明かされる世界のヒミツ
やや気温が低いのか、秋晴れにありそうな肌寒さを感じられた。
私は薄紫の吊りワンピースに、背中から天使の羽が生えている状態だからかもしれない。
いや……たぶん違うのかも。
この空間そのものが異常だと捉えたほうが正しいのか?
シクスオの中では、魔法で熱い寒いを感じるが、気候による変化までは伝わってこないようになっていたはずだ。
「ネフティマちゃん、ここはどういった場所なの?」
「ここは、なんでもない場所。現実世界とゲームの世界の狭間と呼ぶべきかもしれない」
「境界線みたいな、狭間の場所?」
「貴方が首を傾げても意味はない。だから、少しずつ、すべて教えてあげる」
ネフティマは、私の周囲に幾つかの画面を出してきた。
そこには、シクスオの世界で遊んでいるプレイヤーの様子が映っていた。
だが、それだけじゃなかった。
「これは……」
オブスタクルを設営している、私にとってとても馴染み深い庭の光景が目に入る。
「どうして、現実世界の光景が」
「よく見てみなさい。生き物が動いていないでしょう」
「うん。確かに」
ネフティマの言った通り、映し出された画面に動きが見受けられなかった。
これはいったい、どういったことなの?
「この空間は、時間すら超越している」
「時間の概念が違うのかな?」
「そう思ってもらって構わない」
ネフティマは、次なる画面を出してきた。
そこには、お面を外しているニケがいた。
両手にフィナを抱えて。
「これが元凶」
「ニケさんが、ですか?」
「うん。この世界には甚大なるエラーが発生する。それを作り出そうとしているのが、この方なの」
「どうして、そんなことが分かるのですか?」
「女神ネフティマは本来、観測者という設定が入っている。だけど、星読みシステムも搭載されているのよ」
「星読み……」
「すぐに理解できなくても、別に構わない。でも、私は教えなくてはいけない。ヤジョウツバサ、貴方には知る権利があります」
「私の本名が、なんで……」
「ごめんなさい。貴方が普段から使用しているスマートフォンの端末内に書いてあるのだから」
「むっ……。一応だけど、私のことはパルトラって呼んでほしいです」
「では、パルトラさん。これから起こる現実世界の未来について教えます」
「はい。よろしくお願いします。……現実世界の未来ですか?」
「そうよ。そう遠くない未来、何もしなければ現実世界はシクスオの世界に飲み込まれるわ」
「現実世界が、シクスオの世界に飲み込まれる……?」
「原因となる根源は、シクスオの次回のアップデート」
「次回のアップデート……」
それは、ノアが緊急会議をやっていたことだ。
ノアもまさか、ニケの……。
「それは違うわ。不屈の金剛石さんは、単にお人好しすぎるのよ。多少の引っ込み思案があれども」
「よかった。ノアちゃんまで加担していた思うと」
「残念ながら、加担していることに間違いないわ。当人に自覚がないだけど」
「そうなんだ……ダイヤちゃんが番号で呼んでるから黒だったのかな」
「アルカナダイヤが番号で呼ぶことと、原因となる根源との関与は全くない」
「えっと、違うの?」
「アルカナダイヤが番号呼ばわりしているの、あれは開発チームで与えられたパソコンの割り振り番号だから」
「パソコンの割り振り……?」
「ハートが1、スペードが2、クラブが3、ジョーカーが4、不屈の金剛石が5、ダイヤが6、ゲームマスターが7」
「そうなんだ……。ダイヤちゃんが関係ないと聞くと、少しだけ心が休まったというか」
「観測。運命が少し揺らぎそう」
「どうしたの?」
「こうやって、貴方がもっと知ることで未来を変えられる道筋を作れるかもしれない。未来を変える決定打を作れるのは、現状では貴方次第なのよ」
ネフティマが持つ翠玉の瞳が、ほんのり光った気がした。
「わかった。ネフティマちゃんの期待に応えられるよう頑張ってみる」
これから聞かされることは、暗い未来かもしれない。
でも、不安な感情は抱かなかった。
どうしてかは、わからないけど。
「次回のアップデートによって、シクスオの世界が現実世界に干渉し始める序章になることは間違いない」
「現実世界に干渉しだしたら、どうなっちゃうのかな」
「突然道路からモンスターが現れたり、ダンジョンが出現するでしょう。そして、人間は死という概念を忘れてしまう」
「死ななくなるってこと? シクスオって平穏だけど」
「そのシステムのせいで、現実世界にある生命体にエラーを引き起こすのだから」
「エラーですか……」
「もしも、シクスオのシステムが現実世界と合併したらどうなるか考えてみなさい」
「どうなるのです?」
「数か月以内に、世界は変わり果てる。与えられた生命活動期間の中で、自由に戦い続ける世界へと豹変して、やがて何も生まれなくなる。外的要因で人間は死ななくなるから、遠からず現実世界の自然循環は間違いなく壊れてしまう」
「ふむふむ。その世界線、例えばだけど寿命が決められちゃうってこと……?」
「その認識で問題ない」
ネフティマが見ていた未来は、シクスオが地球を乗っ取るというもの。
ざっくり捉えると、そんな感じなのだろう。
「それじゃあ、フィナは……」
「彼女はもう死期を迎えたわ。彼女によく似た存在、フィースペードというものは、彼女の器に入り込んだ別のAIになる」
「それはもう、別人だね……」
「パルトラさんは、落ち込まないのね」
「どうしてだろう。私は、なんで落ち込まないのですか!」
「それは、わからない。けど」
ネフティマはため息をつく。
「次に話すべきは、メリーロードについて」
「メリーロードさんですか?」
「ええ、そうよ」
「ど、どんなことですか?」
「メリーロードは、シクスオが現実世界を乗っ取る未来を知っていた。知っていて、あらゆる手段を尽くしてシクスオの世界を壊そうとした。もっとも、失敗したみたいだけど」
「失敗……ですか……」
それには、私にも心当たりがある。
だって、この手でメリーロードを倒したのだから。
急に私自身のことが、怖くなってきた。
これから、どうなっていくの?
このままでは、わくわくした楽しい未来をを描けない?
皆で楽しくダンジョンで遊ぼうという機会を与えてくれている三カ国ダンジョンマスター交友会でさえ、まだシナリオの折り返し地点というのに。
私って、どうしたら良いのかな……。
「少し落ち着いて、もう少しだけ聞いてもらえる?」
ネフティマは至って冷静でいた。
私の両手がとても震えています。
「うん、お願い……します……」
激しく震えさせながらも、私はネフティマと顔を合わせていた。
ネフティマが伝えたいことってなんだろう。
「観測。貴方には、現実世界の運命を決める生殺与奪権が与えられるかもしれません」
「えっ……私が、ですか?」
ここまでネフティマの言葉を聞いてきて、薄々感じていたけれど。
私が運命の一翼を担え、ってことなのか。
ここの謎空間、なんだか神様の居場所みたいな雰囲気があるし、私自身が持っている鋭い直感が正しければあながち間違いなくて。
お読みいただき、ありがとうございます!!
面白いと思いましたら、感想、ブックマーク、評価をお願いします。作者の励みにもなるので何卒よろしくお願いします!!!