第11話 内通者
臣視点です。
※この作品は「カクヨム」様、「アルファポリス」様にも掲載させていただいています。
指定された道を通り中へと入る。行く先々の扉は白狐が解錠し、迷うことなくすんなりと入り込めた。普段使われていない様子の薄暗い廊下を進み、目的の場所へ続く道に出る。ここからは明るく照らされた誰でも通る所だ。だが。
(何かおかしい)
オークション最中だという点を含めても廊下に誰もいないのはおかしい。普通なら一人くらいいてもいいはずだ。そういう道を選んだのか。そしてこの寒さも異様だ。建物内にいるにも関わらず吐く息は白く、手もかじかんだまま。拭いきれない違和感と妙な不安感に襲われ足が思うように動かない。
「坊ちゃんどした?」
「藤堂さん? ここ左っすよ?」
二色と渡は何も感じないのだろうか。確認しようとした矢先。
「大変だ…!」
静かにしていた凰士朗が声を上げる。今までにない真剣な表情だ。
「どうした?」
「女の子が泣いてる!」
「………は?」
泣いている声など聞こえない。幻聴でも聞いているのかと思ったが、彼は一直線に走り出す。本来のルートから外れるのを制止しようと追いかけると暗がりの道で本当に女性が座り込んで泣いてた。
(オークションにかけられているという女性か? 逃げてきたのか?)
「お嬢さん大丈夫?」
いち早く彼女の傍にしゃがみ声をかける。先まで最後尾で面倒そうについてくるだけだったのにこの変わりよう…。呆れを通り越していっそ感心してしまう。
「男の…人達から…必死で逃げて…きて…」
どうやら白狐の情報通り、オークションに出される予定なのだろう。体を震わせ涙ながらに訴えているのを支える凰士朗は一見紳士的だが行動とは裏腹に鼻の下が伸びきっている。
「私…怖くて…」
真珠のような涙が頬を伝い零れる。そんな儚げな女性を彼は腕を回す。
(白狐に連絡しておこう)
予定にないイレギュラーが起きたため、臣は無線イヤホンの通信ボタンを押す。
「ぐっ…」
鼻の下を伸ばしていた顔が苦痛で歪む。そのまま倒れ込んだ凰士朗の脇腹にはナイフが根本まで刺さり流血している。苦しむ彼をみて白狐の忠告を思い出す。
(女性に弱いってこういうことか!)
「女に弱いなんて何の冗談かと思ったけど…。本当のようね」
「何故それを知っている」
この女は蛇沼組の人間だろう。まとめ上げた長髪の下に蛇が彫られているのが証拠だ。ヤクザなんて男社会だと固定概念に囚われて失念していた。女性もいるなら凰士朗は格好の餌だ。臣は彼女へ銃口を向ける。
「大丈夫すか!?」
凰士朗に駆け寄る二色だが、一人では抱えられそうもない。
「渡、手伝ってあげてくれ」
聞きたい事もある。この廊下は突き当たりで逃げられる場所もない。ここは凰士朗と女性を連れて一旦引くしか…。
「白狐。緊急事態だ。凰士朗が…」
状況を伝え撤退を試みた時、背中に押しつけられた硬い感触に言葉を詰まらせる。…これは銃口だ。
『藤堂臣。何が…」
無線イヤホンが外される。
「全員通信機外して銃も捨ててもらおうか。余計な事はすんなよ?したらお前らの大事な坊ちゃん撃つぞ」
そこにいつものおちゃらけた渡はいない。冷静な判断に冷たい声。まるで別人だ。臣が人質となってしまえば下の者も手を出せない。これは詰み、だ。背中に嫌な汗が流れた。
「渡、これはどういうつもりだ」
「とりま、坊ちゃんも銃捨ててついてきてよ」
女に銃を取り上げられ、渡に銃口を向けられたまま廊下を進む。そこは本来、臣達が通るはずの道筋だった。この廊下が何処に繋がっているのか、既に分かっている。辿り着くのは他の部屋とは比べられない程大きな扉。
「ようこそ坊ちゃん。オークション会場へ」
開けた先はこの建物内でひときわ大きな、元々目的としていた部屋。
「藤堂さん!」
そこにはオークション最中の様子は全くない。女も客もいない。代わりにいるのは手足を縛られた状態の鵤に如月。よく見れば月城組の面々も捕縛されている。いないのは白狐くらいだ。そして彼等に銃を向ける筋骨隆々に丸刈りの男。例外はなく臣を含めた全員が縛られ身動きのとれない状態にされる。
「渡! お前仲間売ったのか!?」
如月が縛られた手足をばたつかせながら問い詰める。その様子を見た彼の高笑いが部屋に響く。
「仲間? 俺とお前達が? はははっ! 違う違う!」
笑いながら話す彼は自身の首に手をかけ、皮を剥ぐ。正確には渡の顔だと思っていた覆面マスクを剥いだ。その首元には青い蛇のタトゥー。臣達が渡だと思っていた人物は蛇沼組幹部・相楽だった。
「俺の仲間は蛇沼新様ただ一人だ」
思えばおかしいと思った点はいくつも存在していた。すんなりと行きすぎた潜入に誰一人としていない廊下、寒すぎる建物内。しっかりと考えれば分かることだった。今日、この建物内でオークションなどしていない。渡という仮面を被った相楽が内通者として臣達の作戦を漏洩していたのだ。
「俺達の渡はどこすか!」
「渡なんて人間は初めからおらんよ」
入ってきた扉とは別の場所から入ってきたのは首の黒蛇が特徴的な男。蛇沼新だ。全身を黒スーツで包み、後ろに控える下っ端にも同じような格好をさせている。違う点といえば下っ端は全員帽子で顔が見えないようになっている事くらいだ。名前の通り蛇のような絡みつく視線で藤堂組と月城組の面々を見る。口角を上げて不気味に笑うと「ようやったな」と部下を褒める。
「渡っちゅーのはこの相楽や。藤堂組潰したろと思うて六年前から潜入させとったが…。月城組も釣れるなんてなぁ」
(どこかに隙はないか…)
嬉しそうに笑う蛇沼新。その周りに何かないか気づかれないように探す。この状況を打開しないと。特に凰士朗は重症だ。先から何も話さないのはもう危ないのかもしれない。
「大丈夫です。信じて助けを待ちましょう」
必死になって探す臣に声をかけたのは隣座る月城春だった。その声色は焦っておらずむしろ落ち着いている。
「助けと言っても…」
「随分余裕そうやな」
目の前に蛇沼新が迫っていた。「まあええわ」立ち上がり相楽へ無線イヤホンを要求する。それは白狐との通信に使っていたものだ。
「白狐やな? 早速やけど来てくれへん? でないとお仲間減ってまうかもな」
来ないと仲間を殺すと脅した後、足で踏みつけそれを壊す。白狐が来たところであの細い体で何が出来るんだ。
「ほな、少し待とうか」
笑顔を浮かべる彼は下っ端に用意させた椅子に腰掛けた。
関西弁をイメージして書きましたが、知識の浅いエセですのでご容赦ください。
難しいよお




