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13/20

13. もっと強く

 レベル25に到達してからも、陽斗は休むことなくモンスターを狩り続けた。


 影分身で数を増やし、影刃で薙ぎ払い、影縫で動きを封じ、影喰いでHPとMPを回復する。もはや、草原のモンスターは陽斗の敵ではなかった。


 しかし、どれだけレベルが上がろうとも、どれだけスキルが強力になろうとも、満たされないものがある。


「……腹、減ったな……」


 陽斗は、ぽつりと呟いた。そういえば、最後に食事をしたのはいつだったか。喉もカラカラに渇いている。


 陽斗は、一旦、村に戻ることにした。


 村の中を歩いていると、食欲をそそる、香ばしい匂いが漂ってきた。匂いの元を辿ると、一軒の食堂が見つかった。


「ここでいいか……」


 陽斗は、暖簾のれんをくぐり、店の中に入った。


「いらっしゃい!」


 元気の良い声に迎えられ、陽斗は空いている席に座った。メニューを見ると、シチューやグラタン、ハンバーグなど、温かそうな洋食が並んでいる。


「えっと……ビーフシチューと、パン、お願いします」


 陽斗は、一番温まりそうなメニューを注文した。


 しばらくして運ばれてきたビーフシチューは、湯気を立て、食欲をそそる香りを放っていた。ゴロゴロと入った牛肉と野菜は、見るからに柔らかそうだ。


「いただきます……!」


 陽斗は、スプーンを取り、ビーフシチューを口に運んだ。じっくりと煮込まれた牛肉は、口の中でとろけるように柔らかい。濃厚なデミグラスソースと、野菜の甘みが、絶妙に絡み合っている。


「……うまい!」


 陽斗は、思わず声を上げた。温かいシチューは、陽斗の空腹を満たすだけでなく、冷えた体と心を温めてくれるようだった。添えられたパンをシチューに浸して食べると、さらに美味しい。


 陽斗は、夢中でビーフシチューとパンを平らげた。


 食事を終え、陽斗は店員に声をかけ、支払いを済ませた。その時、ふと、ある不安がよぎった。


(そういえば……これって、どうやってログアウトするんだ……?)


 前回は、ゲームオーバーになって、強制的にログアウトさせられた。しかし、今回は違う。自らの意思で、この世界から出なければならない。


 陽斗は、意を決して、声に出してみた。


「……ログアウト」


 ピン!


 陽斗の目の前に、あの半透明のウィンドウが現れた。


 《ログアウトですね。お疲れ様でした!》


 ウィンドウに表示された文字を見た陽斗は、安堵の息を漏らした。


 次の瞬間、陽斗の視界は真っ暗になった。


 ……


 …………


 ………………


 陽斗が次に目を開けた時、そこは、見慣れた自分の部屋だった。


「……戻って、これた……」


 陽斗は、ベッドから起き上がり、辺りを見回した。窓の外は、薄明るい。時計を見ると、時刻は午前6時を回ったところだった。


(……もう朝か。…それにしても、ひどい疲労感だ……)


 陽斗は、どっと押し寄せる疲労感に、思わずベッドに倒れ込んだ。


 陽斗は、シャワーを浴びて、さっぱりしたい気持ちはあったが、それ以上に、眠気が勝る。


(シャワーは後だ……。少しだけ、少しだけ、横になろう……)


 陽斗は、そう思いながら、再び、眠りについた。


 ……


 …………


 ………………

 

 次に、陽斗が目を覚ました時、時計の針は、午後3時を指していた。


「……やばい、寝すぎた……!」


 陽斗は、慌ててベッドから飛び降りた。


 急いでシャワーを浴び、湯船に浸かる。温かいお湯が、陽斗の疲れを癒してくれるようだった。


 風呂から上がり、陽斗は、ふと、あることを思い出した。


「ステータス……」


 ピン!


 陽斗が呟くと、目の前にウィンドウが現れた。


「レベル、42……! ちゃんとレベルが反映されてる……。これなら……!」


 陽斗の脳裏に、初めてゲートに挑んだ時の記憶が蘇る。


(F級のくせに、足手まといなんだよ!)


(影使いなんて、ハズレスキル引いちまったんだな、可哀想に)


 他のハンターたちから浴びせられた、嘲笑と侮蔑の言葉。何もできなかった、あの時の自分の無力さ。


(……もう、あんな思いはしたくない。今度こそ、絶対に……!)


 陽斗は、拳を強く握りしめた。


「ゲートのモンスターに挑む前に、もっと、もっとゲームの世界で力をつける……! そして、必ず母さんを助けてみせる……! 今度こそ、誰かの役に立ってみせる……!」


 陽斗は、再び、あの世界へ戻ることを決意した。湯冷めしないうちに、と、急いで服を着て、ベッドに横になる。


 「ログイン」


 陽斗がそう呟くと、再び視界が真っ暗になった。


 ……


 …………


 ………………


 陽斗が次に目を開けた時、そこは、先ほど食事をした、あの村の食堂の前だった。


(よし、戻ってこれた。……それにしても、もっと効率よく力をつけるには、どうしたらいいんだ?)


 陽斗は、考え込んだ。草原でモンスターを狩り続けるのも悪くはないが、もっと効率の良い方法があるはずだ。


(そうだ、ギルドに行ってみよう)


 ギルドに行けば、強いモンスター討伐の依頼を受けられるはずだ。 


 ギルドの建物は、村の中でもひときわ大きく、冒険者らしき人々が出入りしている。陽斗は、少し緊張しながら、ギルドの扉を開けた。


「いらっしゃい。何か依頼を探してるのかい?」


 受付の女性が、陽斗に声をかけた。以前来た時とは違う人だが、同じように親しげな雰囲気だ。


「はい。えっと……もっと、強くなれるような、何かいい依頼、ありませんか?」


 陽斗がそう尋ねると、受付の女性は、少し考え込むような表情をした。


「強くなりたい、ねぇ……。そうねぇ、簡単な依頼をたくさんこなすのもいいけど……。 そういえば、一つだけ、難しい依頼があるわ」


「難しい依頼……?」


「ええ。最近、近くの森に、強力なモンスターが現れたの。何人かの冒険者が挑んだけど、誰も倒せてないわ。もし、あなたがそのモンスターを倒せるなら、報酬も、かなり良いはずよ。 ……あ、モンスターはドラゴンよ」


「ドラゴン……」


 陽斗は少し躊躇したが、すぐに決意を固めた。


「やります! その依頼、受けさせてください!」


 陽斗は、迷わず答えた。


「本当にいいの? 危険な依頼よ?」


「はい、大丈夫です。俺には、強くならなきゃいけない理由があるんです」


 陽斗の真剣な眼差しに、受付の女性は、少し驚いたような表情を浮かべた。


「……わかったわ。それじゃあ、この依頼書にサインして。詳しい場所は、地図を渡すから、確認してね」


 陽斗は、依頼書にサインをし、地図を受け取った。


(ドラゴンか……。今の装備じゃ、心もとないな。武器だけでも、良いものにしないと……)


 陽斗は、一度、村の武具店に立ち寄ることにした。


「いらっしゃい! 何をお探しで?」


 店主の威勢の良い声に迎えられ、陽斗は店内を見回した。壁には、様々な種類の剣や盾、鎧が並んでいる。


「えっと……ドラゴンと戦えるくらいの、強い剣が欲しいんですけど……」


 陽斗がそう言うと、店主は、ニヤリと笑った。


「お兄さん、目が高いね! ちょうど、いいのがあるんだよ」


 店主は、店の奥から、一本の剣を持ってきた。


「これは、ミスリル銀で作られた、特注品の剣だ。軽くて、丈夫で、切れ味も抜群。どんなモンスターの鱗も、紙みたいに斬れるぜ!」


 陽斗は、剣を手に取り、軽く振ってみた。確かに、見た目よりもずっと軽く、手に馴染む。


「これ、ください!」


 陽斗は、即決した。値段はかなり高かったが、陽斗は、迷わず購入した。


 新しい剣を腰に差し、陽斗は、森へと向かった。地図に示された場所は、森の奥深く、薄暗い場所だった。


「……ここか……」


 陽斗は、息を呑んだ。辺りには、焦げた木々が散乱し、硫黄のような臭いが漂っている。


 その時――


 ゴオオオオオオオオオッ!


 突如、激しい風と共に、巨大な影が現れた。


「……!」


 陽斗は、身構えた。そこにいたのは、真っ赤な鱗に覆われた、巨大なドラゴンだった。


「グルルルル……」


 ドラゴンは、低い唸り声を上げ、陽斗を睨みつけた。その眼は、燃えるように赤く、鋭い牙が、口から覗いている。


(で、でかい……! けど……!)


 陽斗は、ミスリル銀の剣を構え、ドラゴンに突進した。


「影刃!」


 陽斗は、影刃を放った。しかし、ドラゴンの鱗は硬く、影刃は、かすり傷一つ付けることができなかった。


「グオオオオオオッ!」


 ドラゴンは、怒り狂い、口から灼熱の炎を吐き出した。


「くっ……!」


 陽斗は、身を翻えして、炎を避けようとした。しかし、避けきれず、熱風が陽斗の腕を焼いた。普段着の袖が焦げ、火傷を負ってしまった。


「あつっ……!」


(まずい、防具がないと、炎の攻撃をまともに受けたら……!)


 陽斗は、必死に考えた。その時、ふと、ドラゴンの首元に、逆鱗があることに気づいた。


(あれだ……! あそこを狙えば……!)


 陽斗は、影分身で分身を作り出し、ドラゴンを撹乱した。そして、隙を見て、ドラゴンの首元に跳躍した。


「はあああああああっ!」


 陽斗は、渾身の力を込めて、ミスリル銀の剣を、ドラゴンの逆鱗に突き立てた。


 ギャアアアアアアアアン!


 ドラゴンは、苦悶の叫び声を上げ、激しく身を捩じった。陽斗は、剣から手を離してしまい、地面に叩きつけられた。


「がはっ……!」


 陽斗は、激痛に顔を歪めた。全身が痺れ、動けない。


(まずい……このままじゃ……!)


 ドラゴンは、怒りに燃える眼で、陽斗を見下ろしていた。そして、ゆっくりと、巨大な口を開け、陽斗に炎を吐き出そうと、その口の中に、赤い光が集まっていくのが見える。


「くそっ……どうすれば……!」

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