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幼馴染にフラれた日、ヤケクソで助けた男の子の姉がクラスのお姫様だった 〜お姫様直々のプロデュースで、幼馴染を見返します〜  作者: 桜 偉村
第三章

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第36話 仕掛けられていた罠(ドリンクバー)

 ファミレスの四人席に荷物を置くと、翔と潤は飲み物を取りに行った。


「最近、山ブドウとオレンジ混ぜるのハマってるんだ。これ、うめーんだよ」


 潤がウキウキとボタンに手を伸ばした。


「やべっ、オレンジ入れすぎた!」


 正解のないブレンドの比率で、本当に悔しそうにしている。

 アホらしいと思う反面、その無邪気さが羨ましくもあった。


(そういえば、琴葉のやつ、双葉に余計なこと言ってないよな)


 マシンの前で順番を待ちながら、翔はチラリとテーブルを振り返った。

 すると、琴葉が彩花の耳元で何かを囁いていた。


 彩花はきょとんと瞬きをしてから、伏し目がちにうなずき、指を絡ませた。頬がじわりと熱を帯びたように見える。

 気恥ずかしそうでもあり、どこか落ち込んでいるようでもあった。


 琴葉が頬を緩め、再び何かを告げると、彩花も肩の力を抜いた。

 その表情は、それまでよりも明るくなっていた。悪いことを言ったわけではなさそうだ——余計なことかどうかはわからないが。


「いやぁ、喉乾いた!」


 席に戻るころには調合ミスからすっかり立ち直ったようで、潤は嬉々とした表情でストローを咥え、一気に飲み干した。

 ジュースがなくなってからも吸い続けたせいか、ズズっと音が鳴る。


「こら。音、立てないの」

「やべ、わりぃ」


 琴葉の注意を素直に聞き入れ、潤はポリポリと頭を掻いた。

 その素直な様子にひとつ息を吐いてから、琴葉は翔に顔を向けてくる。


「にしても翔、なんか格好良くなったね——魔法のパワーかな?」


 琴葉の視線が、一瞬だけ彩花に向けられた。


「……遅めの高校デビューだよ」


 彩花がストローをいじるのを横目に、翔は軽い口調を心がけたが、琴葉の目は見られなかった。

 彩花はそんなふうに思っていないだろうが、彼女の励ましは、失意の翔にとっては魔法の言葉に等しかった。


「そっかそっか。まあ、そういうことにしておこう」

「そんくらいにしとけよ。嫌われるぞ」


 潤が琴葉の脇腹を小突いた。


「あっ、ごめんね。軽い冗談のつもりだったんだ」


 琴葉はハッと表情を改め、ペコリと彩花に頭を下げた。


「大丈夫。そんなことで嫌ったりしないよ」

「良かった……」


 彩花が苦笑を浮かべると、琴葉はほっと息をついた。

 翔はなぜ彩花にだけ謝るのか、とは思ったものの、そこまで腹を立てていたわけではないので、口には出さない。


「お姉さん風吹かせてるくせに、自分もたまに暴走するよな、琴葉って」

「実際に、潤よりお姉さんだからね」

「三日だけだろ」

「でも、永遠に超えられない壁だよ?」

「——天羽さんと緑川君って、本当に仲良いんだね」


 そう目元を和らげる彩花に、琴葉はグッと親指を立てて答えた。


「そうじゃなければ、付き合わないからね」

「……確かにね」


 彩花がどこか、しみじみと同意した。


「というか、それでいうと翔と双葉さんも仲良いでしょ。買い物も一緒に来てるんだから」

「俺はあくまで荷物持ちだけどな」

「やめてよ。私が従えてるみたいになるじゃん」


 翔が肩をすくめると、彩花が不満そうに眉を寄せた。


「実際、そういうところはあるんじゃ——いたっ⁉︎」


 テーブルの下で足の甲に軽い痛みが走った。彩花は知らん顔でストローに口をつけている。


「ふふ」


 琴葉は瞳を細め、口元だけで笑った。


「天羽さん、どうしたの?」

「いや……なるほどなって、思っただけだよ。それより、飲み物取ってくるけど、いる人?」


 なにが「なるほど」なのだろう。誤魔化すような琴葉の問いかけに首を傾げつつ、翔は手を挙げた。

 腰を浮かせながら、彩花のグラスに手を伸ばす。


「じゃあ、双葉のもらうよ」

「いや、私と潤で行くよ。近いから」


 琴葉は翔を手で制すると、彩花のグラスを手に立ち上がった。


「双葉さんは何がいい?」

「じゃあ、オレンジジュースで。ありがとね」

「任せて」


 琴葉がピシッとウインクを決めた。

 彼女の持つクールな雰囲気と相まって、妙にサマになっているのが、少しだけ腹立たしい。


「翔は何がいい?」

「同じので頼むわ」

「おう」


 潤が翔のグラスを受け取り、琴葉と一緒にドリンクバーへ向かった。


(えっと……)


 翔は口を開きかけて、固まった。いきなり二人きりになって、何を話せばいいのかわからなくなってしまった。

 沈黙が落ち、店内のざわめきがやけに大きく聞こえる。


 ——重苦しい空気を破ったのは、彩花だった。


「草薙君。このあとは送ってくれなくていいからね」

「えっ、でも、真美さんによろしくって言われたし」

「緑川君とも落ち合ってるんだから、さすがに申し訳ないよ。まだお昼だしね」


 声のトーンは落ち着いていたが、そこには強い意志が感じられた。

 先程「帰る」と言い出したときと違って、ぎこちなさも感じられない。


「……わかった。悪いな」

「ううん、付き合ってくれてるだけで十分すぎるよ。服も選んでもらったしね」

「俺の好みを言っただけだけどな」


 本当に良いと思うものを選んだだけで、ファッション的なことは何も言っていない。

 こちらを立ててくれてはいるが、彩花としても、決め手に欠けていたので頼ってきただけだろう。


「なかなかいいチョイスだったよ。秋とか冬のもお願いしようかな」

「いいけど、無理に聞く必要はないからな。結論、双葉が一番気に入ったものを着ればいいんだし」


 翔としては、彩花が義理や義務感を感じてしまっていないか心配だった。

 しかし、その言葉は別の意図で伝わってしまったらしい。


「ねぇ……やっぱり面倒くさがってない?」

「えっ? い、いや、そんなことないよ」


 彩花が瞳を伏せるのを見て、翔は慌てて手を振った。


「ただ、こっちに気を遣わなくていいってだけ。俺の意見が必要なら、いつでも聞いてくれ」

「……ほんと?」

「もちろん。なんなら、頼ってくれてちょっと嬉しかったし」

「っ……そっか」


 翔の言葉が意外だったのか、彩花は軽く目を見開いた。


(……言うつもり、なかったんだけどな)


 咳払いをする翔に対して、彩花はぐいっと身を乗り出してくる。


「なら、遠慮なく聞いちゃうからね。私、優柔不断だから、他人の意見をもらったほうがスパッと決められるし」

「おう。任せろ」


 それなら美波あたりに聞いたほうがいいのではないかと思うが、また面倒くさがられてると勘違いされても困る。

 男の子代表だとも言われていたし、恋愛がしたいかどうかは別として、彩花としても男子目線の意見は一応ほしいのだろう。


「お待たせー」

「ほい、お待ちどーさん」


 ちょうど話の区切りがついたタイミングで、潤と琴葉が戻ってきた。

 翔は自分と潤のグラスを眺め、無言で入れ替えた。


「えっ、ちょ、翔——」

「飲めよ」


 戻ってきたときにもニヤついていたので怪しんでいたが、今の慌て方で確定だろう。

 翔が笑って促すと、潤は観念したように翔のグラスに口をつけ、思いきり顔をしかめた。


「まずっ……なんでバレた」

「あれだけニヤニヤしてたらバレるでしょ——」


 琴葉が即答し、彩花へ意味深に視線を滑らせる。


「こういうのは、ポーカーフェイスでやらないと」

「えっ?」


 彩花は慌てて自分のオレンジを見つめ、おずおずと琴葉に目を向けた。


「……天羽さん?」

「ふふ、どうだろうね。心配だったら、翔に確かめてもらえば?」

「い、いや、いいよ」


 彩花は首をぶんぶん振り、思い切ってストローを吸った。

 喉をごくりと鳴らした後、ふっと息を吐く。


「……普通にオレンジだ」

「さすがに、今日話すようになったばかりの子にはやらないって」

「あんな言い方されたら疑っちゃうよ」


 苦笑する琴葉に対して、彩花も頬を指でかきながら、照れ笑いを浮かべた。


(この二人、意外に相性いいかもな)


 自然と笑みをこぼしながら、翔は元・潤のグラスに口をつけた。


「っ……⁉︎」


 液体が流れ込んできた瞬間、顔の筋肉が勝手にゆがんだ。

 甘いのに苦いような、説明しづらい不協和音が舌に残る。


「……潤、お前まさか」

「ドッキリ、大成功ー! さすが琴葉だな!」


 潤と琴葉が身を乗り出し、軽快な音を立ててハイタッチを交わした。


「逆ポーカーフェイス、うまくいったね」


 琴葉が小鼻を膨らませる。どうやら、潤が顔に出てしまうことを逆手に取った作戦だったようだ。見事に騙された。


「もしかして緑川君、どっちも変なの混ぜてたの?」


 彩花が潤と翔のグラスを見比べ、目を丸くする。


「こうでもしないと仕留められないからな、翔は」


 得意げに言いながら、潤も自分のグラスに口をつけ——先程の翔と同じ顔になった。

 イタズラをした責任として、しっかり飲み切るつもりらしい。


「道連れは卑怯だろ……」


 翔はため息とともに、潤の脳天にチョップを落とした。




◇ ◇ ◇




「ねえ——」


 ファミレスを出たところで、琴葉が手を打った。


「せっかくだし、四人で写真撮らない?」

「おっ、いいじゃん、撮ろーぜ」

「私もいいよ」


 潤に続いて、彩花も賛同した。


「翔は?」

「別にいいけど」

「オッケー」


 琴葉はニヤリと口角を上げた。

 ——その笑顔は、翔にドリンクバーのイタズラが成功したときのものとそっくりだった。


(こいつ、なにか企んでるな……)


 胸の奥に、ささやかな嫌な予感が芽生えた。

次回は写真撮影です!琴葉さんは何を企んでいるのでしょうか……

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