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第6話 白狐

臣視点です。

おまけが後書きにあります。



※この作品は「カクヨム」様、「アルファポリス」様にも掲載させていただいています。

 卒倒した(いかるが)冴久(さく)が起きたのは日がすっかり落ちた頃だった。仕事もなく久々に全員で夕飯を食べる最中、二色(にしき)大雅(たいが)如月(きさらぎ)弦太(げんた)にも藤堂(とうどう)(おみ)は自身の考えを伝えた。



 「藤堂さん凄いっす! 感動っす! 俺、応援するっす!」


 「僕は反対! 何か企んでるかもしれないじゃん!」



 拍手して喜ぶ二色とは対照に腕を組んで頬を膨らませる如月。



 「私も反対です」


 「鵤さんまで何でなんすか? 真白(ましろ)ちゃんいい子すよ」


 「月城組というのが問題です。藤堂組(わたしたち)と月城組、双方の組長。…月城組は元組長ですが。二人は犬猿の仲でそれは未だに続いています。そんな相手を組長が許すとは到底思えません」



 眼鏡の位置を直しながら理由を述べる彼に親父から許可がおりた事を告げる。それを聞くと驚いた様子で椅子から立ち上がる。



 「彼女を諦めたくない。もし彼女が月城組だったとしても俺は彼女を選ぶ」



 臣の覚悟は既に決まっていた。その言葉に鵤はため息をつく。



 「私は彼女を深く知りません。ですので知ってから判断しようと思います」



 一度決めたら譲らない臣に譲歩した何とも彼らしい答えだった。それを聞いた二色が自分の事のように喜ぶ。ただ、如月だけが頑なに反対を貫いた。理由を問うが首を振るばかりで答えようとしない。彼にも思う所があるのだろう。静まるリビングに着信音が響く。



 「はい。鵤です。………え!? すぐに向かいます!」



 リビングを出て、静かに話す鵤が急に声を荒げた。通話が終わるとすぐに戻ってきた彼はどこか焦っている様子だ。



 「何があった?」


 「我々の管轄下内に月城組が現れたそうです」



 耳を疑う内容だった。如月と二色も席を立ち用意を始める。



 「何かあったわけではありません。ですがナンバーツーとスリー、白狐(びゃっこ)が揃っており、下の者では対処できません」



 鵤がトレンチコートを着ながら説明する。白狐まで出てくるのは珍しい。素顔を狐面で隠し、髪は白の長髪。声はボイスチェンジャーで変え、常にオーバーサイズの和服を身に着けている。その素性は性別さえ不明だ。

 臣も肩にコートを掛け、髪をオールバックにする。全員で車に乗り込むとすぐに出発した。



       ◇



 目的地に着いた臣達一行はホテルの出入口に立つ月城組を見つける。彼等のいる場所は臣達、藤堂組の管轄であり基本的に入る事を禁じていた。これを破れば争いが起きる可能性があるのも月城組も知っているはずだ。


 (なのに何故ここにいるんだ?)


出入口でふざけている彼等は臣達に気づいていない。



 「おい! ここは俺達のシマだぞ! 立ち入るな!」


 「待て!」



 臣の制止も虚しく飛び出していった如月は白狐に拳を振る。だが、その拳は白狐へ届く事はない。何故なら月城組ナンバースリーである(かげ)が受け止めたからだ。



 「影」



 反撃をしようとする彼は名前を呼ばれ動きを止める。それでなければ今頃如月は倒れていただろう。



 「決まりを破ってお邪魔してるのはこっちなんだ。手を出しては駄目」



 ボイスチェンジャーで変えられた機械音の声では男女どちらなのかわからない。

 頭に血がのぼり、飛びかかろうとする如月を二色が抑える。それでも暴れようとするのを鵤が制止させた。相手に争う意思のないのを確認して二人を車へ下げる。



 「藤堂組が出てきた。あと十分で終わらせて」



 スマホを確認した後、無線で誰かに指示をしている。



 「何故規定を違反したのですか?」


 「月城組(おれら)の大ボスが女に大事な(ブツ)盗られたんだと。それ取り返しに来ただけなんだわ」



 白狐の肩に腕をかけ、ヘラヘラと話す凰士朗(おうしろう)。大ボスとは引退した元組長だろう。彼といえば女好きで有名だ。ならこの話も納得できる。



 「なぁ、遅くね? やっぱ俺が行った方良かったんじゃねぇか?」


 「凰士朗が行ったら帰ってこない」


 「ちぇ〜」



 提案を断られた彼はヘソを曲げて何処かへふらふらと行ってしまう。



 「一つ…尋ねたい」



 こういう交渉や話す場面は普段鵤に任せている。しかし、今回どうしても聞きたい事のある臣が口を開く。白狐は返事の代わりに首を傾げる。その仕草が真白と全く同じだったため一瞬、言葉が出てこなかった。鵤に声を掛けられ我に返る。



 「真白という女性に心当たりはないか?」



 少し考えるような素振りを見せる。答えるよりも先に女性の嫌がる声が聞こえる。



 「嬢ちゃん。俺と素敵な夜を過ごさない? そこのホテルとかで」



 ダサい台詞でナンパをする凰士朗の姿がそこにはある。女性は断っても迫り続ける彼に困り顔をしながら後退りしていく。それでも負けじと追いかけて迫る姿に白狐はため息をつく。



 「影。あれ回収」



 指示通り、断られた女性とは別の女性へとナンパに(いそ)しむ凰士朗を無理矢理連れ戻している。不服そうな顔をして文句を言う彼に影は無言を貫く。



 「しょうがない。凰士朗のは天性のものだから。馬鹿とも言える」



 急に独りでに話し始める白狐。相槌をしながら笑う姿に恐怖心を抱く。一体誰と話しているのか。



 「藤堂組の探し人はこちらでも探しておこう」


 「あ…ああ」


 (知っているかどうかだけでよかったんだが)


 そんな事を思う。質問に対して是非でない答えは臣が求めるものではなかった。

 ホテルの入口が開く。そこには黒の和服を着る月城組現組長・月城(つきしろ)(はる)が姿を現す。彼は白狐に向かって満面の笑みで丸のハンドサインを送る。それを見る限り作戦は成功したのだろう。



 「決まりを破ってすいません」



 頭を下げる春からは女物の香水が香る。それは鼻が曲がりそうな程強烈な匂いだった。髪は乱れ、首筋には真っ赤なキスマークが大量に残されている。



 「後日御礼の品を贈りますね」


 「必要な…」


 「それでは」



 返事も聞かず足早に全員を連れて立ち去る。和気あいあいとした雰囲気で帰っていく月城組とは反対に冷ややかな目をした鵤が外面の笑顔を保ったまま舌打ちをした。



 「戻るぞ」



 あからさまに苛ついている彼を連れて車に戻る。車内では血気盛んの如月とキーボードを力強く打つ鵤。その様子に怯む二色というカオスな状況の中、帰路についた。

 後日、臣達の暮らす別邸に荷物が届いた。差出人欄には『月城春』と書かれただけで住所の記載はない。そもそも別邸の住所は親父しか知らない。罠じゃないかと鵤や如月が警戒する中、二色が恐る恐る開封する。そこにはメッセージカードが封入されていた。先日の御礼と内容物が達筆な字で書かれている。他にも梱包されたものがいくつか入っており、それぞれに名前が書かれている。



 「これ欲しかったフィギュアっす! 限定品なんすよ!」



 二色が取り出したのは最近ハマって観ていたアニメのフィギュアだった。



 「お前罠かもしれないんだ。もっと注意…」



 はしゃぐ彼に注意を促す如月だったが、自身の名前が書かれた箱を見て動きを止める。



 「如月の言う通りです。もっと注意を払ってください」


 「こ! これは!」



 急に箱を開け、中身を取り出す。



 「即完売だったコラボコスメじゃん!」



 出てきたのはコスメ一式だった。余程欲しかった物なのか彼はそれらを抱き締めている。すっかり物に懐柔された二人を見て呆れるように鵤はため息を吐く。



 「鵤さんにもあるすよ」



 二色によりゆっくりと差し出された袋を受け取る彼はそっと中身を確認する。少しの間硬直した後、珍しく口角を上げた。



 「……罠ではなさそうですね」



 全員の視線を感じたのだろう。咳払いをして真顔に戻ってしまう。


 (その箱に何が入ってたんだ…?)


 鵤がプレゼントで口角を上げることなど滅多にない。確かめたいが箱はすでに閉じられている。



 「藤堂さんにもあるっす」



 差し出されたのは分厚い紙袋だった。中には便箋と『デートが上手くいく三つのコツ』というタイトルの本が同封されていた。タイトルを見た臣はすぐに紙袋に本を戻す。



 「藤堂さんのは何だったすか?」


 「いや、大した物じゃない」



 しつこく聞いてくる二色を何とか撒き、自分の部屋へと逃げ込む。



 『風の噂で耳にしましたが今度デートらしいですね。是非これを活用してください。健闘を祈ります』



 同封されていた便箋にはそう書かれていた。それを握り潰しゴミ箱へ投げる。珈琲を淹れ、椅子に座る臣は一応贈られた本に目を通した。

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