交友会の二日目
翌朝、三カ国ダンジョンマスター交友会の二日目が始まる。
本来ならば、用意したシナリオ通りに演技をしてから、新たなエリアの開放をするはずだった。
しかしながら、私がニケに送り付けた文章によって事実上ストーリーが破綻したのである。
そこには、二つの大きな要因がある。
一つ目は女神ネフティマがシクスオのシステムによって、自我を持った観測者として現れたこと。
二つ目はニケの目的について知ってしまったから。
それでも、セレネとノアは、約束の時間通りにログインしてきた。
「パルトラ様、昨夜の文章の意味をノアたちに教えてください」
「そうだよねー。昨日、本当は何があったの?」
私は二人から、容赦ない押しかけに遭っていた。
「そ、それはですね……」
苦笑いしそうな私は、女神ネフティマに向けて視線を逸らす。
「観測者である私が全てを語ることは出来るけど」
「それは駄目ですね。ノアは、パルトラ様の口から聞きたいのです」
「そうだねー。しっかりと反省の意味も込めて!」
「はい。すみませんでした」
私はほんの少し、頭を下げた。
そして、すぐに二人の顔に視線を向ける。
「召喚された女神ネフティマから、いろいろ教えてもらいました。ニケを放置すると、やがて現実世界はシクスオの世界に飲み込まれる」
「ふむふむ。ニケ様がそんなことをするはずが、と思いたいのは山々ですが……」
ニケのことに関して深く考え始めたノアは、どことなく不機嫌そうになった。
「ニケ様から、メッセージが返ってきています」
「どんなメッセージですか?」
「勝負を引き受けます。正午に監獄塔の出入り口に立つので対戦よろしくお願いします。だそうです」
「ニケさんの野望、絶対に止めるよ」
「あとは、補足がありますね。ニケ様と、スペードの二人での出陣になるそうです」
「つまり三体二になる、ということかな。私たちが多い……」
「数ではこちらが優勢ですね。スペードって枠空いていたはずですけど、いつの間に埋まったのですかね」
「ノアちゃん、それは……何でもないです!」
「パルトラ様?」
ノアが首を傾げて不思議がったが、その内理解することだし後回しで構わないと思う。
それよりも、こちらの作戦を決めないといけない。
セレネは現在の監獄塔の様子を気にしていた。
「パルトラちゃん、ダンジョンに潜っている冒険者は昨日よりかなり多いですね」
「それは二日目ということもあるかも……」
「ノアがうっかりミスであげちゃった影響だったら、ごめんなさい」
「ノアちゃん……それはないと、私から言いたい……」
「パルトラ様、ありがとうございます」
ノアが可愛げにお辞儀をした。
その姿をみた私は尊死しそううな気分に、一瞬だけなった。
可愛い。それに尽きる。
それはさておき、作戦をちゃんと決めないと。
そういえばダイヤの姿はないけど……って、ひとりで採取場所の作成を楽しんでいるだけだったか。
ダイヤは状況にお構いなく、ダンジョンに自由に手を加えていっている。
「今から新たなボスモンスターを作るのも面倒だし、二つ目のステージで直接対決ってどうかな?」
私からの提案に対して、二人は何度も縦に頷いた。
「ネフティマちゃんも、大丈夫?」
「観測、するまでもない。その話に、乗ってみよう」
「よしっ。ネフティマちゃんも加わったことだし、迎撃の準備をしましょう!」
早速だけど場所移動をする。天翔る銀河の創造天使の力を用いれば、ワープで一瞬だ。
*
予定されていた時刻通りに現れたニケは、フィースペードを連れて監獄塔の中を歩き始めた。
「おっ、レアスキル持ちか。やれっ!」
監獄塔の通路には、シクスオを楽しんでいる冒険者がたくさんいた。
そして、他のプレイヤーを容赦なく襲う理由は、当然レアアイテム狙いである。
それはたとえゲームマスターのニケであっても、同じように襲ってくる。
「ふっ、遅いなっ」
ニケはもろともせず、冒険者をなぎ倒していく。
ニケの手に持っていたのは、細い指揮棒のようなもの。
それに叩かれた冒険者は、一瞬で肉体がバラバラにされてリスポーンしていた。
この能力は、私たちダンジョンマスターにとっても未知数の強さであることは理解できた。
強いて言えば、フィナに対して使用した『化身分解』と性質が似ているのかもしれない。
一方でフィースペードは、片手剣を持ってニケの後ろをついていくだけだった。
まだ意識がしっかりしていないのか、歩く姿にややふらつきがあるように見える。
それはまるで人形のように。
フィナ……。私の知っているフィナは、もういないの?
心の中で問いかけても、おそらく無駄だろう。
ダンジョンの様子を映し出す画面を見つめながら待機している私は、呼吸が荒れないように両目を閉じた。
この戦いが終わったら、なんて考えない。
とにかく意識することがある。
ニケに対して、私たちダンジョンマスターが作り上げたもの。
ダンジョン製作の楽しさの気持ちをぶつける。
ただ、それだけだ。
「私の前に現れて、エグゼクトロット!」
エグゼクトロットを取り出した私は、重めの瞼を開けて立ち上がった。
私の目の前には、オブスタクルが設営されている。
そして、豆粒程度ではあるものの、ニケとフィースペードの姿が見受けられた。
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