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幼馴染にフラれた日、ヤケクソで助けた男の子の姉がクラスのお姫様だった 〜お姫様直々のプロデュースで、幼馴染を見返します〜  作者: 桜 偉村
第六章

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第67話 お姫様vs幼馴染

「重い……」


 首の後ろにじりじりと夕陽が刺さるのを感じながら、香澄はため息を吐いた。

 買い物袋の持ち手が左右の手のひらに食い込み、肩や肘で持ち替えても、結局は同じ腕だ。さすがに疲労感を覚えていた。


 わかっている。素直に頼らなかった自分が悪い。

 翼は「持とうか?」と申し出てくれたのに、「大丈夫」と返したのは自分だ。


(でも、あいつは強引にでも持ってくれたのに……って、私は何を考えてるの。翼は私の意見を尊重してくれただけ。正しいのは翼だわ)


 その翼は、買い物が終わると香澄と別れて、部活仲間との自主練に向かった。

 出先から練習に直行とは、さすがの向上心だ。


 どのみち、香澄はこのあと美容院に行く。

 ついて来られても意味はない。


「そんな過保護な扱いなんて求めていないし、そもそも私の柄じゃないもの」


 誰にともなくつぶやき、一転して足早に歩き出した。だが——


「……翔?」


 正面から歩いてくる翔と彩花の姿を認め、足が止まった。


◇ ◇ ◇


 香澄が翔と彩花を見比べ、驚いたように眉を上げる。


「二人揃って、美容院の帰りかしら?」

「ああ」


 翔は彩花の前に半歩出て、簡潔にうなずいた。

 香澄がその場に留まっているので、仕方なく問い返す。


「もしかして、そっちもこのあと行くのか?」

「……よくわかったわね」

「なんとなくだよ」


 やはりというべきか、希を指名していたもう一人の同級生というのは、香澄だったようだ。

 だが、わざわざ話題を広げる必要はないだろう。


「そうよ。とは言っても、あなたたちとは違って、一人で行くところだけれど。美容院終わりに買い物デートなんて、洒落てるじゃない」

「ちょっと事情があったんだよ。そういうのじゃない」


 いつもより踏み込みが強い。

 翔は眉間にシワを寄せ、香澄の買い物袋を顎で示した。


「というか、デートしてたのはそっちだろ」

「まあ……そうだけれど」


 香澄はそれを、翔と彩花の視界から遠ざけるようにぐっと引いた。

 その視線が一瞬だけ、翔の持つ彩花の荷物に向けられたような気がした。


「その桐生君は、もう一緒じゃないの?」

「えぇ、サッカー部の自主練に行ったわ。すごいわよね」


 彩花の問いに対して、香澄が口の端を歪める。

 言葉だけ見れば、彼氏自慢に聞こえるが、その笑顔はどこか引きつっていた。


(でも、不満があるのを誤魔化すために褒めるようなタイプでもないよな……)


「翔——」


 違和感を覚えていた翔を、香澄の鋭い眼差しが射抜く。


「なんだ?」

「あなたもデートなんかに(うつつ)を抜かしている暇があったら、翼のように努力をしたほうがいいと思うわ。いくら髪型や服装を整えても、肝心の中身が強くなっていなければ、なんの意味もないもの」

「っ……わかってるよ、そんなこと」


 翔は吐き捨てるように答えた。正論だと思うが、香澄に言われる筋合いはない。

 というより、いきなりなんでそんなことを言われなければならないんだ。


「——どうして、草薙君が努力をしていないなんてわかるの?」


 拳を握りしめる翔の背後から、鋭い声が放たれた。——彩花だった。

 香澄はたじろぐように息を呑んだが、すぐに目を細めて彩花を見る。


「何が言いたいの? 双葉さん」

「言葉通りだよ。赤月さんは草薙君が普段どんな生活をしてるかなんて、全然知らないじゃん。それなのに、どうして彼が努力してないなんて言い切れるの?」

「そ、それは……」


 香澄が言い淀み、間を誤魔化すように唇を舐める。けれど、彩花の勢いは止まらない。


「草薙君はすごく努力してるよ。髪型や服装だけじゃない。筋トレも勉強も頑張ってる。その証拠に、顔立ちも少し変わってきた。親しくなってから二ヶ月も経ってない私でもわかるんだから、赤月さんが気付いてないとは思えないけど」


 彩花の挑発するような言葉に、香澄のまぶたが震えた。


「赤月さんからすれば、それでもまだ桐生君には敵わないって思ってるのかもしれないし、事実としてはそうなのかもしれない。草薙君が頑張り始めたのは、ここ最近のことだからね。けど——」


 彩花は語気をわずかに強め、翔の横へ進み出ると、その腕にそっと指先を添えた。


「それでも、頑張っているのは事実だから。それは赤月さんにも否定させないよ」

「っ……」


 香澄の肩がぴくりと跳ねた。

 彩花はふっと息を吐き出し、眼差しを和らげて続ける。


「それに、そもそも今は私から誘ったんだから、どちらかというと現を抜かしているのは私のほうだしね。——それより赤月さん、そろそろ予約の時間じゃないの?」


 彩花が腕時計の盤面をトントンとつついた。


「……そうね。邪魔したわ」


 香澄は絞り出すようにそう言うと、翔とも彩花とも視線を合わせることなく、足早に横を通り抜けていった。

 袋の持ち手を握る指先は、先程よりも赤みが濃くなっていた。


(あいつ……)


 翔はその背中を振り返り、眉を寄せた。

 ——そんな彼の横顔を、彩花がじっと見つめていた。

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