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幼馴染にフラれた日、ヤケクソで助けた男の子の姉がクラスのお姫様だった 〜お姫様直々のプロデュースで、幼馴染を見返します〜  作者: 桜 偉村
第七章

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第74話 お姫様からの褒め言葉と、映画の約束

本話から、あとがきに次回予告じみたものを入れていますので、よろしければご覧ください。

ご意見・ご感想などもあれば、ぜひ!

「じゃあ、オールバックにしていきまーす」

「はっ?」


 翔が抗議をする間もなく、彩花の白い指が、翔の前髪をがっと持ち上げた。


「……マジで?」

「冗談だって。根元を立ち上げるついでに、少しふざけただけ」


 彩花はニヤリと口角を上げ、持ち上げた前髪を、指先で撫でるように放射状に下ろしていく。


「良かった……」

「そんなことをする女だと思われてただなんて、心外だなぁ」

「自分の行動を振り返って——待て、冗談だ」


 額に再び彩花の手が添えられそうになり、翔は慌てて付け足した。

 髪型を委ねてしまっている以上、しばらくは、いつも以上に発言に気を遣う必要がありそうだ。

 プロデューサーの言うことは絶対、というやつである。


 立ち上がった前髪を、中央から左右へ、Cの字を描くように流していく。

 センターパートにするつもりらしい。


「ちょっと横から見てみるね」

「おう」


 彩花が翔の横に立ち、軽く身を乗り出した。

 シャツの裾が翔の腕をかすめ、翔はそっと腕を引いた。


 しかし、鼻先をくすぐるシャンプーの香りまでは避けようがない。

 まさか顔を背けるわけにもいかず、翔はやけに近い息遣いに落ち着かなくなって、ふと口を開いた。


「双葉、セット慣れてるな」

「まあね」


 彩花の小鼻が、ほんのり誇らしげに膨らむ。


「草薙君の髪、弓弦くらいサラサラで羨ましい」

「いや、それは双葉だろ」

「……え?」


 彩花が息を呑み、鏡越しにまじまじとこちらを見つめてくる。


「なんだよ?」

「どうして、私の髪の感触を知ってるの?」

「変な言い方すんな。見てたらわかるだろ」


 彩花の髪は、教室の蛍光灯の下でもわかるくらい、(あで)やかにまとまっている。

 触らなくてもサラサラだとわかる。少なくとも翔にはそう見えた。


「なんか、今の言い方もアレな気がするけど」

「そんなことないって。というか、弓弦の髪型もいじってるのか?」


 これ以上何か言えば、本当に変な発言をしそうで、翔は話題を切り替えた。


「たまにだけどね」

「あいつ、嫌がらないのか?」

「弟は姉に逆らえないから」

「結局、男は女に勝てないんだな」


 涼しげな声色に、翔は肩をすくめた。


「草薙君も、花音ちゃんには勝てないもんね」

「一応、年上のはずなんだけど」

「ふふ。お父さんも大学の先輩らしいんだけど、お母さんに怒られると、小さくなるよ」


 そのときだけは存在感がなくなるんだよね、と彩花は楽しそうに笑う。


「輝樹さんがシュンとなってるのは、なんとなく想像できるかも」


 大柄で優しそうな人ほど、家では縮こまる——漫画や小説でよく見る構図だ。翔の父、正志はそういうタイプではないが。

 身近で言うと、潤が琴葉にやり込まれているのが、イメージに近いだろうか。


「逆に、真美さんが怒るのは想像できないな。おっとりしてるし」

「ああいうタイプが、一番怒ると怖いんだよ」

「確かにな。双葉とどっちが怖い?」

「私なんか全然だよ。——目と鼻と口と耳、どれにワックス塗り込んでほしい? 全部?」

「怖い以前に、ただの犯罪だから」


 彩花はくすっと頬を緩めながら、前髪をひと束掴んで横に流し、最後に翔の頭全体を包むようにポンポンと叩いた。


「はい、おしまい」

「サンキュー」


 翔は改めて、鏡の中の自分と向き合った。

 うまく仕上がっている、とは思う。が——


「……やっぱり、変じゃないか?」

「クレームは受け付けないよ」


 彩花がワックスのついた手を洗い流しながら、唇を尖らせる。


「いや、そういうんじゃなくて、なんかこう……違和感があるっていうか」


 奇抜ではないはずなのに、どこか背伸びをしているような感覚が拭えない。

 彩花は腰に手の甲を当て、やれやれというようにため息を吐いた。


「少しは自信がついてきたと思ったけど、そこら辺はまだまだだな」

「しょうがないだろ。初めてなんだから」

「ま、慣れてないうちはね」


 彩花が軽い調子で肯定した。

 許された、と翔が緊張を解いた、その瞬間だった。


「でも、安心して。——かっこいいよ」

「……えっ?」


 思わず、彩花のほうを向いた。


(い、今、なんて……っ?)


 問い返す言葉は、声にならない。

 心臓の鼓動音だけが、耳に響く。


 彩花はそっと視線を逸らし、小さく吐息を漏らしてから、


「——こうしたら、もっとね」


 最後に流したひと束をつまみ上げて、そのまま後頭部へ持っていった。


「ほら、イケメンじゃん」

「おい、一本だけオールバックにすんな」


 イタズラっぽい声色に、翔の肩から自然と力が抜けた。


「草薙君。全部を後ろにまとめるからオールバックなんだよ。これはワンバック」

「元アメリカ代表の女子サッカー選手じゃん」

「知らないよ。それよりほら、早く行こ。弓弦が待ってるから」


 彩花は手際よく洗面用具を片付けると、男性用のシャワールームを後にした。

 なんだか取り残されたような気持ちになりながらも続こうとして、もう一度だけ、鏡に映る男を眺めてみる。

 やはり、頼りない。


「……かっこよくは、ないだろ」

「草薙君? どうしたの?」


 扉の向こうから、彩花の声が飛んできた。


「あ、ごめん。今行く」


 翔は少し背筋を伸ばしながら、足早にその場を後にした。




◇ ◇ ◇




「あ、翔くん、前の僕と同じ髪型にされてる!」


 双葉家のリビングのソファーに座ってテレビを見ていた弓弦が、翔を見て大きな声を出した。


「おー、お揃いだな」

「ね! 僕は一本だけ、すっごく跳ねさせられたけど」


 やはり最後に遊ばないと気が済まないらしい。

 腕は確かでも、プロ向きの性格ではないな、と翔は内心で苦笑した。


「弓弦。アニメを見てたのか?」

「そう!」


 弓弦がタイトルを口にする。


「あ、知ってる。ぼちぼち映画やるんだよな?」

「そ。ちょうど三日後に、弓弦を連れていくって話をしてたんだ」

「へぇ、いいじゃん」


 翔も以前、花音を映画に連れて行ったことがあった。なんだか、少し懐かしい気持ちになる。

 と、弓弦が翔をちょい、と引っ張ってきた。


「ね。知ってるなら、翔くんも行こうよ!」

「俺も?」

「うん。三人で行ったら楽しいよ!」


 期待に満ちた眼差しに見つめられ、翔は彩花に目で問いかけた。

 彩花はちらっと弓弦を視界に入れて、答えた。


「弓弦もこう言ってるし、いやじゃなかったら、行こうよ。けど、全然断ってくれていいからね。興味ない映画を観させるわけにもいかないし」


 同行を嫌がっているようには聞こえない。かといって、歓迎されているとも限らない。


「うーん……」


 迷うそぶりを見せると、袖を掴む弓弦の指に、ぎゅっと力がこもった。

 その瞬間、翔は口を開いていた。


「そういうことなら、同行させてもらおうかな。こういうのって、映画だと迫力がすごいし。——真美さん、いいですか?」

「えぇ、ぜひ」


 雑誌を読んでいた真美は、突然の問いかけに、驚いた様子も見せずにうなずいた。


「彩花と弓弦をよろしくね」

「やった!」

「私は含めないでいいでしょ」


 ソファーで小躍りを始める弓弦とは対照的に、彩花は眉を寄せた。


「あら、仮にも同級生の男女でお出かけするのなら、男の子がエスコートしないと。ねぇ、翔君」

「はい。頑張ります」

「頑張らなくていいから。私と草薙君で、弓弦の引率。それでいいでしょ」


 彩花はそっけなく話を打ち切ると、スマホを取り出す。


「それよりほら、夏休みだし、売り切れる前に、チケットを取っちゃおうよ。草薙君は何列目がいいとか、希望はある?」


 いつもより早口だ。

 よく見ると、耳元がうっすら染まっている。


「そうだな。あんまり前だと音が大きすぎるから、前から八列目くらいがいいかな。でも、二人に合わせるよ」

「ううん。私たちもそれくらいで考えてた」


 彩花の親指が、素早くスマホの画面を撫でる。眉間には小さなシワが寄ったままだ。

 意外と、真美の言葉を根に持っているらしい。


 翔がもし京香に彩花とのことを詮索されたら、似たような反応をする気がした。

 恋愛云々以前に、異性とのことを親にあれこれ言われるのは照れくさいし、居心地の悪いものだ。


(でも、よく考えたら、同級生の女の子とその弟と遊びに行くって、あんまり普通じゃないような……)


 彩花から顔を逸らす。

 すると、真美と目が合った。


 彼女はぱちっとウインクを決めた。

 彩花を怒らせた件について、特に気にしていないようだ。


 母娘の間で、何か通じ合っているものがあるのかもしれない。

 だが、少なくとも翔には、それがなんなのかはわからなかった。

第75話は「お姫様からの謝罪と、妹の異変」です!

女の子たちに、一体何が起こっているのでしょうか?

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