表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幼馴染にフラれた日、ヤケクソで助けた男の子の姉がクラスのお姫様だった 〜お姫様直々のプロデュースで、幼馴染を見返します〜  作者: 桜 偉村
第四章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

48/127

第48話 手提げの中身

「陽は長くなってきてるけど、気をつけてね」

「彩花さん、またねー」


 京香と花音に見送られながら、翔と彩花は草薙家を後にした。

 玄関を出たところで、彩花がふと足を止めて、翔の右手に目を向けた。


「草薙君。その手提げ、なに?」

「……ちょっと、用事があって」


 少し躊躇ってから、翔は返事をぼかした。

 早く済ませたほうが気は楽になるだろうが、今はまだ、そのタイミングではない。


「それより、空気悪くしてごめん。妹相手に対抗心燃やして……自分が揶揄われたら嫌なのにな」

「兄妹喧嘩なんて普通だし、そんな気にしてないよ」


 彩花の口調はあっさりしていた。しかし、その瞳は前方に向けられたままだ。


「ほんとに、そうか?」

「っ……」


 彩花は口をつぐみ、迷うように視線を揺らした。やはり、なにか言いたいことがあるのだろう。

 翔は手提げの持ち手をぎゅっと握り直した。


「偉そうで悪いけど……言いたいことがあるなら、言ってほしい」


 しつこいかもしれないと思いつつ、重ねて問いかけると、彩花はそっと息を吐いた。


「……そんな、大したことじゃないけどね。あんな必死になって否定しなくても、よかったんじゃないかなーって」

「えっ?」


 翔は目を瞬かせた。なんのことを言われたのか、わからなかった。


「ほら、花音ちゃんに付き合ってるのか聞かれたときだよ。否定するのは当然だけど、なんか絶対に勘違いされたくないって感じが、少しだけ嫌だったっていうか」

「——あ、いや、それは違うよっ」


 大声が出た。咄嗟のことだった。

 彩花がびっくりしたように目を丸くするのを見て、咳払いをする。


「あくまで、花音に勘違いされると面倒くさいってだけで……悪い。双葉を傷つけるつもりはなかったんだ」


 決して彩花を拒否したわけではなかった。だが、そんなのは他人にはわからない。

 恋愛感情の有無に関わらず、異性として見られていないというのは、いい気分はしないものだ。


「それならいいけどさ。ぶっちゃけ、そうじゃないかとは思ってたし……こっちこそ、つまんないこと気にしちゃってごめんね」

「いや、俺の言い方が悪かったよ。俺が双葉の立場でも、同じように感じたと思う」

「ふふ、そっか」


 彩花はふっと口元を緩め——少しだけ意地悪そうに目を細める。


「ということは、私は別にナシじゃないんだ?」

「双葉がナシな男子なんて、あんまりいないと思うけど」

「あっ、そ、そう……」


 彩花の声が途端に小さくなり、頬がほんのり色づく。


「いや、あくまで一般論だからな?」


 容姿端麗、成績優秀を地でいく彩花だ。

 実際に彼女を狙う男子は多いし、特別なことは言っていないだろう。


「わかってるよ。自分から言ったくせに、なに恥ずかしがってんの」

「元はと言えば、双葉から揶揄ってきたんだろ」

「そもそもは、草薙君がややこしい言い方したのが発端じゃん」


 彩花が唇を尖らせ、髪を耳にかけ直す。

 翔は手提げの持ち手をいじった。せっかく誤解が解けたのに、ここで言い争う必要もないだろう。


「……なぁ。痛み分け、ってことにしとかない?」

「うん、平和が一番だね」


 彩花が穏やかにうなずく。空気が少しだけ軽くなった気がした。


(今しか、ないよな)


 彩花は機嫌を直してくれたようだし、駅も近づいている。

 翔は息を整え、手提げから巾着袋を取り出した。


「そういえばさ、双葉——これ」

「えっ?」


 彩花が戸惑い気味に、翔の顔と袋を見比べる。

 もっと気の利いた渡し方があっただろうに、軽く押し付けるみたいになってしまった。


「一日早いけど、誕生日おめでとう」

「っ……!」


 彩花が息を呑み、瞳を大きく見開いた。


「嘘……っ」

「そんなに驚くか?」


 胸の奥に生じたくすぐったさを、苦笑とともに逃す。


「だ、だって、話したのも数日前だし、明日は会わないから……メールくらいはくれるかなって、思ってたけど」

「ま、日頃の感謝も込めてな。そんなに大層なものじゃないから、あんまり期待しないでほしいけど」

「くれたことが嬉しいよ。あの、開けてもいい?」

「どうぞ」


 彩花は慎重に白色のリボンを解き、包みを開く。

 そして、薄くピンクがかったチューブを取り出した。


「ハンドクリーム?」

「そう。無香料のやつ。冬のほうが必要かなとも思ったんだけど、乾燥しやすいって聞いたから」

「えっ、なんで知ってるの?」


 彩花が目を丸くする。翔は視線を泳がせた。


「……弓弦に、ちょっとな」

「もしかして、ジャングルジムで遊んでたとき?」


 翔は体が熱くなるのを感じた。


(乾燥しやすいって聞いたとか、言う必要なかったな……)


 なんでこんなものを、と思われたくはないがあまりに、自ら墓穴を掘ってしまった。


「そっか……なんか誤魔化されてる気はしたけど、そういうことだったんだね」


 彩花はチューブを両手で包み、肩の力を抜く。

 経緯はともあれ、これで隠し事はなくなった。今後の信頼関係のためにも、結果的には知られて良かったはずだ。


「いらなかったら、無理に使わなくてもいいからな」

「ううん、今使ってるのが切れたら使わせてもらうよ——って、あれ? まだ何か入ってる?」


 彩花がハンドクリームをしまいながら、首を傾げた。

 翔の鼓動が跳ねる。できれば後で気づいてほしくて、底に忍ばせておいたのだが。


「わ、うさちゃんだ……!」


 彩花が取り出したのは、なんとも言えないドヤ顔を浮かべている、うさぎのキーホルダーだった。


「たまたま、ハンドクリームの近くに売ってたから。その、ついでで」


 ——嘘だった。ハンドクリームだけではなんだか心許なく感じられて、電車でショッピングモールにまで足を伸ばしたのだ。

 選んだ理由は単純。彩花が高頻度でうさぎのスタンプを使用していたためだ。


「かわいいー! ね、これ、定期入れに付けていい?」

「もちろん。双葉のものなんだから、好きにしてくれていいぞ」

「やった。実は自分でもこういうキーホルダー買うか、悩んでたんだよね」


 安直すぎるかという不安はあったが、存外喜んでくれたようだ。そわそわと定期入れを取り出す様子は、演技をしているようには見えない。

 しかし、焦ってしまっているのか、カチカチと軽やかな音を出すのみで、なかなか金具のリングに通せない。


「あ、あれ、おかしいな。あっ……!」


 指の先からキーホルダーがこぼれ落ち、彩花の口から焦ったような声が漏れる。

 その手が伸びるよりも早く、翔は宙を舞うキーホルダーをキャッチした。


「こういうの、意外とつけるの難しいよな」

「あ、ありがと。傷つかなくてよかった……」


 彩花が優しくうさぎの顔を撫でる。うさぎの不敵な表情との対比に、翔は吹き出してしまった。

 すると、定期入れごとキーホルダーを押し付けられる。


「そんなに笑うなら、草薙君がやってよ」

「おう、いいぞ——はい、できた」

「……ありがと」


 彩花はむすっと頬を膨らませたが、ひとたびうさぎと目を合わせると、その表情はすぐにゆるゆると和らいだ。


「ほんとにかわいい……!」


 心の底から漏れたような声だった。翔は照れくささにうつむきかけて、なんとか踏みとどまる。

 彼女でもないのに二個も贈るのは、気持ち悪がられるのではないか——。そんな不安を押し殺してモールまで足を運んだ自分を、少しだけ褒めたくなった。


「そんなに気に入ってくれたなら、よかった」

「うん、めっちゃ嬉しい——そうだ、記念に写真撮ってよ」


 彩花がスマホを差し出し、定期入れを顔の横に掲げて、反対の手でピースをする。


「了解」


 ハンドクリームよりキーホルダーのほうが嬉しそうだな、と内心で苦笑しつつ、翔はシャッターを切った。


「適当に、もう何枚か撮っていくぞ」

「うん、ありがとー」


 角度を変えながら、シャッターを切っていく。

 撮れた写真の中の彩花は、どれも少しだけ誇らしげに見えた。


「めっちゃいい感じだよ」


 あまり撮りすぎるのも良くないかと思い、翔は頃合いを見計らって、彩花にスマホを差し出した。


「ちょっと待って」


 しかし、彩花は手のひらでそれを制すと、前髪を指で整える。

 もう一枚かと思って構え直すと、画面の中の彩花の顔がぐんぐん大きくなる。


(え、近っ……)


 息を呑む間に、彩花は画角を外れた。次の瞬間、画面から消えた横顔が肩先のすぐそばに現れる。

 後ろ髪をまとめる動作に合わせて、フローラルな香りが翔の鼻をくすぐった。


「えっと……どうした?」


 彩花はスマホを指差しながら、さらりと告げた。


「草薙君、内カメにして?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ