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幼馴染にフラれた日、ヤケクソで助けた男の子の姉がクラスのお姫様だった 〜お姫様直々のプロデュースで、幼馴染を見返します〜  作者: 桜 偉村
第四章

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第41話 お姫様の誕生日と、予期せぬ接触

「セットしてくるなら、私には言っておいてよ。事前に把握しておきたいし」


 双葉家へ向かう歩道で、彩花が唇を尖らせた。

 翔は後頭部をぽりぽりと掻いた。


「一瞬考えたんだけど、そんな報告されても困るかなって思って」

「全然そんなことないよ。びっくりしちゃったじゃん」

「ごめん。次からは言うよ」

「うん、そうして」


 彩花への報告が照れくさかったのは、きっと翔がまだ自分に自信を持ちきれていないからだろう。

 これは一朝一夕では身につかない。地道に積み上げるしかないのだ。


「にしても、急にどうしたの? 琴葉に格好良くなったって言われたから、自信ついた?」

「それも若干あるけど……学校でセットしてなかったのも、まさに他人の目を気にしていたからだって思ってさ。双葉のおかげだよ」

「そっかそっか。いい心がけだね」


 彩花は満足そうにうなずき、目元を細めた。

 翔は瞳を泳がせ、話題を変えた。


「そういえば、俺と潤でドリンクバー取りに行ってたとき、琴葉に変なこと言われてなかったか?」


 あのときの彩花は、安堵と申し訳なさが混じったような表情だった。


「そんなことないよ——むしろ、私がちょっと琴葉に失礼なこと聞いちゃったっていうか」

「えっ?」

「あっ、い、いや、なんでもない!」


 彩花は慌てて手をぶんぶん振り、顔をわずかに背けた。


「ただ、彼氏持ちは心が広いなってわかっただけ。はい、この話は終わりっ」

「はぁ……」


 一本締めみたいに手を打つ彩花に、翔は首を傾げた。


「琴葉にも、聞いちゃダメだからね?」

「大丈夫だって。そんな悪趣味じゃないから」


 気にならないと言えば嘘だが、彩花が嫌がるなら踏み込むつもりはない。

 そもそも翔と琴葉は、個別で連絡を取り合う仲でもない。


「ま、そこら辺は信頼してるけどさ」

「おう」


 そう言われたら、探りを入れようなどという気はますます起こらなくなる。

 翔は自然と背筋を伸ばした。


「それにしてもさ、緑川君と琴葉の誕生日って、三日しか違わないんだよね。お祝いとか、一緒にするのかな。クリスマスが近いと、まとめられる的な」

「いや、あの二人はちゃんとお互い祝い合ってるみたいだぞ」

「あ、そうなんだ……なんかいいね、そういう関係」


 彩花が目を丸くしたあと、しみじみとつぶやいた。


「まあな。けど、惚気話を聞かされるのは、独り身としては複雑だぞ?」

「でも、今は努力してるじゃん。気後れする必要もないと思うけど」

「そうだけどさ」


 最近は、潤の前向きな言葉にも少しずつ共感できるようになっている。


「そういえば、草薙君は誕生日いつなの?」

「俺? 六月十日」


 ふと思いついたように彩花が尋ねてきたので、翔もサラリと答えた。


「……ねぇ」

「ん?」

「私たち、その時もう一緒に筋トレしてたよね」


 彩花が腕を組み、じとっとした眼差しをむけてきた。

 どうやら、知り合っていたのに誕生日を教えられていなかったことが、プロデューサーのお気に召さなかったようだ。


「でも、別に自分からアピールはしないだろ。その日、ジムもなかったし」

「それは、そうかもだけど……」

「そういう双葉は?」


 翔が問いかけると、彩花は気まずそうに視線を逸らした。


「……今週の土曜日」

「ほら、そっちも言ってないじゃん」


 今日は月曜日なので、五日後だ。自己申告するつもりならば、すでに伝えているだろう。

 彩花は頬をほんのり染め、髪を耳にかけ直した。


「そ、そうだけど……来年はちゃんと祝うから。ただのクラスメイトじゃないんだし」

「おう、楽しみにしてる」


 来年もこの関係を続けていいと思ってくれている——そう受け取れて、胸の奥がじんわり温かくなった。


「プロテインの大箱とかにしようかな」

「お、それはありがたいな」

「ちょ、冗談なんだけど」

「あっ、マジで? それは申し訳ない」


 慌てて手を振る彩花に、翔は片手で空を切る仕草をした。

 なにせ、昼休みに屋上に呼び出しておいて、プロテインを渡してくるプロデューサーだ。普通にあり得ると思ってしまった。


「……私をなんだと思ってるの」

「敏腕プロデューサー」

「っ……それはずるいよ」


 間髪入れずに答えると、彩花は小さく息を呑み、鼻を鳴らしてそっぽを向いた。




◇ ◇ ◇




(誕プレ、どうするか……そもそも、付き合ってもないのにあげていいものなのか?)


 翔はトレーニングをしながら、眉を寄せた。香澄以外の女子へ誕生日プレゼントを渡した記憶はない。

 来年は祝うと言ってくれたのだから、翔が今年の分を渡しても問題はないはずだが、引かれないかという不安は拭いきれない。


「——草薙君。腰、曲がってるよ」

「あっ」


 翔は慌てて背筋を伸ばした。


「なんか考え事してたでしょ」

「うん、気をつける」

「フォームの乱れは怪我にもつながるから、ちゃんと集中して」

「了解」


 仲良くなっても、こうしてちゃんと甘やかさずに注意をしてくれる。

 やはり彼女は、根っからのプロデューサーなのだろう。


「次にフォームが乱れてたら、青汁スムージー待ったなしだよ」

「マジでちゃんとやります」


 翔が敬礼をすると、彩花はくすっと笑みを漏らした。


「それで、なにを考えてたの?」

「えっ?」


 突然の問いに、翔は咄嗟に答えられなかった。


「……いや、別に大したことじゃないよ」

「今の焦り方、怪しいなぁ」


 彩花がニヤリと笑い、顔を覗き込む。一筋の汗が首筋を流れ、シャツから覗く鎖骨へと伝った。

 視線が吸い寄せられそうになり、翔は慌てて顔を背けた。


「本当になんでもないって。俺、セットの途中だから」

「わかったよ。邪魔してごめんね」


 言葉とは裏腹に、その声色は弾んでいた。


「……後で、いろいろ調べよう」


 翔は誰にともなくつぶやき、額の汗をぬぐった。

 方針が定まると、気持ちが少し軽くなる。なにより、青汁スムージーは避けたい。


(よし、あと五回——)


 胸を張りながら腰を浮かせ、頭上のバーを掴む。

 肩甲骨を寄せる意識で、一気に胸元まで引き下ろした。




◇ ◇ ◇




「昨日、ネット対戦してたら、相手が負けそうになったところで通信切っちゃってさ、レート上がらなかったんだよ」

「うわ、それは嫌だな。負けも含めてのゲームなのに」


 翌日の放課後。潤と取り留めのない話をしていると、彩花がカバンを肩に掛けて席を立つのが見えた。

 翔がその背中を目で追いながら、誕プレをどうするか考えていると、潤に肩を軽く叩かれる。


「追いかけてもいいんだぞ?」

「理由がないだろ」


 ニヤリと笑う潤に、翔は眉を寄せた。


「でも、平日の半分以上は一緒に帰ってるじゃねーか」

「それは、あくまで習い事があるからだよ」

「ふーん。まあ、翔がいいならいいけどさ」


 潤が肩をすくめた。

 いちいちサマになるのが、少しだけ癪に障る。


「じゃ、俺はそろそろ部活行くわ」

「おう。がんば」


 手を挙げると、潤はもう一度、翔の肩に手を置いた。


「お前も頑張れよ」

「なにをだよ」

「いろいろ。そんじゃ、また明日な」


 そう言って親指を立て、潤は軽やかな足取りで去っていった。


「……なんなんだ?」


 翔は首を捻りながら立ち上がった。

 校門を出ると、前方には、手を繋いで帰るカップルの姿があった。


(用事がなくても一緒に帰るのは、付き合ってるやつらだけだよな)


 それに、彩花は案外遠慮がない。最初に草薙家へ来たときも、今度の勉強会も、どちらも向こうから言い出した。

 今さら躊躇う理由があるとは思えない。向こうにその気があるなら、もう誘ってきているだろう。


 そんなことを考えながら坂を下りていると、背後からタッタッタ、と軽い足音が近づいてきた。

 誰かが急いでいるのだろう、と翔は気にも留めなかったが、その足音はすぐ背後で止んだ。


「やっほ、草薙君」

「えっ——」


 肩を叩かれて振り返り、翔は目を見開いた。


「……吉良?」

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