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幼馴染にフラれた日、ヤケクソで助けた男の子の姉がクラスのお姫様だった 〜お姫様直々のプロデュースで、幼馴染を見返します〜  作者: 桜 偉村
第三章

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第32話 お姫様からの励まし

「おはよー! って、あれ、翔くん⁉︎」


 リビングに勢いよく飛び込んできた弓弦が、目を丸くした。

 寝起きなのだろう。髪の毛が暴発している。怒ると金髪の戦闘民族に変身しそうな勢いだ。


「おはよう、弓弦。お邪魔してるよ」


 しゃがんで声をかけると、弓弦はにへらっと笑って、翔の服の裾を引いた。


「ねぇ、ゲームしようよ!」

「二人はこれから筋トレがあるから、邪魔しちゃダメよ」


 真美が弓弦の頭を撫でながらたしなめる。

 そこへ、通話を終えた輝樹が戻ってきた。


「おっ、弓弦起きたか」

「あれ、お父さん⁉︎ 帰ってきてたの⁉︎」


 弓弦が駆け寄って、輝樹の太い腕に抱きつく。


(朝から元気全開だなぁ)


 口元を緩めていると、袖をちょん、と引かれた。

 彩花がこちらを見上げ、前方をあごで示す。


「いこ?」

「そうだな」

「——翔くん、あとで遊ぼうね!」


 並んで歩き出すと、背後から弓弦の声が飛んできた。


「おう」


 翔は親指を立てて応えた。

 すると、ガラ空きの脇の下をつつかれる。


「ひゃ……っ、ちょ、なにすんだよ」

「今はちゃんと、こっちに集中して」


 彩花の頬が微妙にふくらんでいる。


「大丈夫だよ。青汁はいやだし」

「えっ? ……ああ、よく覚えてたね」


 以前にサボったら青汁入りのスムージーを飲ませると脅されていたのだが、発案者本人は忘れていたらしい。

 彩花はぽかんとしたあと、ふっと目元を和らげた。


「そうだよ。だから、他に意識を逸らしてる暇ないからね」


 軽やかに歩く横顔に、先程までの不満そうな様子はどこにもない。


(まさに秋の空だな……まだ夏にもなってないけど)


 歩幅を合わせながら、翔はひっそりと苦笑した。

 しかし、ジムに入ると、再び彩花の様子がおかしくなった。こちらをチラチラ見ては、口ごもっている。


「どうした?」

「い、いや、なんていうか……ちゃんと成果出てるんだね。肩とかはちょっと太くなったなって思ってたけど、その……胸とかお腹も」

「ほんと、ここ最近だけどな」


 鏡に映る体は、数週間前より輪郭がはっきりしてきた。胸もわずかに張り、腹の線も浅く刻まれている。

 目に見えて効果が出始めると、もっと頑張ろうという気持ちになる。最近は、お菓子の量も少し控えていた。


「輝樹さんが来たときまでに、ちょっとでも成果が出ててよかったよ」

「次帰ってきたときに変わってなかったら、怒られちゃうかもね」

「そう考えると、より一層身が引き締まるな」

「うん……」


 軽口のつもりだったが、彩花は真面目な顔つきでうなずいた。

 少し間があって、ぽつりと言う。


「……なら、私が時々チェックしてあげようか?」

「……えっ?」

「ほ、ほら、お父さん次いつ帰ってくるかわからないし、緊張感は常にあったほうがいいじゃん? そもそもプロデューサーとして、ちゃんと成果は確認しておかないとダメだなって思って。……草薙君が嫌なら、やめとくよ」

「いや、俺としてはいいプレッシャーになるから、ありがたいんだけど……」


 彩花にとって、男の上半身を見るのは楽な仕事ではないはず。定期的にチェックしてもらうとなると、かなり無理をさせてしまうのではないだろうか。

 しかし、彩花はすでに覚悟を決めているようだ。


「よし、草薙君がいいなら決定ね。たまに抜き打ちでチェックしてあげるから、覚悟してて」


 早口で言い切ると、彼女はくるりと踵を返し、器具に向かって歩き出した。


「さ、始めるよ。怪我だけしないようにね」

「了解」


 重りを調整しながら、定期的に同級生の女の子に体を見せるというのはなかなか恥ずかしい行為なのではないかと、今更ながらに思い当たる。

 少なくとも、普通のことではないだろう。


(でも、双葉はプロデューサーとして頑張ってくれているわけだしな)


 これだけ気にかけてくれるならば、全力で応えなければならない。恥ずかしがっている場合ではないだろう。


「——よしっ」


 翔は声を出して気合を入れ直し、トレーニングを開始した。




 筋トレを終えてシャワーを借り、ドライヤーで髪を乾かし終えたところで、軽いノックが響いた。


「草薙君、入っていい?」

「いいぞ」


 扉越しの声に、翔は鏡の前で首元を整えながら答えた。


「ちゃんとシャツ着たよね?」

「もちろん」


 ゆっくりと扉が開き、彩花がおずおずと顔を覗かせた。

 胸の前で小さく手を握っていたが、翔の襟元を確かめると、目に見えて肩の力が抜けた。


「あれ以来、ちゃんと気をつけてるから」

「で、でも、さっきだって見せてきたし」

「文句なら輝樹さんに言ってくれ。というか、別に見なくてもよかったんだぞ?」

「だ、だって、あそこで見ないのは変じゃん……せっかくなら、成果も確認しておきたかったし」


 彩花は唇を尖らせ、視線をわずかに泳がせた。

 変に気遣ってしまったせいか、余計に意地になっているようにも見える。翔は「まあな」とだけ、答えた。


「そんなことよりほら、髪の毛セットして。見ててあげるから」

「了解」


 翔は洗面台に用意していたワックスに手を伸ばした。最近は、彩花に見てもらいながら自分でセットすることが増えている。

 茶化されることはなく、的確に要点だけを教えてくれるので、非常にありがたいのだが……、


「どうしたの?」

「いや、なんていうか……やっぱり、見られてるの恥ずかしいなって」


 翔が小声で漏らすと、彩花は小さくため息を吐いた。


「あの空気の中で私に話しかけてくれた勇気は、どこにいっちゃったの?」

「いや、あれはまた別だから」


 誰かのためなら踏み出せるのに、自分のためとなると気恥ずかしさが勝つ。胸の内で言い訳を並べながらも、言葉にはしづらかった。

 彩花は指先で袖口をいじりながら、瞳を伏せた。


「……邪魔なら、席を外すけど」

「違うよ。邪魔とかじゃないから」


 咄嗟に否定して、翔は慌てて首を振った。


「双葉には本当に感謝してるよ。でも……だからこそ双葉の前で失敗したくないっていうか、ダサい姿は見せたくないなって、思っちゃって」

「……そっか」


 ここまでプロデュースしてもらってる身として失礼なことを言ってるのも、この発言自体がダサくて恥ずかしいこともわかってる。それでも、誤解させたくはなかった。

 足元に落としていた視線をいったん噛みしめるように留め、彩花はふと顔を上げた。


「でも、私は頑張ってる人をダサいなんて思わないよ。むしろ、他人の目を気にして全力を出さないほうが、格好良くないんじゃないかな」

「っ——」


 その一言に、翔の胸がどくんと跳ねた。喉が詰まり、返事が遅れる。

 彩花はポリポリと頬を掻き、口元のみで笑った。


「学校でも周りの目を気にしてお姫様なんて演じてる私が、こんなこと言うのもアレだけどさ。でも、だからこそ草薙君にはもっと堂々としてほしいし……そもそも、もっと自信つけないと、いくら格好良くなっても女の子を口説くことなんてできないぞ?」


 彩花はそう言って、肩をすくめて少しおどけてみせる。


「うっ……わかってるよ。自信あるやつのほうがモテることくらい」

「根拠のない自信は好きじゃないけど、草薙君はここまでちゃんと頑張ってるんだから、もっと自分を褒めていいし、認めてあげていいと思うよ」

「……おう」


 自分でも、これまでより頑張ってる自覚はあった。

 それでも、一番近くで見てくれている人からこうして言葉にされるとなんだか感慨深いし、素直に嬉しい。


「ありがとな、双葉」


 笑みを浮かべて頭下げると、彩花は腕を組んで視線を逸らした。


「まったく……手のかかる生徒だよ」

「不出来で悪かったな」


 口をへの字に曲げながら、ワックスを手のひらにとって伸ばす。


「そこまでは言ってないじゃん」


 くすっと笑う気配がして、顔を上げると、鏡に彩花が映っていた。

 自分が見られていることを忘れているのか、翔の後ろ姿を見つめてほんのり微笑んでいる。


(っ、見るんじゃなかった……)


 まぶたの裏で指先の感覚だけを頼りに整えていると、すぐ背後から柔らかな声が落ちた。


「ちゃんと目を開けて、全体のバランスを見ないとダメだよ」

「あっ、ハイ」

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