最も単純に運命を歪ませる方法
「ネフティマちゃん、ひとつ質問を良いですか?」
「どうぞ。私は貴方にすべてを答える義務がある」
「ネフティマちゃんが私に求めていることは、何ですか?」
「運命の軌道修正。パルトラさんは、シクスオの神様になる素質がある」
「もし私がすべてを放棄すると言ったら?」
「それもまた運命。観測者は破滅していく現実世界を静かに見届けるだけ」
「ふむぅ……」
ネフティマが黒という説はなくなったか。
心の片隅で疑ってごめんなさい。
女神ネフティマはあくまでも観測者。
感情エネルギーを集約させたオブジェクトを、別の何かに作り変える意思なくしてネフティマが生まれたのは、偶然に近いのかも。
もしかして、私に情報を出しているのは、自身が直接関与出来ないということなのかもしれない。
でも、私だって同じだと思える。
たとえシクスオで神様レベルの存在になったとしても、運命を変える力があるとは到底思えない。
「観測。なんとかして、運命を変える方法を探している?」
「ネフティマちゃんはどうすれば良いか知ることが出来ますか?」
「観測不可。私が観測できる未来には、そんな方法が存在しません」
「ふむふむ……。ネフティマちゃん、ありがとう」
「……?」
「私、わかったよ」
進めるべき道が見えた気がした。
ネフティマの未来観測をもってしても、たどり着けない答えを。
答えと呼んでいいのか、それはやってからでないと、誰にもわからない。
「ネフティマちゃん!」
「パルトラさん、どうされましたか?」
「えへへ……えいっ!」
勢いをつけた私は、ネフティマの口元に右手を突っ込んでいった。
「むむ……!?」
ごくりっ。ネフティマは唾をのんだ。
「いきなりごめんね。でも、これしかない気がした」
私は、とあるモノを飲ませていた。
それは、フィナが持っていたスキルが詰まっている白い水晶である。
「はいっ。月光の処刑人、使ってみて!」
私はネフティマに頼んでみた。
といっても、これをやったところで後のことは手探りだけど。
「パルトラさんがそう申し出るなら。スキル発動、月光の処刑人っ!」
ネフティマがそう宣言すると、ネフティマ自身の服装が変わっていった。
首が少し隠れるくらいの紫色のマフラーが出てきて、両腕には闇に溶け込みそうな黒い腕輪が付いた。
「観測者が、新たな固有スキルを獲得ですか?」
「ちょっと強引だけど、観測者を降りてもらうよ。完全に降りてもらってしまったら、私もたぶん困るんだけど」
「観測者でありながら、処刑人にもなれということですか?」
「私自身も、いろいろ知ってしまったから、シクスオの神様になっちゃうかもね。ただのダンジョンマスターは辞める気なんてこれっぽっちもないけど」
これでお互い様だ。
ただ、意識が変わったことがある。
それだけじゃない。三カ国ダンジョンマスター交友会を通じて、どうしてもやりたいことが新たに増えたからだ。
「まずは、ノアちゃん達がいるところへ行くよ!」
私の意識を向けると、すぐにノアとセレネが待っている部屋にやってきた。
ネフティマを一緒に連れて。
「二人とも、お待たせしました」
ノアとセレネに顔を合わせた瞬間、時間が通常通りに進んでいった気がした。
「お待たせ……? わたしたち、はぐれてないよ」
「そうですね。夜も遅いですから、イベント進行の続きは明日に……って、そちらの方は?」
ノアは、ネフティマのことが気になっていた。
「そんなことより、お願いしたいことがあって!」
私は、ノアに頼み込むことにした。
「ニケさんに、メッセージを送って欲しいの。すべてのユーザーさんにも全体公表で」
「すべてのユーザー様と、ニケ様にですね。わかりました」
ノアは素直に承諾してくれた。
さて、ここからが大事だ。
「えっとね……」
『親愛なるニケ様へ。突然ですが、世界の命運をかけた仁義なき戦いを我々としましょうか。女神ネフティマ様という観測者を通じて、我々は知ってしまいました。これからニケ様のしようとしていることに失望しました。現実世界は、現実世界であるべき。シクスオの世界は、シクスオの世界を築き上げるべきだと思います』
『ルールは至って単純です。ニケ様を含めた代表三名が監獄塔を攻略して、我々ダンジョンマスターの代表三名をリスポーンさせたら、ニケ様の勝ちです。我々は引き下がり、シクスオの世界に飲み込まれる現実世界の未来を委ねます。但し、我々が勝てば、ニケ様はゲームマスターの座から降りてもらいます。ただ一つだけ忠告です。我々は、ニケ様の弱みを握っています。それを公表すれば、さぞかしニケ様の評判は落ちるでしょう』
これでよし。
後は明日、ニケと勝負だよ。
「こ……これは、なんですか……! パルトラ様っ……!」
ノアは口をポカンと開けて、今にも高出力の電気レーザーでも放ちそうだった。
そんなノアの手元をよく見てみると、丁重に音声読み上げソフトを使って読ませた上に、外部サイトで生配信までしてしまったご様子。
これは後で炎上すること間違いなし。
ニケに会いたがっていたノアには、悪いことをしちゃったのかもしれない。
「事情は今から話せば理解できるかもしれないけど、明日でも大丈夫そう?」
「ふえ……っと。パルトラちゃんの文章、面白そうだけど明日で大丈夫だよー」
「同じく、明日にしてください……」
あっ、これは。
二人には、メンタル面で重く負担がのしかかってしまったのかもしれない。
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