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幼馴染にフラれた日、ヤケクソで助けた男の子の姉がクラスのお姫様だった 〜お姫様直々のプロデュースで、幼馴染を見返します〜  作者: 桜 偉村
第九章

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第103話 お姫様の母からの追及

「真美さん。本当にお昼をいただいてもいいんでしょうか?」

「もちろんよ。たくさんあるから、食べていって」


 翔がキッチンに立つ真美に改めて確認すると、彼女は笑顔で快諾してくれた。

 だが、不意に包丁を置いて手を拭くと、翔に向き直った。


「その代わりと言ってはなんだけど、ひとつ聞いてもいいかしら?」

「はい。なんでしょう?」


 改まった口調に、自然と背筋が伸びる。


「大したことじゃないんだけどね——」


 真美はそう前置きをすると、翔と彩花を見比べた。


「二人は、いつの間に名前で呼ぶようになっていたの?」

「「っ……!」」


 翔と彩花は、同時に動きを止めた。

 真美は口調こそ穏やかだが、その目は笑っていないように見えた。


(やばい、怒ってる……?)


 翔の背中に、冷や汗が滲んだ。

 勉強前に彩花が自然に「翔君」と呼んだときは、特に驚いた様子もなかった。

 だから、すでに伝えてあるものだと思っていたのだが、あのときは聞き流していただけで、実は気になっていたのだろうか。


 いくら普段は温かく受け入れてもらえているとはいえ、年頃の娘が異性の同級生と名前で呼び合っているのだ。

 親として思うところがあっても、おかしくはない。


「べ、別にいいじゃん。呼び方なんて、お母さんには関係ないでしょ」


 彩花が唇を尖らせた。その声は、わずかに上ずっていた。

 真美は娘の顔を静かに見返して——ふっと表情を和らげた。


「ええ、そうね」

「……えっ?」


 翔は思わず声を漏らした。

 真美がくすっと息を漏らしながら、イタズラっぽく瞳を細める。


「あら、翔君。私が本気で怒っていると思った?」

「あ、えっと……はい」

「冗談よ。そこまで口出しするほどお節介じゃないから、安心してちょうだい」


 真美がひらひらと手を振った。


「彩花の言う通り、呼び方なんて本人の自由だもの。好きにしてもらって構わないわ」

「あ……ありがとうございます」


 翔は自然と頭を下げていた。

 胸の奥で、詰めていた息がゆっくりほどけていく。


「ただ、やっぱり報告もないと気になるじゃない? 母親としては」

「それは、そのっ……お互いの家で名字呼びだったのが、そもそもおかしかったじゃん」

「まあ、それもそうね」


 絞り出したような彩花の言葉をあっさりと受け入れると、真美は翔を見てパチリとウインクをした。

 翔は脱力しながらも、その懐の深さに感謝した。


 一方、彩花は少しバツが悪そうな表情で、じっと床を見つめている。

 耳の先がほんのり赤い。


 居心地の悪い沈黙が降りる中、玄関の扉が開く音がした。


「ただいまー!」


 弓弦の元気な声が聞こえてきた。


「あ、帰ってきたみたい」


 彩花がパタパタと玄関に向かった。

 翔は、助かったと大きく息を吐き出した。


「ただいまー! って、あれ、翔くん⁉」


 弓弦は勢いよくリビングの扉を開けると、翔の姿を見て目を丸くした。


「よう、弓弦。おかえり」

「どうしたの? もう帰るって言ってなかった?」


 弓弦が、翔に駆け寄りながら尋ねた。


「予定が変わってさ。お昼をいただくことになったんだ」

「えっ、ほんと⁉ じゃあ、この後遊べるね!」


 弓弦はぴょんぴょんと飛び跳ねて喜び、それから思い出したように胸を張った。


「そういえば今日、最後のミニゲームで得点王になったんだよ!」

「おー、すごいじゃん」

「まあ! 弓弦、頑張ったのね」

「うん! すごいでしょー」


 翔と真美が口々に褒めると、弓弦は得意げにピースを繰り出した。

 そこへ、彩花が玄関から戻ってきた。


「弓弦、手洗いうがいはした?」

「あっ、忘れてた!」


 弓弦はくるりと踵を返し、洗面所へスタスタと向かった。


「まったくもう」


 彩花は腰に手を当てて、苦笑混じりにそうつぶやいた。

 今の一瞬で、すっかりお姉様モードに切り替わっているようだ。


 少し経って戻ってきた弓弦は、彩花と翔を交互に見ながら声を上げた。


「ねぇ、お姉ちゃんと翔くん、一緒にゲームしよ!」

「あ、えっと……私はパスで」

「えー、なんで?」

「その……お昼ご飯作るの、手伝うから」


 彩花は一瞬だけ翔を見た後、すぐに視線を逸らした。


(……やっぱり、あれはそういうことだったのか)


 翔は胸の奥がくすぐったくなるのを感じながら、口を開いた。


「……ありがとな」

「べ、別に。私から誘っておいて、お母さんに丸投げするのは無責任でしょ」


 彩花は早口でそう言うと、そそくさとキッチンへ向かった。


「ほら、お母さん。すぐに作り始めようよ。あんまり時間もないし」

「ふふ、そうね」


 真美がくすりと笑いながら、彩花の後に続く。


「じゃあ、二人でゲームしよ!」


 弓弦が翔の腕を引っ張る。

 翔はその頭をぽんと撫でた。


「ありがとな、弓弦」

「ん? 何の話?」


 弓弦が無邪気に首を傾げた。


「……いや、なんでもない」


 翔はゆっくり首を振ると、「じゃあ、さっそく始めるか」とテレビの前に向かった。




◇ ◇ ◇




「くっそー、もう一回!」


 翔のキャラが喜んでいる画面を前に、弓弦が悔しそうに声を上げた。


「いいぜ。何回でも付き合うよ」


 コントローラーを握りながら、翔はキッチンの方へ視線を投げた。


 エプロン姿の彩花が、真美の横で野菜を切っている。

 母娘で並んで料理をする姿は、なんとも言えない温かさを感じさせた。トントン、というリズミカルな音が心地よい。


「お姉ちゃん、最近お料理を練習してるんだよ。夏休みに入って少ししてからかなぁ」


 弓弦が、対戦画面を操作しながら教えてくれた。


「……そうなのか」

「うん。前までは卵焼きしか作ろうとしなかったのに、なんでだろうね?」


 弓弦が不思議そうに首を傾げた。

 単に、学校があるときよりも時間があるからだろう。それ以上の意味はないはずだ。


「——あっ、やば」


 指先が狂った。

 画面の中で、翔の操作キャラが間抜けに落下していく。


「翔くん、へたー」

「うるさい。もう一回だ」

第104話は「お姫様の家での昼食」です!

小学三年生男子の弓弦君が、オムライスにケチャップで何を描くのか、ぜひ予想してみてください!笑

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