第129話 四人での勉強会⑦ —ゲーム対決—
あとがきにお知らせがあります。
「翔〜、もう脳が焼き切れる〜……」
夕方になり、潤が再び机に突っ伏した。限界らしい。
「じゃあ、ちょっとだけ休んでていいぞ」
「マジ⁉︎ ラッキー!」
潤がガバッと起き上がり、リビングのソファーへ走っていく。
……デジャブを感じるのは、きっと気のせいではない。
しかし、そこに続く琴葉の言葉は、以前とは違っていた。
「気分転換に、翔と潤でテレビゲームでもしたら?」
「マジっ? ゲームしていいのか⁉︎」
「ま、一応頑張ってたし、あと数日の猶予はあるからね」
「よっしゃ! じゃあ、翔……って、でも、今は四人でできるやつのほうがいいんじゃね?」
「それもそうだな。せっかくならパーティーゲームでもするか?」
翔は潤に乗っかった。
潤と二人でゲームするのはいつでも可能だし、男子二人が騒いでいるのを見ていても、彩花と琴葉は面白くないだろう。
そう思ったのだが。
「いや、私はゲーム下手だし、ぶっちゃけ二人の対決を見てみたいんだよね」
「あ、私も二人がゲームしてるの、見てみたいかも」
琴葉の意見に、彩花も即座に同調した。
「あんまり面白いものじゃないと思うぞ?」
「いいからいいから。それこそ、せっかくの機会だし」
「……わかったよ」
そこまで言われては意固地になる理由もなく、男子二人で対戦することになった。
「うし、翔、負けねーぞ!」
「こっちこそ、この数時間で溜まりに溜まったストレスを全部ぶつけてやるよ」
「俺そんなにダメな生徒だった⁉︎」
軽口を叩き合いながら起動したのは、空中に浮かんだステージで戦う格闘ゲーム——「ソマボラ」だ。
「俺の相棒はもちろんコイツよ!」
潤が選んだのは「ドゥドゥドゥ」という、ハンマーを抱えた大王然としたキャラクター。
一度飛び上がり、正面を向いたままお尻から落ちてくるシュールな技がお気に入りらしい。
——二十分ほどが経過したころ。
「よしっ! これで二十二対二十二だ!」
コントローラーを握りしめながら、潤が歓声を上げた。
すでに十戦をこなし、互角の戦いが続いている。
「そろそろ残りの勉強もあるし、次をラスト勝負にしようぜ」
「おう。じゃあ、ただやるのも面白くねーし、負けたほうがジュース奢りな」
「そっか。じゃあ、コーラで」
「もう勝った気でいやがる!?」
文句を言いながらも、潤は楽しそうにキャラクターを選択している。
もちろん、選ばれたのはドゥドゥドゥだ。
「ねえ、私もその勝負に参加したいな」
「琴葉も?」
「うん。女子はそれぞれ応援する方を決めて、その人と同じ報酬か罰を受けるっていうルールはどうかな?」
「おっ、いいじゃねーか」
潤が即座に反応した。
「翔もそれでいいだろ?」
「ああ、別にいいよ。けど、彩花はどうする?」
「面白そうだから、参加させてもらおうかな」
「おっ、じゃあ決まりだね。どっちがどっちを応援するかは……いいよね?」
言うが早いか、琴葉は迷うことなく潤の背後へと移動した。
「う、うん」
残された彩花は少し気恥ずかしそうに頬を掻き、翔の背後へと回ってくる。
「彩花。琴葉にオレンジジュースを奢ってもらえ」
翔が背中越しに告げると、彩花はこくんとうなずいた気配がした。
「うん。翔君、頑張ってね。——負けたら許さないから」
「っ……」
耳元で囁かれた柔らかな声援に、翔は思わず肩を跳ねさせた。
胸の鼓動が、わずかに早まる。
気合いを入れ直し、ラストマッチが幕を開けた。
ゲームはこれまで以上の接戦となり、お互いに残り一機というギリギリの状況までもつれ込んだ。
「もらった!」
翔の放ったスマッシュ攻撃が見事に決まり、潤のキャラクターが画面の端へと勢いよく吹き飛んでいく。
「やった……!」
背後で彩花が小さく歓声を上げた。
しかし、画面外に消えかけたドゥドゥドゥは、すんでのところで踏みとどまった。
「まだだ!」
「マジか……!」
「翔、覚悟!」
ドゥドゥドゥの巨体が高々と舞い上がり——
見事にステージの脇をすり抜けて落下して行った。
「「……ぷっ」」
翔と潤は顔を見合わせ、同時に吹き出した。
「思い切り良すぎ……!」
「あいつ、絶対崖に掴まれただろ……!」
——腹を抱えて笑い合う男子二人の姿を見て、彩花と琴葉は苦笑を交わした。
「男子って訳わからないところでツボるよね」
「うん……でも、なんかかわいいかも」
「わかる。潤の無垢なところ、好きなんだよね」
「な、なんでサラッとそういうこと言えるのかな……」
琴葉の唐突な惚気に、彩花は顔を赤くさせてもじもじした。
しかし直後、彼女は意を決したように琴葉を見た。
「でも……」
「ん?」
「琴葉、幸せそう」
「っ……」
不意の直球に、琴葉は言葉を詰まらせた。
「ふふ、かわいいなぁ」
ここぞとばかりに、彩花が琴葉の頭を優しく撫でた。
「ちょ、彩花、やめてよ……っ」
「えー、いつも琴葉がやってることじゃん」
——ニヤニヤと笑う彩花と、赤くなって身を縮こまらせる琴葉。
いつもとは対照的な二人を見ながら、翔と潤はヒソヒソと言葉を交わした。
「双葉も琴葉に慣れてきたみてーだな」
「そうだな。良かった」
彩花は元から琴葉に好意的だったが、あまり自分から何かを仕掛けることはこれまでしていなかった。
潤の言う通り、それだけ慣れてきたのだろう。
「ゲーム終わりにはいい目の保養だぜ」
「確かに」
「おっ、翔もついに認めたか」
翔が何気なく同意すると、潤がニヤリと悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「何をだよ?」
「目の保養だってことは、双葉をかわいいと思ってるってことだろ?」
「っ……そりゃ、みんなそう思うだろ」
「まあな」
潤はしたり顔でうなずくと、突如体ごと背後を振り返り——
「双葉。翔が……」
「ば、馬鹿!」
翔は慌てて飛びかかり、背後から潤を羽交い絞めにして口を塞いだ。
「えっ、何か言った?」
騒ぎに気づいた彩花が、琴葉への頭なでなでを中断して小首を傾げた。
「い、いや、二人は楽しめてるかなって話してただけ?」
「ああ、うん。見ての通り、楽しいよ〜」
「ちょ、彩花……!」
彩花に頬を突かれ、琴葉が抗議の声を上げるが、その声色は弱々しい。
どうやら勉強という名の指導を受けているうちに、プロデューサーにすっかりペースを握られてしまったようだ。
◇ ◇ ◇
ゲームに負けた潤と琴葉は、罰ゲームとして近くのコンビニまで飲み物を買いに行っている。
静かになったリビングで、翔はコントローラーをテーブルに置いた。
「翔君、おめでと。なかなかかっこよかったよ」
隣に座る彩花が、嬉しそうに微笑みかけてくる。
「ありがとな。……でも、本当に俺と潤だけで遊んでしまってよかったのか?」
「もちろん。二人に手加減させることになっちゃうし、それに——熱くなってる翔君、かわいかったよ?」
彩花が悪戯っぽく目を細めて、くすくすと笑う。
「っ……」
不意打ちの揶揄いに、翔は顔が熱くなるのを感じて視線を泳がせた。
照れくささにうつむきかけて、咳払いをしてなんとか踏みとどまる。
「……よし、あいつらが帰ってくるまで彩花もゲームするか」
「ボコボコにされて揶揄われそうだから嫌だ」
◇ ◇ ◇
翔の家を出て、最寄り駅へと向かう夕暮れの道。
並んで歩く彩花は、家を出てからずっと考え込んでいた様子だったが、ふいに小首を傾げて潤に尋ねた。
「ねえ、緑川君。翔君はさっき、なにをあんなに慌ててたの?」
「あー……まあ、いずれ翔から言うんじゃね?」
「え、どういうこと?」
「ま、気長に待っとけってことだよ」
「はあ……」
彩花が腑に落ちないように眉を寄せると、隣を歩いていた琴葉が顔を覗き込んできた。
「ふふ。そんなに翔が何を言ったのか気になるのかな〜?」
「そ、それはっ、私の名前が聞こえたから、変なこと言われてないか気になっただけで……!」
彩花が慌てて両手を振って弁明する。
「そっかそっか」
「……もう」
ニヤニヤとうなずく琴葉に対して、彩花はぷいっとそっぽを向いて唇を尖らせた。
「あはは、ごめんごめん」
琴葉が宥めるように頭を優しく撫でると、彩花はじっとりとその顔を見上げてから——仕方ないなというふうに、ため息を吐いた。
◇ ◇ ◇
電車で彩花が先に降り、潤と琴葉が最寄り駅から連れ立って帰る夜道。
改札を抜けたところで、琴葉はすかさず潤の腕をつついた。
「で? 翔はなんて言ってたの?」
「琴葉と双葉が戯れてるのみて、目の保養だなって話してたんだよ。これってもはや、かわいいって言ってるよーなもんだよなーって思って」
「ああ、そういうこと……」
「よかったな、琴葉」
「いや、翔の場合はどう考えても彩花のことを見て言ってるでしょ……彩花と比べちゃ、私は霞んじゃうし」
かわいいモノ好きの琴葉にとって、彩花はそれこそ目の保養であり、癒しだ。
ただ、事実として自分と彩花では比較にならないとも思っていた。
琴葉もかわいくなるための努力をしているからこそ、彩花の素材と努力が桁違いであることがわかるのだ。
しかし、琴葉の冷静な自己分析に対し、潤は心底不思議そうに首を傾げる。
「そうか? 全然霞まねーと思うけど」
「それは彼女フィルターがかかってるだけだって。傍から見たらレベチだよ、あの子は」
「ほーん、そんなもんなのか。俺は琴葉のほうがかわいいと思うけど」
「っ……」
息をするように直球の愛情表現を投げてくる潤に、琴葉は言葉を詰まらせ、カッと顔を熱くした。
潤はさらにニヤリと笑い、顔を赤くした琴葉を覗き込む。
「ほら、そうやって照れるところとか、かわいいし」
「そ、それ以上しゃべらなくていい!」
耳まで赤くして潤の腕をバシッと叩くが、潤は痛がる素振りも見せずケラケラと笑っている。
翔はヘタレすぎていると思うが、逆に潤は気にしなさすぎだ。
(こうも正反対な二人が、どうして親友になれたのだろう……)
小学校のように自由研究があったなら、きっと自分はこのテーマを題材にしただろう、と琴葉は苦笑いを浮かべた。
【お知らせ】
平素よりご愛読いただき、ありがとうございます!
そして……もう100話以上お付き合いくださっている皆さま、コメントや評価、ギフトをくださる皆さま、本当にありがとうございます。ここまで読んでくださっていることが、とても励みになっています!
今回はお知らせがあり、誠に勝手ながら、連載の更新頻度を**週4回(月/水/金/土の20:35) → 週2回(水/土の20:35)**に変更させていただきます。
更新を楽しみにしてくださっている方には、頻度を減らしてしまい本当に申し訳ありません。
理由としては、主に以下の三つです。
* **今後の展開をもう一度しっかり考えたい**
* **新作の準備**
* **他の作業との兼ね合い**
このあたりが重なって、正直なところ、ストックが切れてきています……。
ただ、更新頻度は落ちても、雑に進めるのではなく「ちゃんと面白くなる形」で続けたいので、ここで一度ペースを整えさせてください。
とはいえ、この作品は必ず完結させますので、そこだけはご安心ください!
これからも楽しんでいただけるよう全力で執筆しますので、引き続き応援よろしくお願いしますm(_ _)m




