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ゲームマスターと星読みシステム


「ニケ様、いま助けますね……」


 うつ伏せのニケに寄り添っていくノアは、回復魔法を唱える。

 ひとまず、私もニケの傍に行こうかな。


 足元に魔方陣を展開して、ワープする。


「ううっ……見事だったな。シクスオのダンジョンマスターたちよ」


 起き上がったニケは、すぐに拍手を贈る。


「約束通りだ、ゲームマスターの座から降りる」


「あの……。ニケ様、わたくしはずっと探しておりましたのに」


 ノアの瞳からは、涙が溢れそうになっていた。

 ニケもまた、涙腺が崩壊しそうだった。


 ノアの顔から顔を逸らして。


「すまないな。こんな形での対話になってしまって」

「そんなことありませんよ。ノアはただ、ずっと心配して待っていましたから」

「現実世界を書き換えようとしていたのに、か」

「それは、ニケ様にきっと複雑な事情が何かあったのでしょう。相談ならノアにお願いします」

「相談できることでもないって思うよ。そうだろう、ネフティマ・システムズ」


「観測者としてお答えしても宜しいのでしょうか」

「ああ、構わない」

「では……この口から語りましょう」


 ネフティマは、地球とそっくりなオブジェクトを、手のひらの上に生み出した。


「私はシックス・スターズ・オンラインに組み込まれたプログラムの一部分です。この肉体は、召喚者が一番信頼における者の姿と瓜二つになるようになっていますが」


(それで、ティルティちゃんとそっくりだったのね……)


 ネフティマの見た目に納得した私は、コクりと頷く。


「そして、シックス・スターズ・オンラインには星読みシステムというものがあります」


(星読みシステム……? 聴いたことがない)


「要するに、このゲームのランダム性は、地球で物事が発生するのと同等クラスに値するんだ。初回ログイン時のスキル配布なんかが分かりやすいだろう」


 不平等、理不尽。そのあたりの表現につながってくるのだろうか。

 ニケが補足することにより、物事が理解できそうだった。


「ただ、全部がランダムで理不尽だと誰もこのゲームやらないだろうから。ある程度は好きなように矯正できるようしてある」


(矯正……。自由に、遊び……)


 私の心の中で、何か引っ掛かる。


 楽しいゲームは、そのゲームのルールに基づいて感じ取れるわけで。


「それを現実世界にも反映させようと目論んでいた。最初からではないが、徐々にそう考えるようになって」

「そんな理由で、ニケ様はノアの前から姿を晦ましたのですか?」

「そうなるな。ごめん」


 謝罪したニケは、ノアと顔を合わせた。

 その瞬間、ノアの瞳が赤色に染まっていく。


「別に謝らなくても……ノアは平気です」


 ノアはニケの首元に対して、口元を近づける。


「ノアがゲームマスターの座を引き継ぎます。だから、いまはちょっとだけ」


 ノアは吸血し始めた。ニケに対して。


 誰もが、回復魔法を使いすぎによるデメリットだということを理解していた。

 けど、敢えて止める必要もなかった。


 ノアの表情に、ほんの少しばかり安らぎを覚えたからである。




 *




「不屈の金剛石には申し訳ないけど、その選択肢では現実世界を救えない」


 理不尽な回答をしてきたのは、女神ネフティマだった。

 出現している地球のオブジェクトが、徐々に黒色へと染まっていく。


「ネフティマちゃん、どういうことなの?」


「平穏な現実世界を観測できる選択肢はひとつだけ。一応だけど選択肢は、二つある」

「ノアちゃんをゲームマスターに任命するということ?」


「それが一つ目。不屈の金剛石がゲームマスターから身を下すまでは、現実世界への進行を食い止める保証があるというもの。それで、二つ目というのが、パルトラさんをゲームマスターに任命した上でシックス・スターズ・オンラインの世界に幽閉することよ」


「私を、このゲームに幽閉……?」

「そうよ。このゲームを壊すという三つ目の選択肢もあるのだけど」

「たぶんメリーロードさんがしようとしていたことですよね……」

「三つ目の選択肢を選んだらどうなるかも教えましょう。現実世界に、このゲームで作られたダンジョンが出現する。モンスターが暴れだして、やがて人類が滅亡する未来が訪れる」

「あっ、やっぱりそうなっちゃうのですね」

「既にメリーロードの人格は、この世界からも消えてしまったけど」


「ふむぅ、そうですか……」

「パルトラさんは世界をどうしたい? どうあるべき?」

「うーん、ネフティマちゃんからいきなり言われると難しいのだけど」


 私はただ、このゲームのダンジョンマスターとして、これからも楽しくダンジョンを製作をしていきたい。

 それができる限り末永く、可能ならば永遠に続いてほしいと思った。


「よし、決めた!」


 私はネフティマにお願いをする。


「私はこのゲームの神様にだって、なんだってやってやる。だから……ネフティマちゃん、これからよろしくね!」

「いいの? パルトラさんは、ログアウトしても狭間の世界に身を置くだけになるけど」

「それでも構わないから。あの泉のことも、とっても気になるし」

「時間の概念がないのよ? 流石にメンテナンス中は時の流れを感じることができるけど」

「やっぱりネフティマちゃんって、あそこに住んでいるの……?」

「……!?」

「図星かな? まぁ、どっちても構わないけど」


 これから起こりえることは、できる限り私が受け止めたい。

 そんな気持ちが、私の中に芽生え始めていた。


「パルトラちゃん、お話が終わった?」

「もう終わりましたよ。……セレネさん、どうしたのです?」

「交友会の続きのことだねー。この後はどうするのかなーって」


「その、生配信です……。ノアが裏方様に頼み込んでいたとはいえ、どう折り合いをつけようかと思いまして」


 先ほど行われていたオブスタクルでの戦闘が、全世界に流されていた。

 コメント欄には『このダンジョンマスターたちと本気で戦ってみたい』などという言葉が飛び交っていた。



 本来のシナリオの最後まで行くとダンジョンマスター三人と冒険者たちが戦闘する機会があるとはいえ、用意していたシナリオへと軌道修正させるための演技なんて、できっこない。


 ひとまず、予定していたイベントの期間内は監獄塔のマップをフリー探索可能な状態にして、冒険者同士の仁義なき戦いを自由に楽しんでもらうことにしよう。


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