12. 再出発
陽斗が次に目を開けた時、そこは、見覚えのある景色だった。石畳の道、木造の家々、そして、遠くに見える緑豊かな森。
「ここは……シンクロ・ワールド……?」
陽斗は、呆然と呟いた。
最後にこの世界を見たのは、βテストの時。二度目のゲームオーバーになり、そのまま意識を失った。そして、目覚めた時には、現実世界の病院のベッドの上だった。
「本当に、ゲームの世界に来れた……? VRデバイスも装着してなかったのに……」
疑問は尽きない。しかし、今はそんなことを考えている場合ではない。
陽斗は、自分が立っている場所が、以前ゲームオーバーになった後に目覚めた、あの小さな村であることを思い出した。
前回、この世界に来た時は、チュートリアルもそこそこに、いきなりモンスターに襲われ、あっという間にゲームオーバーになってしまった。二の舞は避けなければならない。
陽斗は、村の中を歩きながら、今後の計画を練り始めた。まずは、レベルアップの方法を考えなければ。
(前回は、すぐにゲームオーバーになっちゃったからな……。今回は、慎重に行動しないと)
陽斗は、まず、回復薬や防具など、戦闘の役に立ちそうなものを村で購入することを思いついた。
ピン!
陽斗がそう考えた瞬間、目の前に、あの半透明のウィンドウが現れた。
(ウィンドウ……! そういえば、これがあったんだ)
陽斗は、ウィンドウを操作し、自分のステータスを確認する。
「所持金、6,500G……? 結構あるな。デイリーミッションとか、クリアしてるうちに、たまってたのかな?」
陽斗は、村の商店を訪れ、まずは回復薬を購入した。しかし、ここで問題が発生した。
(カバン、持ってない……。どうやって持ち運ぼう……?)
途方に暮れかけたその時、陽斗は、ある可能性に気づいた。
(あっ、もしかして……!)
陽斗は、手の中にある回復薬を「アイテムボックス」にしまうイメージを強く念じた。
すると、どうだろう。
手に持っていたはずの回復薬が、一瞬にして消え去った。
陽斗は、慌ててウィンドウを開き、アイテムボックスの項目を確認する。
【アイテムボックス】
・回復薬 ×5
「……入ってる!」
陽斗は、思わず声を上げた。
(よしっ、これなら、いざって時のために、いろいろと用意しておけるな)
陽斗は、安堵と興奮を同時に感じた。
次に、陽斗は防具屋を訪れた。そこで、陽斗は、防御力を高める効果があるという、銀色のネックレスを購入した。
陽斗は、ネックレスを首から下げてみる。
(……これも、消せたりするのかな?)
陽斗は、そう考えながら、ネックレスが消えるイメージを強く念じた。
すると、ネックレスは、まるで最初から存在しなかったかのように、陽斗の視界から消え去った。しかし、首には、確かにネックレスの重みを感じる。
(消えた……! 周りの人からも見えてない……はず!)
陽斗は、自分の能力に、改めて驚きを隠せなかった。
準備を整えた陽斗は、村の外へと向かった。目指すは、村の近くにある草原だ。そこには、スライムや、その他の弱いモンスターが生息している。
草原に出ると、早速、数匹のスライムが陽斗に近づいてきた。陽斗は、影刃を発動させ、スライムを次々と切り裂いていく。
ピン! ピン! ピン!
何度もウィンドウが現れ、レベルアップを告げる。
陽斗は、スライムだけでなく、草原に生息する他のモンスターも、積極的に倒していった。ウルフ、ゴブリン、コボルト……。
影刃と影縫いを駆使し、時には鋼鉄製の短剣も使いながら、陽斗は順調にモンスターを倒し、レベルを上げていった。
そして、数時間後。
陽斗は、一度、自分のステータス画面を確認した。
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プレイヤー名:ハルト
レベル:25
タイプ:影使い
HP:700/700
MP:620/620
攻撃力:48
防御力:40
素早さ:55
装備:鋼鉄製の短剣(攻撃力+5)
銀のネックレス(防御力+10)
スキル:
・影縫い(レベル8) 消費MP45 成功率:高
・影刃(レベル9) 消費MP40 成功率:高
・影分身(レベル3)消費MP40 成功率:高
・影喰い(レベル4) 消費MPなし 成功率:中高
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「レベル、25……。あっという間に、ここまで上がったな……。それに、新しいスキルも増えてる。影分身と、影喰い……?」
陽斗は、新しいスキルを試してみることにした。
まずは、影分身。陽斗が集中すると、陽斗の影がゆらめき、陽斗と瓜二つの分身が3体現れた。分身たちは、陽斗の動きを真似したり、陽斗の指示に従って、それぞれ異なる方向に走り出したりする。
「すごい……! これなら、連携攻撃もできるし、囮にも使える……!」
次に、影喰い。陽斗は、自分の影に手をかざし、スキルを発動させた。すると、影が陽斗の手に吸い込まれるようにして消えていき、同時に、HPとMPが少しずつ回復していくのを感じた。
「これも便利だな……。でも、使いすぎると、何か良くないことが起きそうな気もする……」
陽斗は、試しに、近くにいたスライムの影を喰らってみた。すると、HPとMPが完全に回復しただけでなく、一瞬、身体能力が向上したような感覚があった。
「これは……! もしかして、一時的にステータスが上がったのか?」
陽斗は、さらに、近くにいたウルフの影を喰らった。すると、今度は、先ほどよりも大きな効果を感じた。HPとMPが大幅に回復し、さらに、攻撃力が格段に上がったような気がする。
「すごいぞ、このスキル……!」
しかし、調子に乗った陽斗が、次にゴブリンの影を喰らおうとした時――
「うっ……!」
突然、陽斗は軽いめまいと吐き気に襲われた。
(くそっ……影喰いの使いすぎか……? やっぱり、何でもかんでも喰らえばいいってもんじゃないな……)
陽斗は、新しいスキルの可能性と危険性を、身をもって体験した。
「よし、これからは、もっと慎重にスキルを使っていこう……」
陽斗は、そう心に決め、再びモンスターとの戦闘に戻っていった。