第13話 作戦の全貌
臣視点です。
ラストに近づいています。
※この作品が「カクヨム」様、「アルファポリス」様にも掲載させていただいています。
月城春から連絡が来たのはあの日から二ヶ月の月日が流れた時だった。
『幹部達も連れて来てください』と連絡をもらった臣は急いで添付された住所へ向かう。月城春に迎え入れられたのは自然の多い庭園を抜けた先に隠れるようにして建てられた平屋だった。
「陽は一週間前に目を覚ましました」
屋敷内を歩きながら彼が口を開く。
「ですが体力の回復が追いつかず、やっと話せる程度までになりました。今回の件に関して陽が直接説明すると言って聞かないので連絡しました」
誰もいない長い長い廊下を歩き続け、暗い廊下を奥まで進んでいく。
(どこまで続くんだ…?)
「ここです」
突き当たりで立ち止まり扉をノックする。「どうぞ」と小さな声の返答で開いた先には森を連想させるほどの植物に囲まれた温室が広がっていた。人の過ごしやすい温度に管理されている。その室内の中心に一つのベッドが置かれ、傍に長テーブルと椅子が並べられている。電動ベッドの上半身を起こし体を預けている声の主は真白に違いない。
「春兄ありがと。後は私が説明するから」
その言葉に彼は部屋を後にした。臣が一歩を踏み出す。歩みは止まることを知らずすぐにベッドまで辿り着く。そこには腕に包帯を巻き、何本もの点滴を入れる真白の姿。思わず彼女の頬へ手を伸ばす。
「真白…さん…?」
「はい。お久しぶりです」
伸ばした手の平に頬ずりする彼女を見て目頭が熱くなるのを感じる。生きててくれた、それだけで胸がいっぱいだった。
「無事で……良かった……」
膝から崩れ落ちる。不意に彼女が顔に手を這わせる。
「もしかして…寝てないんですか?」
目のしたにできた濃い隈を親指で撫でられる。実際、あの日からあまり寝ていない。眠ると意識を失った真白が腕にいる夢を見てしまう。
「大事な人が危ないのに寝てなんていられません」
その手を握りキスをする。顔を赤く染める彼女が愛おしいと感じる。
「取り敢えず! 皆さん座りませんか?」
小さな手で必死に口を塞ごうとしてくると話題を変えようと着席を促す。だがその声は動揺で裏返っている。渋々手を離し、用意された椅子に座る。硝子張りの天井から差し込む太陽の光が眩しくて目を細めた。
「こちら御見舞いの品です」
鵤がすかさず御見舞品を渡す。バスケットに積まれたフルーツを見て目を輝かせている。
「九十九、これ運んで? あと眩しいから上閉めてもらっていい?」
「陽様。承りました」
誰もいなかったはずの場所に貞子のように前髪を長く伸ばした女性が立っていた。ホラー映画さながらの佇まいに二色と如月が叫ぶ。当の本人は全く気にしていないそうで何も言わずバスケットを受け取ると温室天井のカーテンを閉める。無駄な動作が一切ない洗練された動きだ。
「それでは、お茶とお菓子をご用意させて頂きます」
下がろうとする彼女を真白が呼び止める。
「九十九はこの後学校あるよね? お茶は凰……いや、影に任せて行ってきな?」
(凰士朗って言おうとしてやめた…)
一瞬戸惑いを見せたが、結局は抗えず学校へ向かうことにしたらしい。
「行ってらっしゃい。気をつけてね」
その言葉に一礼して部屋を出ていく。
「彼女は組員じゃないすか?」
疑問に思っていたことを二色が口にする。問いかけに首を横に振った。
「彼女はこの間拾ったんです。トラウマを持ちながらも自分と同じような人を助ける仕事がしたいと言うので出来る限り支援しています。自立するようになれば独り立ちさせるつもりです」
既に誰もいない扉を見つめる目は母親のような優しさを持ちながらも若干の寂しさが滲み出ている。
「あれも少しは……」
呟いた言葉を詰まらせると扉がノックされ、返事を待たずに開けられる。大きなお盆に人数分のお茶とケーキを持ってきた青年。影ではないのは一目瞭然だ。わざと食器を鳴らしながら雑に並べられる。中でも臣の分は特段乱雑に置かれた。一言の挨拶も無いのは敵意のあらわしだろうか。変に隠さずに向けられるといっそ清々しいくらいだ。
「海、失礼な態度は駄目だよ」
「わかってる。ただ…」
何か言葉を飲み込んだ彼は「もういい」と半ば諦めの反応で肩を落とす。退室の際には臣を睨みつけながら去っていった。入れ替わりで笑いながら入室したのは凰士朗だ。
「何で海に持って行かせた? なんかカリカリしてるよ」
「悪い悪い」
全く心のこもっていない謝罪をしながら彼女にキャップの開けたペットボトルにストローを挿して渡す。
(彼も相当傷が深かったはず)
ナイフが刺さり多量の血液が出ていたはずだが目の前の彼は元気そのものだ。
「貴方の傷は治ったのですか? 深手でしたが…」
鵤の問いを聞いた彼は急にお腹を抱え痛そうに振る舞う。わざとらしい仕草をしているあたり、既に完治しているのだろう。
「大丈夫すか!?」
そんなわざとらいいのにも引っかかってしまうのが二色だ。人の言葉をそのまま受け取る彼を素直に尊敬する。
「凰士朗……そんな嘘つくから九十九達に嫌われるんだよ」
「そんな目で見ないでくれる!?」
残念な物を見るような目で見る彼女の一言で膝から崩れ落ちた。そして始まるのは嘘泣き。
「元々怪我なんてしてません」
「怪我はしただろ! 絆創膏貼ってたじゃんか!」
服を捲り見せた素肌には傷痕一つなかった。
「どういうことだ? 確かに刺さっているのをこの目で…」
目の前で女性に刺された彼を臣は見ている。ナイフは深く刺さり多量出血していたはずだ。
「相手を騙す為です。凰士朗が刺されたとなれば渡、もとい相楽が尻尾を出すのはわかっていました。だからわざと女性に激弱なのを教え、刺してもらったんです。体には防弾チョッキ、刺される場所には事前に血糊を仕込んだので傷は深くても薄皮一枚で済みます」
さも当然のように淡々と話す。何故事前に刺される位置がわかるのかなど思う所はあったが、一応理解する。それでも不明な点は残っている。
「あの時、全員銃は取られていたはず。それなのに彼は銃を所持していた。どうやって…?」
「それは簡単だ。陽が手当てしてくれた時あっただろ? そん時袖口にコンパクトな銃を流し込んでもらったんだ、あとは指示されたタイミングでそれを出して撃つだけだ」
手を銃の形にして撃つ仕草をする。
「怪我した人は抵抗できないと思っている人間が大半です。証拠に凰士朗だけは手を前で緩く縛られていました」
蛇沼組に見られている緊張感の中、そんな高度なやりとりをしていたとは…。心配と手当てはしていてもそんな事をしているようには全く見えなかった。
「そもそも! 教えてくれたらそんな回りくどいことしなくてよかったんじゃないの!?」
今までだんまりを決め込んでいた如月がやっと口を開いたが喧嘩腰なのはいただけない。鵤の大きなため息が横から聞こえる。
「では、彼女から渡が内通者だと聞かされたら貴方は信じましたか?」
「そ…れは…」
彼の性格なら信じないだろう。沈黙のはしる部屋の中で二色が一人ケーキを食べる咀嚼音と真白のストローを吸う音だけが響く。その時、扉が開き月城春が立っている。
「凰士朗。僕は貴方に仕事を頼んでいたはずです。ここで何をしているのですか?」
相変わらずの笑顔だが、圧を感じる言い方で怒っているのだと察せる。持っていたパソコンを彼女へ渡したあと、行きたくないと抵抗する彼を無理矢理連れて去っていく。
「じゃあ作戦の全貌をお話しします。何かあれば都度聞いてください」
嵐が去ったのを見送って、リモコンを操作すると温室のカーテンが全て閉まる。そこにプロジェクターであの日の建物の構造が映し出されるがそこには地下も存在している。
「前提として、私達とは別に豹李を筆頭にしたチームを用意してました」
豹李は最後に来た声の大きな陽気な青年だろう。プロジェクターに青と赤、黄色の点が表示される。
「青色が私達、赤色が別動隊です。更に地下にいる蛇沼組が黄色、女性達のいる場所をバツ印で表示しています」
「黄色の中でも王冠被ってるのはなんすか?」
二色が早速質問をする。
「これは蛇沼新です。わかりやすいようにしてます。ではまず、私達が潜入します」
彼女が片手でパソコンを操作すると青点が移動を始める。それは頭に叩き込まれた道順を進んでいく。
「扉の解錠を合図としてこの時点で蛇沼組が複数名動き出します。そして潜入しているチームに接触を始めます」
黄点が先回りで待ち伏せをし、あっという間に制圧されていく。そしてそのままオークション会場へ連れて行かれる。
「大体の人が捕まった時点で蛇沼新が動き出します。それとほぼ同時に豹李率いる別動隊を突入させます。地下へ続く扉はアナログの物だったのでここはピッキングをします。デジタルで管理されていないので気づかれることはありません」
黄色のキングが地下を出たのを確認してから赤点が一気に動き出す。瞬く間に地下は制圧され、女性のいる場所まで辿り着く。
「女性の保護を確認します。そのまま着替えを済ませた複数名で蛇沼新の後を追います。ここで最後に臣さんのチームが捕まり会場へ。その後すぐ蛇沼新も到着します。私の移動も余儀なくされます」
「少しいいですか?」
「どうしました?」
途中で口を挟むのは鵤だ。
「私達の捕まっていた場所には何名か蛇沼組が混ざっています。これはどうしたのですか?」
臣達以外の他チームを捕らえた蛇沼組は部屋にいるままになっている。これをどうしたのか。
「私が部屋に着き長々とお喋りしている間、蛇沼新の後方で密かに入れ替えを行なってもらっていました」
そう言うと映し出された画面には少数の蛇沼組が部屋を後にし、月城組の赤点が代わりに入室する。
「何か理由をつけて少しずつ呼び出し、気絶させ入れ替わったと聞いてます。そこは彼に任せていたので。入れ替わり完了の無線を聞いた私が合図となる言葉を言えばチェックメイトです」
言い終えた彼女は再度リモコンを操作してカーテンを開ける。急な光に目を細める。
「蛇沼組が逮捕されたとテレビで見た。あれは月城組がやったのか?」
蛇沼組はサツに捕まり、薬漬けになっていた女性達が保護されたニュースは翌日には流れていた。その後は芋づる式にオークションへ参加していた人間も一人残らず捕まったという。その情報に月城組という名前は出なかったもののタイミングといい、関係しているとしか思えない。
「そうです。月城組は警察の上層と繋がりがあります。今回の仕事も警察かた頼まれたのでやったまでです」
「なーんだ。結局サツの手下ってことじゃん」
如月がわざと挑発するような言い方をする。
「そう捉えてもらって構いません。こちらとしても利点があるから協力しているのですから」
安い挑発は相手にされず淡々に返される。
「最後に一ついいですか?」
いつの間にかケーキと紅茶を平らげた鵤が挙手をする。彼女は静かに頷く。
「何故渡が相楽だと気づいたのですか?」
その質問に臣は拳を握りしめる。六年共にいたのに気づけなかった不甲斐なさと仲間だと思っていた後悔の念に苛まれる。
「監視カメラからも見てたのもありますけど、実際に一度見かけた事があるんです。相楽に。人間って顔を変えても目つきや声、仕草に傷痕…変えられない所も多いですから」
真白は憂いた瞳で視線を落とす。頬には一筋の汗が流れ、顔色があまりよくない。二ヶ月もの間眠り続け一週間前に目が覚めたばかりなのだ。不調を隠し気丈に振る舞ってはいるが相当辛いはずだ。呼吸が乱れているのがその証拠だ。
「話はわかった。今後の事については月城春と話し合おう。俺達は退出します」
席を立ち上がり、退出を試みた時弱々しい声で呼び止められる。振り返ると真っ直ぐな瞳が臣を捉えていた。
「少し二人で話せませんか…?」
臣は真白に対し仕事モードの時には淡々と、プライベートの時には敬語で話します。
そうすることでオンオフを分けています。
次で最終話です。
楽しみにしていただけると嬉しいです。




