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幼馴染にフラれた日、ヤケクソで助けた男の子の姉がクラスのお姫様だった 〜お姫様直々のプロデュースで、幼馴染を見返します〜  作者: 桜 偉村
第七章

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第70話 幼馴染の拒絶と、教師からの叱責再び

「「っ……」」


 朝、翔が席を立って廊下へ出ようとしたとき、教室に戻ってきた香澄と鉢合わせた。


 香澄は息を呑んだものの、すぐに顔を背けて、そのまま足早にすれ違っていった。

 まるで、見たくないものでも見たような反応だった。


「ずいぶん露骨だね、赤月さん」

「……吉良」


 背後から声をかけてきたのは、美波だ。


「別れた直後ですら、あんなに邪険じゃなかったよね。——何かあったの?」


 横目で伺うような視線を送ってくる。

 質問の形式を取っているが、何かがあったことは確信しているようだ。


(間違いなく、昨日の一件だろうな)


 翔はそれを確信していたが、他の人に話したい内容ではなかった。


「別に、何も。単純に、向こうの考えが変わったんじゃないか?」

「それはあるだろうね。でも、嫌いなだけなら、あんな過剰な反応はしなさそうだけど」

「かもな。——俺、トイレ行ってくる」


 翔はトイレに向かいながら、美波への態度が悪かったな、と頭を掻いた。

 なんとなく胸のあたりがざらついたまま教室に戻ってくると、香澄が翼に話しかけているのが目に入った。


 翔が扉をくぐったのと同時に声をかけたように見えたが、偶然だろう。

 香澄にそんなことをする理由はないはずだ。


(……そうだとしても、俺には関係ないしな)


 とりあえず翼との関係は修復できたようだし、それでいいと思うことにした。

 しかし、それとは別に、翼の真後ろにある自分の席へ戻ることに、翔は少しだけ抵抗を感じた。


「あそこに飛び込むの、気まずい?」


 美波が再び話しかけてきた。

 翔の態度に関しては、気にしてもいないのか、水に流してくれたらしい。


「参加するつもりもないんだけどな」

「そういうことなら、こっち一択でしょ」


 暗に肯定すると、美波に腕を掴まれた。

 連れて行かれた先は、彩花の席だった。


「はい、彩花。手筈通り、連れてきたよ」

「なんの手筈よ。いらっしゃい、草薙君」


 彩花は苦笑している。驚いている様子はない。

 翔と美波が話しているのは知っていたようだ。


「彩花。そこは『おかえりなさいませ』でしょ」

「メイドさんじゃないんだから」

「お、文化祭、メイドカフェやる?」

「いやだよ。美波が勝手にやる分には、止めないけど」


 彩花がため息混じりに即答した。


「私じゃ彩花みたいに集客できないから、赤字になっちゃうよ」

「モテてるくせに、何言ってんだか」

「彩花ほどじゃないからね」


 彩花にコツンと頭を突かれた美波は、片頬のみを上げて、その隣の席に腰を下ろした。

 他に空きがないので、翔は二人の間に立った。


「——あ、草薙君。座りますか?」


 ふと、柔らかい声が届いた。

 彩花の前の席の菜々子が、立ち上がっていた。


「ありがとな、蓮見。けど、俺は大丈夫だよ」

「あ、いえ、私はどうせ結愛(ゆあ)ちゃんに会いに行くので、嫌じゃなければぜひ」


 そう言って、菜々子は足早に去っていった。

 やはり、どこかよそよそしい態度だ。

 こうして気遣ってはくれるので、嫌われているわけではないのだろうけど。


「じゃあ、遠慮なく」


 菜々子に言えなかった言葉をつぶやきながら、翔は彼女の席に腰を下ろした。


「ふーん。蓮見さんと仲良かったんだ? そういえば、中学が同じで、普段の席も隣だよね」


 美波が意味ありげに眉を上げる。


「単純に優しいだけだろ」

「うん。それに、蓮見さんは誰にでもああいうことするから。蓮見さんにも草薙君にも失礼だよ」


 肩をすくめる翔に、彩花が即座に同意した。

 美波に向けた言葉には、わずかなトゲが混じっていた。


「確かにそうだね。反省するよ」


 言葉とは裏腹に、美波は笑顔のまま、彩花の脇腹を指先でツンと突いた。


「けど、彩花、心配する必要はないよ」

「な、なんの話よ」


 彩花は美波の手を払うと、ぷいと横を向いた。

 頬のあたりが、少しだけ熱を帯びている。

 心当たりはあるようだ。


(本当に、なんの話だ?)


 取り残されたような気分で、翔は首をひねった。




◇ ◇ ◇




 最後に返却されたのは現代文だった。

 しかめっ面の遠藤から答案を受け取った瞬間は嫌な汗がにじんだが、点数を確認して力が抜けた。


(七十二点って、普通に高いよな)


 むしろ褒められてもおかしくない。

 ただ、それでもトップ五には入れなかった。

 遠藤は上位五名の名前と点数を公開するのだ。


「しっかりと勉強しているのはわかっていたが、双葉はさすがだな。蓮見、宮城、赤月もなかなかのものだ」


 上から、彩花が八十六点、菜々子が八十二点、クラス会長の宮城が八十点、美波が七十八点、そして香澄が七十四点だった。

 香澄が二つ順位を落としただけで、前回と同じメンバーだ。


「けど、今回も全員女子じゃないか。ったく……男子も頑張れよ」


 遠藤がメガネを押し上げて、鼻を鳴らしたが、男子は数人が小さく声を漏らすのみだ。


(あと二点か)


 十点以上アップしたので、上出来だとは思う。

 だが、どうせならトップ五に入りたかった。


「草薙。悔しそうじゃん」

「あっ、おい——」


 隣の葵に素早く答案をかすめ取られた。

 抗議をする間もなかった。


「おお、七十二? やるじゃん」

「これは予想外」


 葵の背後から覗き込んだ小春も、眉を上げる。

 小春にしては表情の変化が大きい。本当に驚いているのかもしれない。


「ったく……そっちのも見せろよ」

「はいよ。小春もいいっしょ?」

「うん」

「潔いな」


 さすがギャルである。


「って、篠原のほうが高い——というか、普通に高得点じゃん」


 小春の五十二点に対して、葵は六十六点だ。

 平均点が五十四点だ。クラスでトップ十には入っているだろう。


「ちょ、ウチのこと、バカだと思ってたの?」


 葵はにやりと目を細め、椅子の背にもたれながら片足を組んだ。


「い、いや、そういうわけじゃないけど。ほら、前も遅刻してきたし」

「現代文なんか、適当に教科書読んどけばできるっしょ」

「そんなことない。葵はギャル失格」

「国語できたらダメなんかい」


 テンポの良い切り返しに、翔は噴き出した。


「草薙。静かにしろ」

「……すみません」


 メガネの奥から遠藤の鋭い視線が突き刺さり、自然と笑みが引っ込む。


 遠藤は、葵と小春のほうも一瞥した。

 しかし、何も言わなかった。


(……なんで、俺だけ怒られるんだよ)


 授業の邪魔をしたのは事実だ。

 それは素直に申し訳なかったと思う。


 けれど、それなら説教の対象は翔だけではないはずだ。


「うっわ……」

「キモ」


 葵のほうが表情に出ているが、言葉に容赦がないのは小春だ。

 この辺りの感性が現代文の点数に表れているのかはわからないが、その素っ気なさに、翔は少し救われた。


 授業が終わり、スマホを取り出す。

 すると、続けざまに『双葉 彩花がスタンプを送信しました』という通知が表示された。


(双葉から?)


 口には出せない連絡、ということなのだろう。

 ジムに関することだろうか、と考えながら、メッセージアプリを開くと——


 まず、腕を組んで鼻息を荒げているうさぎと。

 続いて、無表情でメラメラと炎を燃やしているうさぎが、視界に飛び込んできた。


「やっぱり汎用性が高いよな、うさぎって」


 翔はくすっと笑みを漏らした。

 こちらも何か返そうか、と悩む彼の中からは、遠藤への怒りなど、すっかり消え去っていた。

うさぎは便利です笑

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