩んでると」

「ウジウジはしてないっての。……でも、確かに、いつまでも悩んでるだけじゃ、解決しないよな」


 多分、考えてもわかる問題じゃない。

 女の子は感情の生き物だというが、彩花は合理的な思考をするタイプだ。議論をすれば落とし所も見つけられるだろう。


「ちょっと待った、お兄ちゃん」

「なんだよ?」

「女の子って複雑だから、無理やり元通りになろうとしたら、逆効果になる場合もあると思うよ」

「——だからって、何もしないわけにもいかないだろ」


 翔は口にしてからまた、自分の口調がキツくなっていることを自覚した。


「……悪い」

「彩花さんと仲直りしたら許してあげる」


 花音が軽く鼻を鳴らした。


「……でも、動くのがダメなら、どうすればいいんだ? 花音は、双葉が何を考えてるか、わかるのか?」

「なんとなくね」

「マジっ? なら——」

「けど、合ってるかわからないから、下手なことは言えない」


 花音の真剣な眼差しが、翔を射抜く。

 意地悪ではなく、本心からの言葉だと、伝わってきた。

 翔は浮かしかけた腰を下ろした。


「わかんないけど、まずは彩花さんどうこうじゃなくて、お兄ちゃんがどうしたいのか考えてみれば? なんか、そこら辺がふわふわしてるから、今もどうしたらいいのかわかってないんじゃないの?」

「あ……」


 翔は思わず、まじまじと妹の顔を凝視した。


 彩花とどうなりたいのか——。

 そんなこと、ここ二日間で一度も考えなかった。


 だが、考えてみれば当たり前のことだ。

 自分の意思も定まってないのに、関係修復などできるわけがない。


「……お前、たまに鋭いこと言うよな」

「これくらい普通でしょ。お兄ちゃんが鈍いだけ」


 花音がくるりと踵を返して、キッチンへと歩き出す。

 その背中に向かって、翔は声をかけた。


「ありがとな、花音」

「お礼は仲直りしてからね。——じゃあ、お皿洗ってくるから」

「頼んだ」


 わずかに振り返った花音の耳たぶは、ほんのり赤くなっていた。

 翔は気づかれないように、そっと頬を緩めた。


 ふと、北斗の顔が頭をよぎる。

 機会があれば、何か手助けをしよう——。

 自然と、そう思えた。




◇ ◇ ◇




 翌日も、彩花と目が合うことはなかった。

 一晩考えた結果、翔は自分がどうしたいのか、少しだけ輪郭が掴めてきた。


 ただ、今度はそもそも、彩花と接点を持つ方法がわからない。

 無理に話しかけて、余計に拗れるのは避けたい。そうなったらおそらく、翔はその後に話しかけるのを躊躇してしまうだろう。


 かといって、このまま何もしないでいるのは絶対に違う。


(いやでも、週四で会ってるはずの相手なのにな)


 翔が自嘲気味に口角を上げた、そのときだった。


「潤と、琴葉?」


 二人が珍しく、廊下で真剣な表情を向け合っていた。

 というより、琴葉が険しい表情で何か話していて、潤は少し困惑するように眉を下げている感じだ。


 どう見ても、軽口を叩いている空気ではなかった。

 翔はなぜか、それが自分に——自分たちに無関係だとは思えなかった。




 結局、一度も彩花と言葉を交わさないまま、文化祭準備の時間は終わりを告げた。

 教室の片付けが一段落した頃、潤がすっと翔の近くにやってきた。


「翔。この後カラオケ行くぞ」

「え……今から?」

「ああ」


 潤が引き締まった表情で、顎を引く。

 これから歌って騒ごうとしている表情には、到底見えなかった。


「……いつものとこか?」

「そう」


 たった一回のラリーで会話が終わることなど、滅多にない。

 翔は若干の居心地の悪さを覚えた。


 そして、駅から数分歩いたカラオケ店に到着したところで、


「えっ……」


 翔はぴたりと足を止め、驚愕の声を漏らした。

 店の前で、二人の制服姿の少女がいた。——琴葉と彩花だった。


「おい、これってどういう——」

「その話は後。とりあえず入るよ。もう四人で予約してるから」


 琴葉がそう言いながら、彩花の背中を軽く押す。

 彩花は抵抗する様子もなく、そのまま前に進んでしまった。


 店内に入ると、琴葉の眼差しが、一瞬だけ翔を射抜いた。

 言葉は何もない。

 けど、どこか彼女らしからぬ圧を感じて、翔は潤に視線を戻した。


「……何か話してると思ったら、二人で図ってたのか」

「さぁな」


 潤は肩をすくめて歩き出した。

 だが、すぐにその足が止まる。


「——翔」

「なんだよ」


 潤は、受付カウンターで店員とやり取りをしている琴葉と、その半歩後ろで学生証を握りしめている彩花の背中を、顎で示した。


「このカラオケ、多分けっこうなダイニングポイントになるかも知んねーぞ」


 ごく真面目な表情でそう告げると、彼は「学生証見せなきゃだし、さっさと行こーぜ」と店内に足を踏み入れた。


 勝手に予約されていたのだ。断っても構わないだろうし、正直なところ、逃げ出したいという気持ちもある。

 だが、それだけはきっと、絶対に選んではいけない選択肢だ。


「……母さんが、ガスコンロからアイエイチに替えるか、悩んでたな」


 翔はふっと息を吐き出しながら、自動ドアをくぐった。

第82話は「親友のスタンス」です!

一件落着したかのように思われた翔君と彩花さんのすれ違いでしたが、潤君は何やら真剣な表情で琴葉さんと部屋を出ていき……?

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― 新着の感想 ―
>(……女の子とカラオケなんて、慣れてないからな) 幼馴染の彼女がいたのに? 将暉による寝取られエンドかと思ったのに仲直りしちゃった。 まだ可能性はゼロじゃない?
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