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19. ハンター協会

 D級ゲートでの惨劇から二日が経過した。


 ハンター協会本部ビル、その最上階にある重役会議室は、重苦しい沈黙に包まれていた。


 中央の大きな円卓を囲むのは、協会の最高権力者である会長、桐生宗一郎きりゅう そういちろうをはじめ、副会長の結城浩輔ゆうき こうすけ、そして各部門のトップである役員たち、計10名。


 いずれも厳しい表情で、手元の資料に目を落としている。


 やがて、白髪をオールバックにした壮年の会長、桐生が、ゆっくりと口を開いた。


「……さて、議題は先日発生したD級ゲートにおける異常事態についてだ。まずは、被害状況と調査結果の報告を」


 その声は低く、部屋の空気をさらに引き締めた。


 進行役を務める役員の一人が立ち上がり、手元のタブレットを操作しながら報告を始める。


「はい。まず、今回の攻略に参加したハンターは12名。うち、生還者は8名。死者4名という、D級ゲートとしては前代未聞の被害が出ております」


 会議室に、息を呑む音が響く。


「ゲート発生時の魔力測定値は、間違いなくD級相当でした。しかし、内部からはB級に匹敵する能力を持つと思われる未確認モンスター、および同等以上の力を持つボスモンスターの出現が確認されました」


 別の役員が眉をひそめる。


「測定ミスではなかったと?」


「はい。複数の測定器でクロスチェック済みです。ゲート内部で何らかの急激な変異、あるいは干渉があった可能性が考えられます。さらに……」


 報告者は言葉を続ける。


「このゲートは、脱出不可能となる『ロックアウト型』の特性を、途中で発現させたようです。生存者の証言が一致しております」


「ロックアウト型だと……? D級ゲートでか!?」


 驚きの声が上がる。ロックアウト型は高ランクゲートでも稀な現象であり、D級での発現など、通常では考えられない。


 一人の役員が、最も不可解な点について口を開いた。


「それで、報告にあったボスモンスターだが……一体誰が倒したんだ?」


 全員の視線が報告者に集まる。報告者は、やや言いにくそうにしながらも、資料を読み上げた。


「……生存者の聴取、および現場に残された痕跡からの判断になりますが……ボスモンスターに止めを刺したのは、パーティーに参加していたF級ハンター、黒崎陽斗。及び、戦闘中に死亡したD級ハンター、岩田大樹。この二名によるものと結論付けられています」


 一瞬の静寂の後、会議室は騒然となった。


「F級だと!?」

「馬鹿な!!」


 「しかも、その黒崎とかいうF級は……」報告者が付け加える。「……軽傷、いえ、報告書によればほぼ無傷で生還した、と」


「ほぼ無傷だと!?」

「ありえん! 何かの間違いではないのか!?」

「F級が? 一体どういうことなんだ……」


 幹部たちは、信じられないという表情で互いの顔を見合わせた。


「その黒崎陽斗について、急ぎ調査を行いました」


 別の役員が、新たな資料を提示する。


「現在、特定のギルドには所属しておらず、フリーランスとして活動。ハンター登録からの期間は短く、公式な討伐記録などの実績は、ほぼ皆無です」


「実績がない……? では、一体どうやって……」


「何か、規格外のアーティファクトや、強力な武器を隠し持っていた、ということでしょうか……?」


「現時点では不明です。ただ……『影』を操るような、特異なスキルを使用していたとの情報があります」


 会議室は再び沈黙に包まれた。情報はあまりに少なく、矛盾に満ちている。だが、一つだけ確かなことがある。


「……いずれにせよ、このF級ハンター、黒崎陽斗が、今回のボス討伐、ひいては生存者たちの生還に決定的な役割を果たしたのは間違いない、ということか」


 会長の桐生が、重々しく呟いた。副会長の結城も頷く。


「詳細は不明ながら、無視できる存在ではないでしょうな。F級というランクが、何らかのミス、あるいは意図的な隠蔽である可能性も考慮すべきかもしれません」


「規格外の新人、あるいは隠れた実力者……か」


 役員の一人が興味深そうに言う。


 会長の桐生は、円卓の中央を見据え、静かに、しかし強い意志を込めて言った。


「その黒崎陽斗というハンター……早急に、さらに詳細な調査を。そして、可能であれば……一度、我々が直接、話を聞く機会を設けたい」


 謎多きF級ハンター、黒崎陽斗。彼の存在は、ハンター協会の最高幹部たちの強い興味を引きつけ始めていた。


 彼らはまだ知らない。


 それが、世界の常識を覆す始まりになるかもしれないということを。

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