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幼馴染にフラれた日、ヤケクソで助けた男の子の姉がクラスのお姫様だった 〜お姫様直々のプロデュースで、幼馴染を見返します〜  作者: 桜 偉村
第五章

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第60話 女性陣の不安

昨晩に第59話をゲリラ投稿をしています。まだお読みになっていない方は、そちらからお読みください!

 門扉をくぐったところで、琴葉は彩花の腕を解放した。

 ふと、顔を覗き込んでみる。


「彩花、大丈夫?」

「な、なにが?」


 首を傾げる彩花の瞳は、左右に揺れていた。

 琴葉はそれを指摘せず、「ううん、なんでも」と首を横に振った。一拍置いてから、何気ない口調で尋ねる。


「それより、彩花はどこ行きたい? ——ダブルデート」

「な、なっ……!」


 彩花が息を呑み、足を止めた。


「ちょっと暑いかもだけど、ピクニックとか行ってみたいんだよねー。楽しそうじゃない?」

「う、うん……でも、だ、ダブルデートじゃないからね? 私たちは、その……付き合って、ないんだし」


 彩花の語尾が萎む。琴葉は喉の奥で短く悶えを押し殺し、息を整えた。


「でも、明確にペアの男女がお出かけしたら、それはもうデートだと思うけどな。私と潤も、付き合う前に何回かデートしてるし」


 そう言って、琴葉は潤の肘に自分の肘を軽く引っかける。潤も意外そうに目を丸くしたものの、すぐに肩を寄せた。


「……」


 それを見た彩花は、再び赤面する——ことはなく、唇を噛みしめてうつむいた。靴の先で、アスファルトの白線を辿る。


「あっ、ごめん……さすがにしつこかった?」

「えっ? ——あ、いや、そんなことないよっ」


 眉を下げる琴葉に、彩花は慌てたようにパタパタと手を振った。

 琴葉は安堵すると同時に、首を捻った。それならばなぜ、彩花はそんなに暗い表情をしているのだろうか。


「そうじゃなくて、その……勉強会する前、琴葉と草薙君のこと、ちょっと邪推するようなこと言っちゃって、ごめんなさい。嫌、だったよね」

「あ、そういうことか……心配しないで。全然気にしてなかったよ」


 今度は琴葉が否定する番だった。首を振りながら、潤の手を握る。

 すかさず握り返した潤に笑みを向けてから、琴葉はその表情のまま、彩花に視線を戻した。


「だって、私たちの仲は、あの程度では傷一つ付けられないからね」

「っ……うん、ありがと」


 彩花は頬を染めて、小さな声でつぶやいた。

 琴葉は「なんのこと?」と肩をすくめて受け流した。しかし——


「双葉って、他のカップルを見て喜ぶのか?」

「っ、このアホ!」


 潤が不思議そうに問いかけた瞬間、琴葉の拳が、雷の如く潤の脳天に落ちた。


「いてぇ⁉︎ なんでだよ? 今、双葉がありがとうって言ったから——ふぐっ」

「お口チャックだよ、潤」

「ふぁ、ふぁふぁりふぁひたっ」


 潤が目に涙を浮かべながら、コクコクと勢いよくうなずく。

 琴葉は最後にもう一度、頬をむにっとつまんでから、彩花に向き直り、器用に片目を瞑る。


「ウチの潤がごめんね、彩花」

「い、いいけど……けっこう容赦ないんだね、琴葉」


 彩花は口角を上げたが、その頬はわずかに引きつっていた。


「ダメなことをしたら、ちゃんと叱ることが大事だから」


 琴葉は腰に手を当てて、親指を立てた。

 今のように、潤は発言の裏を読むようなことはしない。ちゃんと言葉にして伝えたほうが、お互いのためなのだ。


「緑川君にすっごく失礼だけど、犬の育て方を聞いてるみたい」

「昔のプロ野球では、本当に犬の育て方を参考に選手を育てたコーチがいたんだって。それにほら、潤って大型犬みたいなとこあるでしょ?」

「そ、そうかな……」

「彩花はほんとにいい子だねぇ」


 言葉を濁した彩花の頭を、琴葉がポンポンと撫でた。

 彩花が、自分の頭を往復する手を睨むように見上げる。


「やめてよ。それこそ、犬扱いしないで」

「別にそういうつもりじゃないって。ただ——」


 琴葉は、彩花のスカートのポケットへ視線を滑らせた。


「彩花が相棒のうさちゃんにするみたいに、しただけだよ」

「っ……!」


 すでに薄っすら色づいていた彩花の頬が、再び真っ赤に染まる。

 ぷいっとそっぽを向いた彼女を見つめて、琴葉は「かわいいなぁ」と、瞳を細めた。


「……お前、やっぱり性格悪いよな」

「ふふ。その性悪女を好きになったのは、誰かな?」


 琴葉が指で潤の頬をつつく。潤は無言で両手を上げ、降参のジェスチャーを作った。

 そのやり取りを見て、彩花がオロオロと恥ずかしがり、琴葉が身悶えた結果——


 三人は、予定の電車を乗り過ごした。




◇ ◇ ◇




 潤と琴葉の最寄り駅は、彩花が降りてからさらに二駅先だった。

 改札を抜け、商店街の明かりがまばらになる辺りで、琴葉がふっと足を止めた。


「……ねぇ、潤」

「ん?」


 琴葉は言い出しづらそうに視線をさまよわせ、指先でトートの持ち手をいじる。

 潤はなにも言わずに、黙って琴葉を見つめた。


「潤も……彩花みたいに、私と翔のやり取りが嫌だったりとか、しなかった?」

「いや、全く。こいつらおもしれーとは思ったけどな」

「……即答されると、それはそれでムカつくんだけど」


 琴葉は肩をすくめてみせるが、頬の熱を誤魔化すことはできなかった。


「さっき琴葉が言ったんじゃねーか。俺たちの仲は、あの程度じゃ傷一つ付けられないって。それに、琴葉が俺のことを好きなのは伝わってくるし」

「な、なんで、そういうことをさらっと言うかな……」


 潤に頭を撫でられ、琴葉は口の中でもごもごと文句をこぼした。

 言いたいことはあるはずなのに、はっきりとした言葉にならない。


「あっ、だから、わざわざ翔と双葉の前でイチャついてたのか」

「……それくらい、あの場で気づいてよ。野生の勘がなくなったら、潤じゃないんだから」

「俺って野生の勘そのもの⁉︎」


 愕然としたように目を丸くする彼氏を見て、琴葉は思わず吹き出した。

 安心したからだろうか。しばらくの間、笑いは収まらなかった。


「あー、お腹痛い……もう、心配して損したよ」


 琴葉はふっと息を漏らしながら、涙を拭った。


「肉切り損ってやつか?」

「骨折り損だよ。肉を切らせて骨を断つ、が混じってない?」

「おう、それだそれだ」


 肉を切らせて骨を断つ。まさに先程の自分のようだ、と琴葉は思った。

 友人たちの前で彼氏とイチャイチャするなんて、恥ずかしくないわけがないのだから。


(それも、ただの空回りだったし……あのとき、潤が気にしてないって伝えてくれたらよかったのに)


 繋いだ手に、ぎゅっと力を込めてみる。

 しかし、八つ当たりだと自覚はあった。潤はずっといつも通りだった。琴葉が勝手に不安になっていただけだ。


(って、なんか、私が一方的みたいじゃん)


 さらに強く、潤の手を握りしめてしまう。

 すると、潤は痛がるそぶりも見せずに、握り返してきた。


「琴葉、どうした? 夜道が怖いか?」

「っ……なんでもない」


 さりげなく距離を詰められ、琴葉はそそくさと歩き出した。

 うつむきがちに潤を引っ張りながら、二度と心配なんてするもんか、と心に誓った。


 もっとも、ぽつりぽつりと並ぶ街灯の下を抜けて、琴葉の家が近づいてくるころには、握る手の力などすっかり抜けていた。

 門扉の前で向かい合い、二つの影が近づく。お互いの吐息が触れそうな距離で、視線が交差した。


「琴葉、いいか?」

「うん……ん」


 唇がそっと触れ、琴葉の喉が小さく鳴った。

 これ以上のことだってしているのに、この瞬間はいつまで経っても鼓動が早まってしまう。


(まあ、それでいいんだけど)


 琴葉は一歩下がり、はにかむように笑いながら、潤を見上げた。


「送ってくれてありがと。気をつけて帰ってね」

「おう。じゃーな」

「バイバイ」


 潤が軽やかに手を振りながら、遠ざかっていく。

 その背中が角を曲がって見えなくなるまで、琴葉は門の前で手を振り続けた。


 静けさが戻る。琴葉はそっと自分の唇に指先を当て——ハッと指を離した。


(な、何やってるの、私……!)


 彼女は胸を押さえてその場にしゃがみ込み、声にならないうめき声を漏らした。




◇ ◇ ◇




 ——一方、その頃の草薙家。


「お兄ちゃん。今日の、世間一般では普通にダブルデートだからね」

「うるさい。お前はさっさと寝ろ」

「まだ夕食前だよ」

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