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癒しのエネルギーを集めよう


「癒しといっても、実際には毒なのですけどね」


 ノアは両手を広げると、青い魔方陣を展開していた。

 これから作成されるモンスターは、殺意こそないとはいえ、冒険者にとっては厄介なこと間違いない。


「それじゃあパルトラちゃん、わたくし達も動きましょう」

「シナリオ通りに……そうですね」


 私はセレネと一緒に、冒険者が群れる監獄塔の通路へワープした。


 そこでやることは決まっている。

 ノアが準備に取り掛かっているボス部屋への誘導をしながら、反逆する者をリスポーンさせることだ。


 そして早速、男の冒険者を発見した。


 声を掛けてみよう。

 ただ、セレネと位置を分担させるので、基本的には単独行動となる。


「もうすぐ女神さまの完全復活の時が訪れます。大人しく、ある部屋へ向かってください」

「あっ……? なんだお前は」


 片手剣を持った男の冒険者が、その場で振り向いて私と顔を合わせる。


「私は魔王の器です」

「魔王の器?」

「そうです。冒険者は大人しく、ある部屋へ向かってください」

「そうだな……嫌だと行ったらどうする!」


 男の冒険者は、片手剣を強く握りしめて急接近してくる。


「出てきて、エグゼクトロット」

「がはっ……」


 男の冒険者は、両ひざを地面につけた。

 私が投げたエグゼクトロットが、男の冒険者の腹に突き刺さっている。


「ごめんなさい。いう事聞かない冒険者はリスポーンしてね」


 宿れ、炎の球体――。

 心の声で唱えると、炎が現れたのでさっさと解き放った。


 これで目の前の冒険者はリスポーンした。

 あとは、この危険性を周知した冒険者は危機感を覚えてあの部屋へ向かうだろう。


 ここでの男冒険者とのやり取りは、イベントスチルとしてゲーム内のプレイヤーに直接配信される。

 シクスオの運営が裏方として絡んでいるからできる手法というしかない。

 ひとまず、この場で二人と画面をつなぐ。


「セレネさん、ノアちゃん、こちらは終わりました」

「わたくしのほうも片付きました。ノアちゃんはどうかな?」


「ラ、ララ、ラ――」


 ノアはこちらの無向きもせず、なにかを歌っていた。


 代わりといっても良いのかわからないけど、ダイヤがこちらの声に気が付いていた。


「ノアちゃんは何しているの?」

「五番さまは、精霊歌を唄っているの」

「精霊歌ですか?」

「これぞ、まさしく癒し!」


 セレネは何故か感激していた。

 一応、セレネが主体となってシナリオを描き下ろしているはずなんだけど。


「わたくしたちも行きましょう。癒しの部屋に」

「えっと、そうですね」


 私はセレネの言葉に乗った。

 シナリオ進行を考えるなら、四つのエネルギーを回収し終わった後の部屋に待機しておくのがベストなんだけど。


 聴きたいのかな、ノアの精霊歌を。

 部屋そのものには、ワープしてすぐにたどり着いてしまうのだけど……。



       *



「ラ、ララ、ラ――」


 冒険者が集まりだしている癒しの部屋。

 その中央付近に設営されたステージの上でノアは歌っていた。


「パルトラちゃん、あのステージの上に乗っている六つの石像があるんだけど。あの石像たちが、シクスオの国名にも入っている大精霊ですよっ!」

「シクスオの国名が大精霊……?」

「うん。そうだよ」


 セレネが指をさして、丁重に教えてくれた。


 フェニクル。


 アクエリア。


 ベフュモ。


 トルード。


 セラフィマ。


 オシリス。


 全部で六種類いる、シクスオの大精霊。

 アレイが、スカウト出来ないと言っていた存在だ。


「パルトラちゃん、どうかした?」


「いえ、この後ってどうするのかなーって」

「この後は、毒でみんなリスポーンしちゃうかもですね」


「天井近くに設置してある癒しエネルギーは、もう溢れてます」

「それじゃあ、わたくしたちでオブジェクトの回収だね」

「はい、さっそく行きますね」


 私はワープして、オブジェクトの回収をする。


「回収終えました」

「それじゃあ」


 セレネは、手を挙げてノアに指示を送る。

 それを見たノアは、歌うのを止めた。


「獄中の皆さん、お集まり頂き本日はありがとうございます! 感謝の気持ちを込めて、今からささやかなお礼ですが」


 ノアが満面の笑みをみせると、この部屋にいた冒険者が次から次へと倒れていった。


 何が起こったかというと、尊死である。

 厳密にはノアが生み出したバクテリア系のモンスターが冒険者に寄生して、癒しの感情を高ぶらせていった。


 あとは簡単。この部屋にだけ施されたギミックだ。

 癒しエネルギーの放出量に応じて、リスポーン判定を組み込むだけ。

 これにより、癒しエネルギーの回収をしながら冒険者を倒すことができる。


 ひとまず、ステージの上に三人集まろう。


「ふぅ、これで四つのエネルギーを集め終わりましたね」


 疲れが溜まっているはずのノアは、まだ休みたがってない様子だった。


「ノアちゃん、大丈夫?」

「パルトラ様もみてられたのですね。ノアは平気です。次のイベントまで進めようと思いまして」

「時刻的にも、ここでしちゃいます?」

「セレネ様、そうですね。女神ネフティマの活性化までシナリオを進行させて、続きは二日目にします」


 ノアは、クリスタルの形をしたオブジェクトの三つ出した。


 恐怖、笑い、憎悪、癒し。

 オブジェクトには、それらのエネルギーが溜まっている。という設定である。


「さてと……」


 ここからのシナリオ進行は、私の出番が増える。

 ノアもセレネも、用意されたシナリオを楽しんでいた。


 ここまでの流れ、私もそれなりに楽しめていたと思う。

 心の片隅では、特にフィナのことで何かと引っ掛かる部分があるのだけど……。


「魔王の器として、仕事をしよう」


 私は、四つのオブジェクトを一つに束ねた。

 オブジェクトは重なり合って、虹色に輝いていく。 


「女神ネフティマを活性化させる」


 オブジェクトに手を触れてから、私はスキルを発動する。


「行きますよ、天翔る銀河の(アンドロメダ)創造天使(クリエイト)!」


 これで私の衣装が変化して、女神ネフティマが登場する。

 見せかけの演出。そのつもりだった。



「観測、感情の乱れ、は……問題なし。但しこの世界に甚大なるエラーあり、星読みの器を起動します」

 

 メリーロードが表に出てきたかと思うと、メリーロードらしくない口調で言葉を発していた。

 それだけじゃない。メリーロードが集約された感情エネルギーのオブジェクトに触れると、私の視界が白色に染まっていった。




       *




 気がつくと、私にとって容姿に見覚えのある少女が目の前にいた。


 毛先にやや赤みがある藍色の長い髪に、翠玉の瞳。そこに軽やかな瑠璃色のワンピース。

 不意に、あの悔しい記憶も出てきそう。

 この少女は、ティルティちゃんそっくりである。


 それ以上に気になったのは、周囲の光景だった。


 透明度の高い泉があって、空色の壁があり、たくさんの丸いオブジェクトが宝石のようにキラキラと輝いていた。


 丸いオブジェクトをよく見てみると、私が天翔る銀河の(アンドロメダ)創造天使(クリエイト)の発動時に何度もお目にかかった、各ダンジョンのモデルだった。


「あれっ、ここは? ノアちゃんとセレネさんはどこ行ったの? というか誰なの?」


「質問が多い……」


 呆れ顔をされた。

 でも、すぐに真顔になって。


「私は、女神ネフティマ。正確には、シックス・スターズ・オンラインに組み込まれている自社製AIによる自動生成ツールによって生み出された、まがい物と呼ぶべきでしょう」


「ネフティマちゃん……まがい物……」


 なるほど。まったく話が読めない。

 今のところ、ここがネフティマとの二人っきりの謎空間であることだけを、把握していた。


お読みいただき、ありがとうございます!!


いよいよ物語の終盤(第三章の完結)に差し掛かって来ました。

終わりが見えてくると寂しく思っちゃいます。

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