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幼馴染にフラれた日、ヤケクソで助けた男の子の姉がクラスのお姫様だった 〜お姫様直々のプロデュースで、幼馴染を見返します〜  作者: 桜 偉村
第十章

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第127話 妹の幼馴染との話し合い

 駅前の大通り沿いにある、見慣れた赤い看板のファストフード店。

 店内はポテトの香ばしい匂いと、高校生たちのざわめきで満ちていた。


「ごめんね、急に声かけちゃって。時間大丈夫?」


 入り口を抜けながら、翔は隣を歩く北斗に声をかけた。


「はい。軽く本屋に寄ってただけなんで」


 北斗は小さくうなずいた。

 部活帰りらしく、少し日焼けした肌にスポーツバッグという出で立ちだ。


「何を買ってたの?」

「漫画っす。単行本の新刊があったんで」

「へぇ、何の漫画?」

「野球のっすね。これ、知ってます?」

「あー、花音が読んでたやつか。俺は読んでないな」

「……そうすか」


 花音の名前を出すと、北斗の表情が暗くなった。

 翔はそっとその背中を押した。


「俺がまとめて注文してくるよ。二人は席を取っておいてくれ」

「えっ、いいんすか?」

「おう。何がいい?」


 北斗と彩花から注文を聞き、翔はレジに向かった。

 セットを三つ頼み、番号札を受け取って戻ると、窓際の席で二人が向かい合って座っていた。

 翔は彩花の隣に腰を下ろした。


 軽く雑談をしていると、程なくして注文の番号が呼ばれ、翔はトレイを取りに行った。

 席に戻って三人分のセットを並べると、ポテトの塩気が鼻をくすぐる。


「北斗君も要件は薄々わかってると思うけど——」


 翔はバーガーの包みを開きながら、本題を切り出した。


「花音と喧嘩したのか?」

「喧嘩っていうか……一方的に怒られたっす」


 北斗がストローに口をつけながら、気まずそうに答えた。


「一方的に?」


 彩花が促すように首を傾げた。

 北斗はしばらく迷うような間を置いてから、ぽつりと話し始めた。


「一回、花音と『遊びたいね』って話になってたんすよ。まあ、約束ってほどちゃんとしたもんじゃなくて、『その日空いてたら遊ぼうか』くらいの感じで」


 翔は黙ってうなずいた。

 それがおそらく、北斗の誕生日の前日だろう。


「で、その数日前に、部活の先輩から『その日しか空いてないから遊ばない?』って誘われて」

「断れなかったんだ?」

「というか、花音との約束がふわっとしてたんで、先輩を優先しても問題ないかなって。それで花音に連絡したんすよ。そしたら普通に『わかった』って。特に怒ってる感じもなかったんで、別の日に遊ぶことにしたんすけど——」


 北斗の声が少しだけトーンを落とした。


「その日になって、俺と遊んでた相手が女の先輩だったってあいつが知って。そしたら急に機嫌が悪くなって、帰っちゃったんすよ」


 翔は思わず眉を寄せた。

 確かに、それは拗ねる理由としては——いや、花音の立場になって考えれば、気持ちはわからなくもない。


「……それは、花音ちゃんが怒るのも無理ないかもね」


 彩花が、ポテトを一本つまみながら言った。


「女の子はやっぱり、特別に扱ってほしいものなんだよ。花音ちゃんからすれば、自分との約束を後回しにされたっていうか、雑に扱われたっていうふうに感じたんじゃないかな。しかも、代わりの相手が自分と同じ女の子だったなら、なおさらね」


 静かだが、有無を言わせない響きがあった。

 北斗は少しだけ眉間にシワを寄せた。


「言いたいことはわかるんすけど……でも、ちゃんと約束してたわけじゃないし、あいつは他の日でも良かったわけっすから。先輩を優先するのは普通じゃないすか?」


 北斗の言い分も、筋としてはわからなくもない。

 翔は口の中のバーガーを飲み込み、ふっと息を吐いた。


「気持ちはわかるよ。俺も北斗君の立場だったら、同じように考えたかもしれない」

「……ですよね」


 北斗がわずかに表情を緩めた。

 しかし、翔は続けた。


「けど、不満を言っても、状況は変わらないだろ? 北斗君は今後、花音とどうなりたいんだ?」


 北斗の動きが止まった。

 ストローから離れた唇が、何かを言いかけてまた閉じる。


「……どうなりたい、って言われても」

「少なくとも、このまま気まずいままでいいとは思ってないだろ?」


 翔がまっすぐに問いかけると、北斗は観念したように肩を落とした。


「まあ……とりあえずは仲直りしたいっす」

「そうだな。なら、まずはちゃんと謝ったほうがいいんじゃないか。仲直りしちゃえば、話し合いなんてその後にいくらでもできるわけだしさ」

「……そうっすね」


 北斗が一つ間を空けて、首を縦に振った。


「正直に言うと、私も理屈としては北斗君側なんだけどね。同じ女として、感情に流されちゃう気持ちもよくわかるからさ。今回は、北斗君のほうから歩み寄ってあげてくれないかな」

「……わかったっす。元はと言えば、俺が予定を変更したのが原因だし」

「うん、北斗君は大人だね」


 彩花がポテトをもう一本つまみながら、にっこりと笑った。

 北斗は照れたように視線を逸らし、一気にストローをすすった。

 大人びているように見えても、こういうところは中学一年生らしい。


「実はね、花音ちゃんが拗ねちゃったのには、もう一つ理由があるんだけど」

「えっ、なんすか?」

「ふふ、それはちゃんと仲直りできたらわかると思うよ」


 彩花がニヤリと口の端を吊り上げた。

 北斗が怪訝そうな顔をしたが、彩花はそれ以上何も言わなかった。


(誕生日プレゼントのことか)


 翔は心当たりがあったが、口には出さなかった。

 それは花音自身が伝えるべきことだ。


「逆に二人は喧嘩したとき、どうしてるんすか?」


 北斗が話題を変えるように問いかけてきた。


「うーん、私たちは喧嘩という喧嘩はしたことないかな。ほら、草薙君はジェントルマンだから」

「あー、なんか想像できるっす」


 北斗が妙に納得したようにうなずいた。

 翔は軽く眉を寄せた。


「どういう意味だよ」

「いや、翔さんって、なんか怒るイメージないっすから」

「昔からそうだったの?」


 彩花が興味深そうに身を乗り出す。


「まあ、そうっすね。優しかったです」

「へぇ……教えて。草薙君の子供のころの話」

「おい、待て。本人を差し置いて話を続けるな」


 翔が口を挟むと、彩花がにこりと笑った。


「お口チャックと青汁、どっちがいい?」

「理不尽だろ⁉」


 翔が声を上げると、北斗が吹き出した。

 肩を震わせて笑う姿は、先ほどまでの沈んだ表情とは別人のようだった。


 翔と彩花も顔を見合わせ、自然と笑みがこぼれた。




 それから程なくして、北斗は「そろそろ夕食の時間なので」と帰り支度を始めた。

 もちろん、翔と彩花は止めなかった。


「あ、お代——」


 席を立つタイミングで、北斗が慌てて財布を取り出した。


「いや、いいよ」


 翔は手のひらでそれを制した。


「えっ、でも——」

「大した金額じゃないし、俺らから誘ったんだから。それに誕生日だっただろ?」


 北斗が迷うような視線を向けてきた。

 そこへ、彩花が助け船を出す。


「北斗君。ここは奢られといてあげてくれないかな。草薙君にも男のプライドってのがあるんだよ」

「はあ……じゃあ、すみません。ごちになります」

「その代わり、絶対仲直りするんだぞ」

「ほんとに妹思いだねぇ」


 翔が念を押すと、彩花がくすくすと口元を押さえた。

 それから、はっとしたように目を丸くした。


「あ、っていうか私も払ってもらってたんだった。半分出すよ」

「いや、双葉もいいよ。妹のことなんだし」

「でも、それとこれとは——」

「いいって。気にするな」

「いやいや——」


 押し問答が始まりかけたとき、北斗がぼそりとつぶやいた。


「双葉さん。多分、翔さんにも男のプライドってのがあるんすよ」


 翔はゆっくりと北斗に目を向けた。


「北斗君。何か言った?」

「ごちそうさまです」

「よろしい」

「いいんだ」


 翔が親指を立てると、彩花がぷっと吹き出した。


「もう、しょうがないなぁ……今日のところは奢られてあげる」

「ありがとな」

「今回だけだよ?」


 北斗がきょとんとした顔で二人を見比べた。


「……今の会話、なんかおかしくないっすか?」

「「確かに」」


 翔と彩花の声が重なった。

 北斗が再び肩を震わせて笑い、店内に和やかな空気が広がった。




 ◇ ◇ ◇





 ——数日後。


「花音ちゃん、元気?」

「あ、はい。おかげさまで……」


 軽く手を振る彩花に、ローテーブルを挟んで向かい側に座る花音が、もじもじとしながら頭を下げた。

 彩花は、花音のその後の様子を確認するために、わざわざ草薙家まで足を運んでくれたのだ。


「その、彩花さん」

「ん?」

「北斗にいろいろ言ってくれたみたいで、ありがとうございました。……一応、お兄ちゃんも」

「ううん、気にしないで。仲直りできてよかったね」


 彩花が柔らかく微笑む。

 翔は麦茶の入ったグラスを置き、妹に向き直った。


「お前もちゃんと北斗君の気持ち、考えてあげろよ」

「わかってるよ。その……一応、プレゼントも渡せたし」


 花音がそっぽを向きながら、早口で付け加えた。

 耳の先までほんのりと色づいている。


「お、よかったな」


 翔は身を乗り出し、花音の頭をぽんぽんと撫でた。


「ちょ、やめてよ」


 花音はむっと眉を寄せ、翔の手を振り払うと、立ち上がって逃げるように彩花の隣へと移動した。


「あら、私に撫でてほしいのかな? しょうがないな〜」


 彩花が悪戯っぽく目を細め、花音の頭に手を伸ばした。


「ち、違います!」

「遠慮しなくていいんだよ〜」


 花音は身を縮こまらせたが、相手が彩花となると乱暴に払いのけることもできないらしい。

 なすがままに撫でられ、顔を真っ赤にして茹で上がっている。


「はは、花音、よかったな」


 翔が笑うと、花音は涙目でこちらを睨んできた。


「お、お兄ちゃんの昔の恥ずかしいエピソード、ゲロっちゃうよ!」

「彩花。花音はもう中学生なんだ。そのくらいにしといてやれ」

「えー、むしろそのエピソード聞きたいからやめない。結局、北斗君からも聞けなかったし」


 彩花は楽しげに声を弾ませ、さらに花音の頭を撫でようとする。


「やめろって」


 翔は身を乗り出し、花音に伸びていた彩花の手首をきゅっと掴んだ。

 その瞬間、ピタリと動きが止まる。


「あっ……」


 彩花が小さく息を呑んだ。

 至近距離で視線が交差する。触れた肌から、じんわりと熱が伝わってくる。

 胸の鼓動が、わずかに早まるのを感じた。


 不意に、テーブルに置いていた翔のスマホが震えた。

 弾かれたように手を離し、画面を確認する。

 着信画面には『潤』の文字が表示されていた。


(今度はそっちの痴話喧嘩か……?)


 少し嫌な予感を覚えつつ、通話ボタンをタップして耳に当てる。


『——翔、助けてくれー!』


 開口一番、潤の情けない悲鳴が響き渡った。


「どうした? 琴葉と何かあったのか?」

『ちげーよ! 宿題が終わらね〜』

「っ……」


 電話口から聞こえてきたのは、色恋沙汰とは無縁の、ただの自業自得なSOSだった。

 翔の肩から、一気に力が抜けていく。


「……はぁ」

「ため息でか」


 呆れたような花音のツッコミが、リビングに響いた。

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