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幼馴染にフラれた日、ヤケクソで助けた男の子の姉がクラスのお姫様だった 〜お姫様直々のプロデュースで、幼馴染を見返します〜  作者: 桜 偉村
第十章

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第124話 お姫様とぬいぐるみ

 エンドロールが流れ終わり、場内に明かりが戻る。

 鑑賞中に、本当に偶然指先が触れ合う——なんていうイベントは起こらなかった。


「そろそろ行く?」

「そうだな」


 人の流れに乗って席を立ち、シアターを後にする。


「面白かったな」

「ね、めっちゃ良かった」


 彩花は満足げにうなずく。

 翔は、その目元がほんの少しだけ赤いことに気づいたが、そこには言及しないでおいた。


「今日は誘ってくれてありがとな。楽しかったよ」

「ううん、私こそ。映画の趣味が似ていて良かった」


 彩花がはにかむように白い歯を見せた。

 通路を抜けると、案の定というべきか、トイレの前には長蛇の列が伸びていた。


「さすがにこれは並べないな……下のフロアのゲーセンのとこだったらまだ空いてるかな」

「それはあるね。行ってみよ」


 エスカレーターに乗り、ゆっくりと下っていく。


「ヒロインの子、報われてよかったね」


 彩花がしんみりとした声でつぶやいた。


「あの子、ずっと想いを伝えられなくて苦しんでたから」

「だな」

「でも、主人公の男の子も、もう少し女の子の気持ちを考えてあげてもよかったと思わない?」

「まあな」


 翔は短く同意した。

 少し考えてから、続ける。


「けど、相手が自分のことを好きかどうかなんて、わからないんじゃないか? そうかもなとは思っても、確信はそうそうできない気がする。勘違いだったら怖いしさ」

「それは確かにね」


 彩花はうなずいてから、少し間を置いた。


「でも、相手のことが好きなら、行くときはバシッと行かないとじゃない? ——男の子なら、特に」


 彩花のまっすぐな眼差しが、翔を射抜いた。

 有無を言わせないその迫力に気圧され、翔はごくりと息を呑んだ。


 彩花はすぐに視線を逸らした。

 エスカレーターの手すりのあたりに目を落とし、何でもなかったような顔をしている。

 翔はそっと息を吐き出した。


「……まあ、頑張るよ」

「もう、相変わらずヘタレだねぇ」


 彩花がため息混じりに笑う。


「やらない後悔よりやって大成功だよ。何のためにいろいろ頑張ってるの」

「そうだけど……なんで、いつの間にか俺が怒られてるんだ?」


 翔が苦い顔をすると、彩花がくすくすと笑った。


「ふふ、主人公と草薙君が少し似てたからね。ね、もし私たちが入れ替わったらどうする?」

「あー……とりあえず勉強と筋トレはするかな」


 翔が真っ先に思いついたことを口にすると、彩花がげんなりとした表情になる。


「……さすがに華がなさすぎない?」

「だって、これまでの努力を無駄にするのは申し訳ないし。逆に、そっちはどうするんだよ?」

「えーっと……」


 彩花は視線を泳がせて、頭をぽりぽりと掻いた。


「……その二つしか思いつかない」

「俺たち、大丈夫か?」


 勉強と筋トレを一緒にこなす特殊な間柄とはいえ、高校生としてはあまりにも残念すぎる気がした。


「あ、でも、色々な髪型を試してみたり、草薙君が選ばなそうな服を試着したりはしようかな」

「誰得なんだよ」

「ふふ。ギャップ萌えでモテちゃうかもよ?」

「世の中、そんな簡単じゃないだろ——あ」

「どうしたの?」

「双葉になったらやってみたいこと、一個思いついた」

「おっ、なになに?」


 彩花は興味津々といった様子で、身を乗り出してきた。


「ゲームが下手な人の気持ちを理解すること——いたたっ」


 耳を強く引っ張られ、翔は短い悲鳴を上げた。

 そのタイミングで、エスカレーターが下のフロアに到着した。


 彩花はふん、と鼻を鳴らすと、スタスタとトイレの方向へ歩いて行ってしまった。

 翔は赤くなっているであろう耳をさすりながら、その後に続いた。




 トイレを済ませると、二人は「せっかくだし、ついでに」と、ゲームセンターのゾーンをぶらつき始めた。


「あ、これ前に弓弦がやってたやつだ」


 お菓子が並んでいるクレーンゲームの前で、彩花が足を止めた。


「弟の仇でも取るか?」

「別にお腹空いてないからいいや」


 そんな他愛のない話をしながら歩いていると、ふいに彩花の足が止まった。

 その視線が、ある一点に釘付けになっている。


「どうした? 気になるものでもあったか?」

「う、ううん、なんでもない」


 彩花はハッとしたように首を振り、再び歩き出した。


「そうか」


 そのまましばらく歩いた後、翔は立ち止まった。


「ちょっとトイレ行ってきてもいいか?」

「えっ、また?」


 彩花が目を丸くする。


「悪いな」

「いや、いいんだけど。じゃあ、私は外で待ってるよ」

「了解」


 彩花が出口へ向かうのを見届けてから、翔は踵を返してクレーンゲームの並ぶゾーンへと足を踏み入れた。

 先ほど、彩花がじっと見つめていた景品——白いウサギのぬいぐるみが入った筐体を発見する。


(……よし)


 硬貨を投入し、アームを操作する。

 しかし、何度か挑戦しても、アームは景品をかすめるだけで、一向に持ち上がる気配がない。

 さすがに諦めるべきかと迷ったが、意を決してもう一度だけ硬貨を入れた。


 今度はゆっくりとアームが下り——ぬいぐるみのタグに引っかかった。


「よし、そのまま……!」


 そんな翔の願いが通じたのか、アームは頼りなく揺れながらも、ウサギを見事に落とし口まで運送した。

 確かな満足感とぬいぐるみを胸に、翔は足早に彩花の元へ戻った。


「お待たせ」

「うん、全然——えっ?」


 彩花がぬいぐるみを視界に入れて、ぽかんと目を丸くした。


「それ、さっきの……?」

「おう。——はい」


 差し出すと、彩花は反射的にそれを受け取った。

 しばらくウサギのつぶらな瞳と見つめ合ってから、おずおずと顔を上げる。


「あ、ありがとう……でも、どうして?」

「えっ? いや、えっと……」


 翔は口ごもった。

 取ることに気を取られていて、理由など考えていなかった。


「……映画記念?」

「えっ?」

「ほ、ほらっ、誕生日に双葉が記念でって、ツーショを撮っただろ? あんな感じで、映画ならゲーセンかなって思っただけで、深い意味はないから」


 翔が早口で並び立てると、彩花がくすりと笑った。


「ふふ。そんなに焦ると、逆に怪しく見えるよ?」

「っ……今回は奢りだから。その、日頃の感謝でもあるし」

「うん。ありがたくもらっておくね」


 彩花はウサギのぬいぐるみを胸に抱きしめ、へにゃりと目元を和らげた。

 そして、ふと思いついたように顔を上げると、自分のスマホを取り出して翔の胸元へ押し付けてきた。


「ねえ、草薙君。写真撮らない? ——映画記念でさ」

「っ……おう」


 自分の言葉を使われては、断ることなどできなかった。

 腕を伸ばして構えると、彩花がスッと肩口へ寄ってくる。ほんのりと甘い香りが、鼻先を撫でた。


 まずは普通に、数枚のシャッターを切る。

 画面の中の彩花は、もらったばかりのウサギを胸に抱きしめ、心底嬉しそうに白い歯を見せている。

 その隣に並ぶ自分の姿を見て、翔はなんだか胸の奥がむず痒くなった。


 数枚撮り終えたところで、彩花が唐突にうさぎを持ち上げた。


「ちょっと、草薙君もこっち向いて」

「なんで——っ」


 次の瞬間、ふわりとした感触が顔を覆った。

 うさぎが、翔の顔に押し付けられている。


「ちょっと待て、これ何の構図だよ」

「いいから、そのまま!」


 彩花が素早く翔の手からスマホを取り上げると、シャッターを切った。


「——はい、OKです」

「やっと終わったか」


 翔がうさぎを引き剥がすと、彩花はさっそくスマホに目を落として画面をスワイプし始めた。

 そしてふと、翔に目を向けてつぶやく。


「草薙君って、スマホで見ると小顔だね」

「悪かったな、現実は大きくて」

「そうは言ってないよ」


 彩花はくすりと笑い、うさぎをもう一度胸に引き寄せた。

 そのまま、両腕でぎゅっと抱きしめると、翔を見上げた。


「大事にするね、このコ」

「……おう」


 翔は視線を逸らした。

 そう短く返すのが、精一杯だった。




◇ ◇ ◇




 その日の夜。

 風呂上がりに自室のベッドへ寝転がっていると、ブーッとスマホが震えた。


 画面を開くと、彩花から今日撮ったツーショットの写真が数枚、送られてきていた。


『今日はありがとね。ウサギ、ちゃんとベッドの横に飾ったよ』


 そんなメッセージと一緒に添えられた写真の数々を、翔はスワイプして眺める。

 ウサギを抱きしめて満面の笑みを浮かべる彩花と、その横に並ぶ自分。ウサギを顔に押し付けられて、少しだけ顔をしかめている自分。


 ——これまでに比べて、翔の表情はだいぶ自然になっていた。


 以前は、どこかぎこちなくて、カメラを凝視するような顔だった。

 けれど今は、隣にいる彩花と同じように、柔らかく笑えている。


(……慣れてきた、のか)


 ツーショットに慣れること自体は、良いことなのだろう。

 元々、彩花が翔の写真慣れのために始めたことだ。


 けれど、どこかくすぐったい気持ちになり、翔はスマホをゆっくりと胸の上に伏せた。

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