第75話 お姫様からの謝罪と、妹の異変
一昨日に投稿し忘れていました。すみません(>人<;)
本日の20:35にも、予定通りもう1話投稿します!
「お、劇場版の公開に合わせたのか。ちょうど良いタイミングだな」
翔が帰宅すると、ちょうどテレビで、観に行く予定のアニメが一挙放送していた。
(前に少し見たくらいで、ちゃんとは知らなかったしな)
リモコンを片手に、ソファーに腰を下ろす。
予習というほど大袈裟ではないが、せっかくの機会なので、見てみることにした。
「あ、これ……」
スマホを触っていた花音が、眉を上げる。
「花音も知ってるのか?」
意外だった。
男子が好む戦闘系のアニメには、あまり興味を示さないタイプだと思っていた。
「ま、まあ、クラスの男子が話してるからさ。……というか、いきなりセンターパートなんて、どうしたの?」
「気分だよ」
翔のではなく彩花の、だが。
「もしかして、彩花さんに?」
「っ……遊ばれたんだよ」
「ふーん?」
花音は意味ありげに語尾を上げた。
が、深く突っ込んでくることはなく、そのままテレビに向き直った。
彼女も見るつもりらしい。
「映画やってるんだよね。誰かと行くの?」
「友達と行こうかって話にはなってるけど」
買い物にも行ったし、勉強も一緒にしている。
彩花のことを「友達」と呼んでも、文句は言われないはず。
あまりしっくりはこないが、それは、これまで「女友達」という存在が身近にいなかったからだろう。
「そういうお前は?」
「まあ……クラスメイトと見に行こう、って話が出てるくらい」
「そうか」
わざわざ「友達」ではなく「クラスメイト」と言ったのが、少し気になる。
花音はいつも、前者を使っているはずだ。
気になったが、花音はどこか眉を寄せていて、触れてはいけない雰囲気もあった。
デリケートな話題かもしれない、と判断して、翔はそれ以上を聞かないことにした。
◇ ◇ ◇
一挙放送の途中、トイレに立ったついでにスマホを見ると、彩花から電車の時間と号車の情報が送られてきた。
電車で待ち合わせる予定だ。
了解と打ち込み、ついでにスタンプも送った瞬間、既読がついた。
まだ何か、打ち込んでいるのだろうか。
画面を開いたまま待っていると、果たしてメッセージが送られてきた。
——お母さんと、ちょっとギスギスしちゃってごめん。明日、エスコートよろしくね。
翔の頭からは抜け落ちていたが、彩花はそうではなかったようだ。
(弓弦とまとめてエスコートするよ……は、さすがにウザいよな。一括りにされるのを嫌がってたのもあるだろうし)
少し悩んでから、無難に「頼まれた」と返す。
続いて、アニメの一挙放送を見ていることを伝えると、今度はすぐに返信が来た。
——勉強熱心で、何よりです。
直後、満足げに鼻息を漏らすウサギのスタンプも送られてきた。
翔はくつくつと笑い声を漏らしながら、トイレを出た。
すると、ちょうど階段を登ろうとしている花音と鉢合わせた。
「トイレから出てきた兄がニヤニヤ笑ってるの、普通にホラーなんだけど」
「うるさい。寝ろ」
「まだアニメやってるから」
◇ ◇ ◇
—— 映画当日の朝。
「うーん……」
翔はクローゼットの前でうなり声を上げた。
珍しく、昨日のうちに服の用意を済ませていた、のだが。
「なんか、こればっかりだな……」
オシャレ着といえば、プロデュース開始直後に彩花に選んでもらった二着のみだ。
自分でも悪くないと思うし、出かける機会自体はあまり多くないが、それにしてもレパートリーが少なすぎる。
デートではないのだから、気を遣う必要はないのかもしれない。
弓弦もいるのなら、なおさらだ。
ただ、年頃の女の子らしく、彩花は毎回しっかりとオシャレをしてくる。
それなら、翔も相応の誠意は見せるべきだし、あまりに釣り合ってなければ、彩花に不快な思いをさせるかもしれない。
「今日はしょうがないけど……潤を連れ出すか」
運動とオシャレだけは信頼している友人の顔を思い浮かべながら、目の前のハンガーを手に取った。
「よう」
「ん、おはよ」
洗面所に向かうと、先客がいた。花音だ。
「どれくらいで終わる?」
「もうちょっと」
まだ中一ということもあって、花音の洗面所の使用時間はそれほど長くない。
朝食を食べている間には終わるだろうと、翔は高を括った。
しかし、歯磨きを済ませても、花音は鏡の前で前髪と格闘していた。
「お前、今日長くね?」
「別にいいでしょ」
どこか冷たい声で、視線も鏡を見たままだ。
待たせている側の態度ではないだろう、と翔は眉をひそめた。
「いや、電車の時間あるし、そろそろ使いたいんだけど」
「電車、何分発?」
「十九分」
「えっ……」
花音がぴたりと手を止め、振り返った。
「なんだよ?」
「あ、いや……じゃあ、もういいよ」
花音は慌ただしく化粧水などを棚に片付けると、足早に翔の横を通り過ぎていった。
ふわりと、かすかに甘い香りが鼻をくすぐる。香水だろうか。
普段はつけていないはず。京香のものを借りたのかもしれない。
「花音。スマホ忘れてるぞ」
洗面台の端に置かれていたスマホを手に取った、そのとき——通知音が鳴る。
画面の一部が目に入った瞬間、花音が慌てて引き返してきて、翔の手からスマホをもぎ取った。
「見た?」
「いや、見てないけど」
「じゃあ、いいや。……ありがと」
花音はスマホの画面を素早くタップしながら、今度こそ洗面所を出ていった。
見ていないというのは、半分本当で半分嘘だ。
差出人の名前までは見ていないが、「十九分」という文字は、視界の端に映った。
これから出かける相手からの連絡なのだろう。
「ま、いいか。俺もさっさとセットしないと」
別のことに意識を逸らしている時間はない。
翔はワックスのフタを開けながら、このベタつく感触にはいつまで経っても慣れそうにないな、と心の中でぼやいた。
翔がセットを終えると、玄関のほうから花音がパタパタと家を出ていく足音が聞こえた。
見送りを終えた京香が、リビングに戻りながら首を傾げる。
「昨日はもう一本遅く出るって言っていたはずだけど、予定でも変わったのかしらね」
もう一本後は、翔が乗る予定の電車だ。
それを聞いて、花音が急に慌て始めた理由は、翔と同じ電車に乗りたくなかったからだろう。
普段はつけない香水、やたら時間をかけていた髪のセット、そしてメッセージを見られたときの慌てぶりと合わせて考えれば、事情は容易に想像がついた。
「……お互いのために、ずらして良かったかもな」
第76話は「弓弦の暴露と、お姫様の思案」です!
彩花さんは、弟の無邪気な暴走を食い止められるのでしょうか⁉︎ そして最後には、驚きの展開も……?




