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幼馴染にフラれた日、ヤケクソで助けた男の子の姉がクラスのお姫様だった 〜お姫様直々のプロデュースで、幼馴染を見返します〜  作者: 桜 偉村
第十章

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第128話 四人での勉強会⑥ —拗ねるお姫様—

「あー、もうダメだ……!」


 潤からSOSの電話を受けてから、三十分後。

 草薙家のリビングに、絶望的なうめき声が響き渡った。


「こんなの、終わるわけね〜……」

「なんで計画的に進めておかないんだ……」


 テーブルいっぱいに広げられたプリントやワークの山を前に頭を抱える潤に、翔はため息交じりに呆れた。


「だって、遊びとか部活のほうが楽しいだろ……翔、助けてくれ〜」

「くっつくな、暑苦しい」


 潤が泣きつくようにすがりついてくるのを、翔は容赦なくベリッと引き剥がした。

 そして、隣で優雅にアイスティーを飲んでいる少女——琴葉に冷たい視線を向ける。


「琴葉も彼女兼マネージャーなんだから、ちゃんと潤のスケジュール管理しておけよ」

「ふっ。私も普通に終わってないから、潤のことを構ってる暇がないんだ」


 琴葉は少しの悪びれもなく、ドヤ顔で言い切った。


「……そういや、お前って意外とそういうやつだったよな」

「だ、大丈夫だよ、二人とも。今から頑張れば、きっと間に合うから」


 翔がこめかみを押さえる横で、彩花が若干口元を引きつらせながらも、パンパンと手を叩いた。

 かくして、翔が潤を、彩花が琴葉を見るという、二手に分かれての勉強会がスタートした。




◇ ◇ ◇




 ——翔が潤に、彩花が琴葉に付いて一、二時間ほど真面目に勉強した後。


「じゃあ、お昼は私たちで作るよ」


 彩花と琴葉が連れ立ってキッチンへ向かった。

 京香はパート、花音も部活で不在だ。


 リビングに残された翔と潤は、ひとまず区切りのいいところまで勉強を進める。


「なぁ、翔」


 ふいに、シャーペンを止めて潤が口を開いた。


「なんだ?」

「ピクニック以降も、双葉の手料理は食べてんのか?」

「っ……! い、いや、食べてないけど」


 動揺を押し殺したつもりが、声が上ずってしまった。


「ほーん?」


 潤が翔をじっと見つめて、ニヤリと口角を上げた。

 これはもう、誤魔化せないだろう。


「……何でわかったんだよ?」

「ん? ただの勘だけど」


 相変わらず、野生の勘が鋭すぎる。

 翔は深々とため息を吐いた。


「それで、どういうシチュエーションだったのよ?」

「……流れでそうなっただけだ。これ以上その話を続けるなら、これ以上手伝わないからな」

「へいへい」


 潤は素直に引き下がり、再びノートに向き直った。

 それから程なくして、キッチンからいい匂いが漂ってきた。


「おお、いい匂い! ってか、うまそ……!」


 潤が犬のように鼻をひくつかせる。

 これが俗にいう犬系彼氏というやつか。


「あ、翔」

「ん?」


 肩を叩かれて振り返ると、琴葉は卵焼きのお皿を持ってニヤニヤしていた。

 ——猛烈に嫌な予感がした。


「彩花が作ったこの卵焼きたちは、全部翔が食べていいよ」

「っ……」


 以前のピクニックで、翔が口を滑らせた過去を掘り返しているのは明らかだった。


「い、いや、俺は別に……」


 勢いで否定しかけて、翔は言葉を飲み込んだ。

 せっかく作ってくれたのに、それはそれで彩花に失礼だ。


「……わかったから、とりあえず食べようぜ」

「おう!」


 潤が箸を握りしめ、大きな声で返事をした。

 こういうときの彼は本当にありがたい。


 みんなで「いただきます」と手を合わせ、食事がスタートする。

 席順は勉強のときと同じく、翔と潤、彩花と琴葉がそれぞれ隣同士で向かい合う形だ。


 翔は少し迷ってから、卵焼きに箸を伸ばした。

 斜め前から「おっ」という声が聞こえたのは無視して、一口噛んでみる。

 ふわっという食感とともに、出汁の効いた優しい甘さが広がった。


「うん、うまいよ、彩花」

「……よかった」


 期待と不安が入り混じったような表情でこちらを窺っていた彩花に伝えると、彼女はほっと肩の力を抜き、照れくさそうにはにかんだ。

 その様子を見て、琴葉が「くぅ……!」と胸を押さえて悶える。


「こ、琴葉っ!」


 彩花がペシっと琴葉の背中を叩いたかと思えば、おもむろに卵焼きの皿を手に取った。


「そんなことしてると、ほんとに琴葉には卵焼きあげないからね」

「すみませんでした。マジで一個でいいので食わしてください」


 琴葉が両手を合わせてすがりつくのを見て、翔と潤は同時に吹き出した。

 彩花はツンと顔を背けていたが、やがて堪えきれなくなったように笑みをこぼした。




「そういえばさ。翔、彩花——」


 食事が進む中、琴葉がふと、何気ない調子で切り出した。


「二人で映画なんてやるねぇ」

「「っ……」」

 

 翔と彩花はぴたりと手を止め、思わず顔を見合わせた。


「学校でも結構噂になってたよ? やっぱり付き合ってるんじゃないかって」

「い、いや、それで即付き合ってるとはならないだろ」

「そ、そうだよ。二人だって付き合ってなくても遊びには行ったでしょ?」


 翔が否定すると、彩花がそれに乗っかるように反撃した。

 しかし、琴葉は箸を置き、余裕の笑みを浮かべてさらりと返した。


「まあね。いやぁ、好きな人をデートに誘うなんて初めてだったから、緊張したよ」

「っ……!」


 彩花は耳まで真っ赤にしてうつむいた。

 翔にも、彩花が動揺している理由——琴葉の言いたいことはわかった。

 麦茶のグラスを掴んで一気に飲み干すと、彩花も同じようにグラスをあおっていた。


 カツン、とグラスを置いた拍子に、ちらりと視線がぶつかる。

 彩花も逃げ場を探すように、泳いだ目をこちらに向けていたらしい。お互いにハッとしてすぐに顔を背けた。


「くぅ……ごちそうさま」


 琴葉は再び胸を押さえながらも、手を合わせた。

 出された料理に対するものでないことは明らかだった。


 潤だけが「ん? 琴葉、もう食わねえのか?」と、料理の残った彼女のお皿を見て不思議そうに首を傾げていた。

 色々とさすがだ。




◇ ◇ ◇




「作ってもらったし、片付けくらいはやるよ」


 食後、翔が食器を重ねながら立ち上がった。


「あ、私も手伝うよ」

「俺も」


 彩花と潤も名乗り出るが、琴葉がすかさず潤の腕を掴んだ。


「じゃ、ちょっとそれぞれの時間にしよっか」


 琴葉はニヤリと笑い、潤を引きずるようにしてソファーへ連れて行く。


(あいつら、人の家でイチャつく気満々だな……)


 呆れつつも、翔は彩花と並んでキッチンに立った。

 スポンジに洗剤をつけ、無言で食器を洗い始める。水音だけが響く中、隣で拭き上げをしていた彩花が、ぽつりとこぼした。


「……今日、私たちの分は全然進んでないね」


 どこか沈んだような声色に、翔はハッとさせられた。

 今日は元々、花音との交流を終えた後は二人で勉強するはずだったが、翔が潤と琴葉を家に呼んだことで、その予定は変更になってしまった。


「あー……悪いな。俺の都合で巻き込んじゃって」

「あ、いや、四人でいるのも楽しいから、それは全然いいんだよ。……でも、久しぶりに翔君の部屋で勉強したり、一緒にゲームするの楽しみにしてたから」

「っ……」


 拗ねたような口調に、翔の心臓が大きく跳ねた。

 翔の反応を見て、彩花はハッと息を呑む。


「あ、いや、変な意味じゃないよ⁉︎ その、せっかく立てた夏休みのスケジュールが崩れちゃうのがもったいないなって思っただけで……っ」

「あ、ああ、そういうことか……確かにそれはそうだな」


 夏休みの宿題自体はほとんど終わっているが、次のテストのことを考えると、気を抜くわけにはいかない。

 何せ、現代文でクラストップ五に入ると宣言してしまったのだから。


(……元はと言えば、俺が原因だしな)


 翔は一つ息を吐くと、おずおずと切り出した。


「じゃあ……もしよかったら、別日に改めて二人で勉強会、しないか?」

「えっ? えっと、それって……またここにお邪魔させてもらえるってこと?」

「おう。彩花が良ければ、だけど」

「——うん、もちろん! じゃあ、また後で予定決めよ」


 彩花はパッと顔を輝かせ、即答した。


(喜んでくれたのなら、よかった)


 嬉しそうに笑うその横顔を見て、翔は胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。

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